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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 曾祖父への誓い
 
 
 
 上野駅で新幹線を降りてから、電車を2回乗り換えて、さらに20分山道を登る。
 そして見えてくる古い2階建て木造瓦屋根の家が真白 雪白(ましろ・ゆきしろ)の実家だ。そしてそこは、雪白が3歳の時に契約してから一緒に暮らした、真黒 由二黒(まくろ・ゆにくろ)の家でもある。
「ここが真白っちの実家なんだぴょん?」
 地球に来てからずっと、サングレ・アスル(さんぐれ・あする)は興味津々にあちこちを見て回っている。百聞は一見にしかず。知識収集も兼ねて楽しむつもり満々だ。
「真白の実家ボロだっつったのに……」
 アルハザード ギュスターブ(あるはざーど・ぎゅすたーぶ)はモンまでついた大きな家を前に、自分が入っても良いのかどうかためらったが、雪白はそんな思いも知らぬげに、ガラガラと音を立てて玄関を開けた。
「ただい……」
「うぇるかーむっじゃぽーん!」
 雪白が帰言い終える前に、着物姿の家族が総出で挨拶する。地球では見慣れぬだろうドラゴニュートのギュスターブに対しても、悪魔のサングレに対しても、家族が向ける笑顔には変わりない。
「さすが真白の親族、器がでけえのは血筋だな」
 自分の心配は杞憂だったと、ギュスターブが胸をなで下ろしながら言うと、雪白の方は肩を揺らして笑っている。
「そういう歓迎、なんか違う!」
 ひとしきり笑うと、雪白は目尻に浮かんだ涙を拭った。
 
 
 家に通されて自己紹介が終わると、早速歓迎の宴会が始まった。
 真白家で用意した宴会料理、ギュスターブが手みやげとして持っていったシャンバラの酒等がふんだんにふるまわれる。
 最初は家族だけだったはずの宴会が、いつの間にか隣近所、遠くの親戚、亡くなった雪白の曾祖父の軍関係者までが集まってきて、広間にひしめき合う。田舎ならではの歓迎風景だ。
 宴会に出てきた鰈の煮付けはいつものように甘すぎたけれど、その懐かしさに由二黒はほっと息を吐いた。
 歓迎の宴会とは呑んだくれおやじの集まりか、とぼやいていた男嫌いなサングレだけれど、宴は宴。飲んで食べて楽しんで、
「歌います! 聞いて下さい『葦原岬』」
 マイク片手にこぶしを回せば、やんやの喝采が巻き起こった。
 
 酔いつぶれかけているギュスターブ、なんのかの言いながらも宴会を楽しんでいる様子のサングレを横目に、由二黒は台所で片づけの手伝いをしていた。次から次へと皿が空けられるから、洗い物も料理の追加もきりがない。雪白の母からは、休んでもいいよと言われたが、由二黒自身が地球に帰ってきたときぐらいはお手伝いしたかったのだ。
 けれど宴会は除夜の鐘が鳴る頃になっても、終わる気配はなかった。
 ギュスターブも酔いつぶれているし、そろそろ寝ようか。
 そう思って皆の姿を探した由二黒だったけれど、そこに雪白を見つけることは出来なかった。
 雪白がどこに行ったのか、場所の見当はつく。
 由二黒は酔いつぶれているギュスターブを揺り起こし、騒いでいるサングレにはケリを入れて大人しくさせると、2人を連れて離れの部屋に行った。
 案の定、雪白は仏間にいた。
 線香の煙はまっすぐに立ち上り、雪白の身体は微動だにしない。神妙な雪白に話しかけられず、サングレは窓の外を眺めた。サングレには知らないことばかりだ。地球のことも、自分の契約者のことも。

 
 雪白は仏壇と向き合って座っていた。
 雪白の家は曾祖父の代まで軍の家系で、曾祖父はそれは立派な軍人だったという話は語り手を変えて物心ついた時からずっと聞いてきた。
 けれど雪白は曾祖父のことを写真でしか知らない。戦争も知らない。
 生まれた時から平和で、太平洋上にはパラミタが浮かんでいた。
 だから雪白はパラミタに渡った。契約により人外の力を手に入れ、兵となり悪を断ちこの地に安寧秩序をもたらすのだと。
 けれどそんな雪白の見込みとは裏腹に、シャンバラは東西に分かれ、悪党でもない同じ学生たちと争わなくてはならなかった。自らの志が伏魔殿のなかで腐りかけたこともある。
 それでも、ひとつ。
 自分の功績ではないけれど、シャンバラが統一された。
「ひいじいちゃんが作り出した平和を、他の場所へつないでいくよ。ワタシがんばるからね」
 誓いをこめて雪白はシャンバラ独立記念コインを曾祖父の写真の隣においた。
 と、その隣に同じコインが置かれる。
 いつの間に来ていたのだろう。雪白の隣で由二黒がコインを供え、仏前に手を合わせた。
「あんまり動かないから、チャネリングでもしているのかと思ったぜ」
 ギュスターブもいて、そして窓際にはサングレの姿も。
 皆の姿に雪白は笑顔を向ける。

 ゴォォーン…………。
 遠くで除夜の鐘が響いた――――。