リアクション
○ ○ ○ 「……失礼します」 「悠希……どうして……」 桜井 静香(さくらい・しずか)との面会を終えて、百合園女学院の校長室から出た真口 悠希(まぐち・ゆき)に、カレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)は、戸惑いながら歩み寄る。 悠希は、軽く震えていた。 それは気温のせいでも、恐怖のせいでもない。 (かつて信頼し合った事もある二人が、今はどうしてこんな事に……。 悠希があんな事を言ったって他の人が知ったら、皆悲しむかも……心配するかもしれない……。それに疑うかもしれない……) アフェクシャナトは悠希に問いかけていく。 「悠希……貴方は静香に想いが届かなくても、変わらず人に優しく……人の為になれる人間になろうって誓っていたのに。 それなのに……あんな事を言っていたら、想いが届かなかった腹いせだって……結局自分の事しか考えてないって……誓ったのも嘘だった、って思われちゃうよ……?」 「いいんだ……ただ、シャナト……君もそう思うのかな?」 「私には……人の複雑な心理は分からなくて。 だけど……悠希の考えは読めないけど、でも貴方が、自分の為だけにあんな事を言った訳じゃないって、そう……信じてる」 「ありがとう。でも、ボクは……誰かを愛すると、その重さで相手を苦しめてしまうみたいで。 だから……決めたんだ。 これからも……誰かを思い遣り手を差し伸べるのを止めはしない。 けれど。 もう……誰も愛さない」 「……」 少し遅れて、上杉 謙信(うえすぎ・けんしん)も校長室から出てきた。 謙信は一人校長室に残って『悠希があれほど直接的な物言いをするのは、珍しい』と、静香にこう語っていた。 いつもの悠希は……例えば闇組織討伐に参加せず自信が無いからと、お主の側に居た事があった。 いかにも頼りなく、相手に依存した風に見える。 だが……本当は、心から自信が無く役目を放棄した訳ではない。 校長として、同じく自信が持てなかったお主を同じ立場から励まし、お主の行動の支えになる決意を秘めていた……。 ならば……どうして直接的にそう言わなかったか。 ……言えなかったのだ。 自分だけ自信がある様に振る舞えば、自信が持てないお主をより追い詰めてしまうかもと……。 直接戦うより、人の心の力になる……それが、自分に出来る、最大の戦いだと……思っていたのだ……。 そんな2人の言葉を、静香は黙って聞いていた。 肯定も否定もせずに聞いていた。 何故、何も言わないのかと、謙信が問いかけたところ。 静香は「今日はホワイトデーだから」と答えた。 今日は皆、ホワイトデーの為に皆集まっているのだと。 皆、ホワイトデーを楽しんだり、誰かと過ごすために集まっている。入場制限があり、来たかったのに来られない人もいた。 だから、校長として今日、自分が考えなければならないのは、ホワイトデーの為に集まっている人達のことだと。 だけれど、真口さんがどうしても言いたいことがあるみたいだから、話だけは聞こうと思ったと。 「今日の僕に答えられることは何もない」 それが静香の返答だった。 肩を震わせて、だけれど拳を強く握りしめ、必死に前を見据えて歩き出す悠希の後に、アフェクシャナトと謙信はもう何も言わずに、ついていく。 |
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