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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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リアクション


第14章 ビビリじゃないよ

「乗り物には乗らないのかな?」
 遊佐 一森(ゆさ・かずもり)は一緒に遊園地に来た星待 ガレ(ほしまち・がれ)の傍に寄り、せっかく来たのに何も乗らないのかと聞く。
「うーんどうしよう」
 ぱさっとマップを広げて行きたいところを探す。
「人が並んでいるところとか、ハズレがなさそうだけど」
「確かに100人以上並んでるな」
 彼女が指差す先を見ると、入り口前にズラッと行列が出来ている。
「ジェットコースターみたいだねぇ」
「―・・・えっ」
 一森が見上げるそれに視線を移すと、手からマップがバサリと床へ滑り落ちた。
 ギュウゥウーーーンッ。
 呆然と立ち尽くす彼の眼前で、レールの上をライフルの銃弾で撃ったかのようなスピードで、ジェットコースターが疾走していく。
 それは速度を維持したまま終着点へつき、乗客が降りると新たな乗客が乗り込んでくるのを待っている。
 恐る恐る出発寸前のモンスターマシンを見ると、スタートシグナルが一瞬で点灯し、いきなり130km以上の速度で走り出していった。
「(普通はテン・・・テン・・・テン・・・テーンッだろ?なのにテテテビュゥウン!て、何なんだあれはっ!!?)」
 “こんなものありえない、存在してはいない、むしろ最初から目の前に存在しない!”
 現実逃避気味に心の中で絶叫し、まるで石像のように固まってしまったのだ。
「落ちたよ、ガレ。ん、どうしたの?」
 ガレが落とした園内のマップを拾い、動かない彼の顔を覗き込む。
「あ・・・うん。ちょっとな・・・。もしかしてあれに乗る気か?」
「うーん、ガレが乗ってみたいなら行くよ」
「絶叫系マシンか・・・、一森考えてもみろ。あのジェットコースター・・・あれに乗っている時に、マフラーが木に巻き付いて首が取れたりしたら・・・・・・」
「私はガレが乗らないならやめておこうかな、と思ってねぇ」
「(なんだ、ボクが乗ると言わないならいいのか)」
 言葉に出さず呟き、ガレはほっと息をつく。
「そうそう、自ら命を危険に晒すなんて愚者の行いだぞ」
 得意げに“命を大事に”というふうに言うと、ジェットコースターに乗りに来た他の客が、“コメン ズィー”と通りすがりにからかうように言う。
「何だ・・・?日本語で話してくれよ(まぁ、だいたい態度で分かるけどな)」
 突然ドイツ語で話しかけられたガレは顰め面をする。
 “コメン ズィー!”
「いや、行かないって!」
 “フューレン ズィー アングスト!?”
「あからさまにこんなんで自分は怖くないぞっていうあのイキガリ方・・・、まったく阿呆か。それでボクが行くと思っているのか?そんなもの・・・乗るわけないだろ!」
「向こうの方も見てみない?」
「ん、あぁ。いいよ」
 乗り物に乗らないなら他のところも見てみようと、チョコレートの飴で作られたような橋を渡っていく。
「つやつやしてる・・・。甘そうな香りがしそうだけど、飴じゃないんだよねぇ」
 一森はハッカっぽい壁に触れ、不思議そうに建物の様子を眺める。
「(いいなぁ・・・)」
 小人の館に入っていくカップルを一森が黙ったままじっと見つめた。
 2人で遊園地の中を歩いているだけでも楽しい。
 だけど空いている片手を寂しそうに、握ったり開いたりする。
 手をつないであの列に並んでいる恋人たちみたいに、ひとつだって思い違えたら満たされ、きっと幸福感を得られるんだろう。
「(ガレは私のこと、どう思ってるのかな・・・)」
 彼が自分のことをどういう存在だと思っているのか分からない。
 パートナーとは契約してるだけの関係で、恋心があるとかそういう意味はなく、彼にとって自分はただ一緒にいるだけなのだろうか。
 ガレにも一森といることで幸せを共有出来たら、そう思ってくれたらいいな、と思った。
 しかし実際、彼が考えはそうじゃない、そうに決まっている。
 頭の中で考え込んでいると胸に痛みが走った。
 だけどそれでいい、相手は他人・・・。
 でも傍にいられることが尊く、やっぱり特別な存在なんだ。
 そんなことを1人で孤独に考えてばかりいると、たまに悲しくなり涙を流してしまいそうな気持ちになる。
「(チョコレートはくれないんだ?まぁ、そういうの嫌いみたいだし・・・)」
 心が沈んでしまっている一森の様子に気づかず、傍らにいる彼女をちらりと見る。
 チョコはあげなくてもデートはありなのだろうかと思い、女子の思考が理解出来ないというふうに肩をすくめる。
「私、私ね、これでもね。すごく勇気出して誘ったんだよ」
 ほんの少しだけでもいい。
 何かを2人で共有してるって、そんな錯覚をさせてほしい。
 そう思いながら一森は自分の手の平をぎゅっと握り締めた。
「遊園地なんて久しぶりだけど、けっこう楽しいもんだ。でもあれだろ、一森。ボクじゃなくて、同い年くらいの男の子がパートナーだったら良かったのになー」
「(うぅ、やっぱり分かってくれてないよ・・・)」
「ってなんで泣くの?!」
 一森の気持ちに気づかず、人々が見ている前で泣かしてしまった。
「あぁ、困ったな。どうしたら泣き止んでくれるんだ・・・」
 一生懸命、宥めようとするものの、しばらく彼女の心は涙雨のままとなった。