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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)
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 北の空中庭園内。石版を発見した一行は、みな一様に首を傾げていた。
「このドラゴンは、ティアマトか?」
 石版を指さして緋桜 ケイ(ひおう・けい)イナンナに問いた。
 一面に描かれた竜巻の絵。何体ものドラゴンがその渦に巻き込まれているようにも見える中で、最も大きなドラゴンを指で示した。『龍の逝く穴』の場所を示しているとあって、グレータードラゴン・ティアマトも描かれているのではないかと予想したのだが。
「違うと思う。ティアマトを描くなら、他のドラゴンよりもずっと大きく描くと思う」
「なるほど」
 それほどに巨大な体をしているということか? それとも強大な力を持っているという意味だろうか。イナンナはこれに「どっちも」と応えた。
「んで? これのどこが―――いや、これはどこを示してるんだ?」
 これにイナンナは唸る仕草で応えた。
 ――ま、そりゃそうか。
 もう一度見たいと言ったから連れてきたが、もともと見当がついているという訳ではなかった。実際に石版と絵を目にしただけで場所を特定できるなら苦労はない。
「ま、気長に待つよ。時間はたっぷりあるからな」
「待ってください、これ……」
 このセリフがイナンナのものだったらどれだけ楽だったか。声の主はメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)だった。
「もしかしたら……」
「何か、心当たりがあるですぅ?」
 パートナーのヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)の問いにメイベルが応えようと顔を向けた時だった。
 彼女たちが連れてきた『大型騎狼』が空に向かって吠えだした。
「どうしたですぅ?」
「伏せてっ!!」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)の叫び声、そして2人の頭上の空柱が押し出されてゆく感触が続いた。
「はあぁぁあああっ!!」
 2人の頭の上でセシリアが『ジェットハンマー』を大きく振り回していた、打ち落としたのは双頭の怪犬『オルトロス』だった。
 ――オルトロスがどうして空から?
 いち早く動き出したセシリアにはその答えが分かっていた。怪犬は空から襲いかかってきたのだ、ワイバーンの背に乗って現れ、そして跳び降りたのだ。
「させ、ない、よっ!」
 跳び襲い来る3頭をセシリアは見事に打ち払ったのだが。そうしている間に上空は、飛来したワイバーンに囲まれてしまっていた。
「時間稼ぎを兼ねたファーストアタックだったって事?」
 一体だけ高度を下げてくるワイバーン、その背に乗る男に言ったのだが。男は応えることなく、ただイナンナだけを見つめていた。
「訪園の予定は聞いていませんでしたが。急なご決断だったのでしょうか? 女神イナンナ」
「ネルガル……」
「ご記憶いただけた事、誠に身に余る光栄でございます」
 男は飛竜の背上で片膝をついて額を下ろした。
 2秒だけそうしていたネルガルは、すぐに起き上がりて彼女を見下ろした。
「余が跪く様を見て、何の動揺も見せぬとは。信じ難いが本物のようだな」
「本物? 何のことかな?」
「封印は解かれてはいなかった、それなのになぜ、そのような姿でそこに立っている」
「さぁ? 何のことかな?」
 敢えて幼く、相手を小馬鹿にするような口調で言っているようにフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)には聞こえた。そうしてネルガルの毒牙を巧みに避けようとしているのだと。
「まぁよい。捕らえてしまえば全てが分かる。なぜこの場所に居るのか、という事も含めてな」
 ――マズいな……。
 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が眼を細めた。石版、ティアマト、『龍の逝く穴』。ネルガルが気付いていない以上、こちらの狙いがバレると厄介だ。
「今さらこのような場所を訪れて、何の意味がある? まさか昔を懐かしんでいた訳ではなかろう」
 ――このままでは…………どうする……。
 極力戦闘は避けたいが、仕方がない。ブルーズがそう腹を決めた時だった―――
「イナンナ女子〜! 見つけたよ〜!」
 葉月 エリィ(はづき・えりぃ)が駆け込んできた。胸にイルカを抱いていたが、どうにかして手を振りたかったのだろう、エリィは手首をピョコっと立てて小さく振った。
「見て! これだよね、サンドドルフィンの銅像! いや〜これがなかなかに重くてさ〜参ったよ〜―――って、あれ?」
 一気に語って、ようやく気付いた。テンション格差がヒドかった。
「なんなのかな……? このお呼びでない空気は……」
 パートナーのエレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)が笑顔をそっと一つ、置き土産にしてエリィを退場させた。エリィは最後までつべこべ言っていたが、彼女はずっとそっと笑みを浮かべて場を後にした。
 ――いや、タイミングとしては決して悪くない。
 誤魔化せたか? ブルーズが目を凝らした先で、征服王ネルガルの口が小さく開いた。
「サンドドルフィンの銅像だと? フハハハハ、ハッハハハハハハ」
 高らかに笑いながらに「何をしに来たのかと思えば、銅像探しとはな」と言い混ぜてから高らかに笑った。
 ――いいぞ、誤魔化せ―――
「そんなわけがあるまい!」
 笑みは消え、怒りを滲ませた表情をしている。なんとも表情豊かな王様だとブルーズは呆れたが、そう暢気にしている場合でもなかった。
「もぅ良い、捕らえて吐かせるまでだ」