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リアクション
護りたいものが在るならば
この前夏の帰省をしたばかりのような気がするのに、気づけばもう年の節目。月日が経つのはこんなに早いものだったのかと改めて思いながら、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は実家に帰ってきた。
母としても、顔を見せておいた方が安心できるだろうし……と玄関を開けようとした時。
「……?」
頭の上から物音がする。
何だろうと見上げた途端。
どさっ。
空から女の子が! ……ではなく、母の如月 香澄が降ってきた。咄嗟に受け止めたものの、一体どうしてこんなことになっているのか。
「オカン、ちょっと何やって……」
「おお佑也お帰り。元気そうだな」
「……お姫様抱っこ状態でそんなこと言われても」
「ならばさっさと下ろすが良い」
「はあ……」
何か聞くにもこの体勢ではあんまりだ。取り敢えず、佑也は香澄を下ろした。
「実は屋根の修理をしていたらムササビを見つけてな。追いかけていたら落ちたんだ。だが、しっかり捕まえたぞ、ほら」
得意げに母は捕らえた生き物を見せてきたけれど。
「何やってるんだか……っていうか、それムササビじゃなくてモモンガだよ。サイズが違うだろ」
「そうなのか?」
香澄はモモンガの飛膜を広げ、しげしげと眺めた。
帰ってきた早々にばたついたけれど、その後は佑也はゆっくりとコタツに入ってくつろぐことが出来た。
コタツの上に山盛りになっているミカンを1つ取ってむきながら、今年一年のパラミタでの土産話を話して聞かせる。
空京にある神社で出会った不幸属性付き福の神様のこと。ヴァイシャリー近くにある絵本図書館を手伝ったこと。
パラミタで開催されたろくりんピックのこと、喫茶店を始めたこと。
他にも沢山事件やイベントはあったけれど、あまり母に心配はかけたくないから、その中でも明るい話題をチョイスして話すように心がけた。
にも関わらず、話すうちに母の顔はどんどん真剣に引き締まってくる。
じっとこちらを見通すような目で見られ、佑也は落ち着かない気分になった。
(もしかして……色々隠してるのがバレた?)
妙に勘の良い所のある母のことである。佑也の隠し事など手に取るように解ってしまうのかも知れない。
香澄はずい、とコタツに身を乗り出した。
「……ところで佑也」
「な、何?」
「孫の顔はいつになったら見せてくれるんだ?」
「ま、孫ぉ? いや、まだそんな関係じゃないから! というか、前帰ってきてから半年しか経ってないのにできるわけ……」
そこまで言ってから、はっと気づいて口を押さえたがもう遅い。
「『まだ』? ……ほう。ほうほう! ということは、孫のアテは出来たということだな!」
「あ……えっと……恋人は、出来たけど……」
「相手は誰なんだ? 早くおかーさんにも紹介しなさいっ!」
「そ、そのうち! そのうち紹介するから!」
冷や汗を流しながら受け答えしていると、香澄はふと思いついたように部屋を出て行った。戻ってきた時には、手に細長いものを持っている。
「これって……」
それは佑也が子供の頃からずっと床の間に飾ってあった日本刀だった。
「受け取れ」
「これ、母さんの大事な物なんだろ?」
「元々お前に渡そうと思っていたものだ。遠慮するな」
香澄はそう言って佑也に日本刀を押しつけた。
「ただ……これだけは覚えておいてくれ。そこに護りたいものが在るなら迷わず剣を抜け。力を行使することに躊躇するな。……でないと、大事な物を取り零すぞ」
その言葉で何故母がこれを佑也に渡そうとしたのかが解った。だから佑也は頷いてその日本刀を握りしめた。
「……解った。ありがたく受け取っておくよ」
事な物、大切な人たちを必ず守り抜いてみせると、佑也は母と日本刀に誓った。
ちなみに……この時捕らえたモモンガが、やがて『ユウ』という名を付けられて家で飼われることになるとは、この時の佑也は知るよしもなかったのだった――。
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