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神楽崎春のパン…まつり

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神楽崎春のパン…まつり
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第2章 パン…と試着

「何か外が騒がしいな……」
 東シャンバラのロイヤルガード宿舎にて、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は窓の外になにやら白いものを見た気がして、訝しげに眉を寄せた。
「持ち物を狙っている方が、このあたりにまで来ているのでしょうか……」
「折角のパーティーが、台無しにならなければ良いのですが……」
 手伝いに訪れていたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)が、心配そうに窓の外を見た。
「近くまで来ているのなら却って好都合かもな。直接私が話をつけに行くまでだ」
 優子がパンを焼く手を止めた。
「いえ、優子さん自からが行ったら、きっと皆逃げてしまいますぅ」
「パーティの準備も終わらないあるよ」
 メイベル、そして材料の調達や、パン作りの指導をしてくれている万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)の言葉に、優子は「そうだな」と思い留まった。
「頑張ってくださった方に喜んでいただける料理が提供できればいいのですか〜」
「パンとデザートだけだと飽きるかもしれないから、僕は一緒に食べる副食物を作るよ。んーと、サラダは必要だよね」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、材料の中から野菜を取り出していき、何から作ろうか考えていく。
「定番のジャムだけではなくて、珍しいジャムも用意したいですわね」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、どれにしようかと果実を選んでいく。
「これ、冷蔵庫に入れさせてください。何が入っているかは、パーティが始まってからのお楽しみです」
 シャーロットは白い箱を冷蔵庫の中へと入れる。
 自宅で作ってきたとっておきのものだ。
「定番のジャムは私に任せてください」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は既に、苺を使ったデザートを作り始めていた。
「ジャムも、果物により作り方に違いがあるらしいな?」
「ええ、そうです」
 涼介は優子に料理をしながら、作っているものと、作り方について教えていく。
 ヘタを取った苺にグラニュー糖をかけて、水分が出た所で火にかけて丹念にアクを取り煮込む。
 半分はレモン汁を入れて、ジャムに仕上げ、もう半分はコンポートにする。
 マーマレードはオレンジの果汁と皮と水、晒に包んだ種と内袋をアクを取りながら煮込む。
 鍋の中身が半分位になったら晒袋を上げて、砂糖を加えて溶かす。
 砂糖が溶けたら晒袋を絞りペクチンを加え、マーマレードが凝固したら出来上がり。
「ミルクジャムは鍋に牛乳と砂糖を入れて、中火で焦げないようにトロっとするまで根気よく混ぜながら煮詰めると出来上がりです」
 ジャムはもちろんパンにつけて食べてもらう。
 苺のコンポートはアイスにかけて食べてもらう予定だった。
「パン…を作ることばかり考えてて、ジャム作りについては失念してたよ。次回の参考にさせてもらう」
 優子は涼介の説明を興味深げに、メモをとりながら聞いていた。
「あ、そのカボチャはもっと柔らかくなったら潰すである」
 万願は優子の手伝いに訪れた、百合園生を指導している。
「すみません、生地の混ぜ方がよく解りません……ヘラで混ぜても混ざってるような気がしないんですが」
「はい、その生地は……ああそう、そう言う感じで混ぜるである。そろそろ手で混ぜるころであるな」
「わかりました。結構力仕事ですね。先生のようなパン…作れるといいなっ」
 百合園生はふうと息をついた。
 万願は、てきぱきとなれた手つきで、あんぱん、パン…プキンパイやフルーツたっぷりケーキを同時進行で作っていた。
 それから大量のスコーンも。百合園生に補助してもらいながら、作っている。
 万願は見た目は子供だが、実年齢は50代。彼の慣れた手つきと、機敏な動きに、そして出来上がる素敵な数々のパン…に、百合園生達は感動を示していく。
「腐ってもパン屋店長。このくらい軽いであるよ」
 そう言いながら、小さな身体で百合園生達の何倍もの量の生地を、一度にこねていくのだった。
「優子さん、戻りました。焼きたての良い匂いがしますね……」
 アレナが厨房へと顔を出し、美味しそうな匂いに微笑みを浮かべる。
「お帰り。大丈夫だったか?」
 優子のその言葉に、皆さんが助けてくれたから大丈夫と、アレナは首を縦に振った。
 それからこう優子に尋ねる。
「あの、皆さんに使ってない服を持っていってもらおうと思うんですけれど……ちょっと部屋の方に来てもらえますか?」
「うん。すまないが、焼きあがったら出しておいてくれ」
「了解である。こっちは大丈夫である」
「はい、先輩」
 優子は万願や友人やに厨房を任せて、アレナと共に一旦部屋に戻ることにした。

○     ○     ○


 優子とアレナの部屋のリビングは、引越しを手伝った者達の控え室になっていた。
 女の子達が集まって、試着会も行われている。
 ネットオークションにアレナの持ち物として流れていたものと、引越しの為に、ダミーとして用意してあった安物の衣服。
 それから、優子とアレナが着なくなった服が、テーブルの上や、パイプハンガーに並べられていた。
「高潔にして穢れ無き優子お姉様には変態側の心理はお分かりにならないご様子だわ」
 桜月 舞香(さくらづき・まいか)は、数々の服を前に苦悩していた。
「でも、散々汚らわしい男どもとやりあって来たあたしには分かるの。あいつらは、パンツ自体に興味が在るんじゃないわ。パンツを通じて、その温もりや匂いを感じて、それを着ていた人の姿を妄想することで興奮するのよ」
「き、気持ち悪い……」
 パートナーの桜月 綾乃(さくらづき・あやの)はそんな男達の姿を思い浮かべて、身震いした。
「やっぱり男って最低!」
「最低っ!」
 舞香と綾乃は部屋に運ばれた服の中から……主に、ネットで販売されていたという、際どいものばかりを選びだす。
 変態男が女の子に「着せたそうな」過激な衣服を纏い、彼らを誘い出す為に!
「これが……アレナの服」
 その近くで、姫野 香苗(ひめの・かなえ)は、アレナの古着だけを集めていた。
 新品や、ダミーとして用意された服や、優子の服には見向きもしない。
「やっと近づけた……っ」
 アレナのことは、これまで遠くからうっとり眺めていることしか出来なかった。
 彼女のことを可愛いと思っていて、抱きつきたい、スキンシップしたいと、強く思っていたけれど。
 いつも側にいる優子の存在が怖いというか、アレナに手を出したら殺されそうな気がしたので……。
 今まで近づくことさえ出来なかったのだ。
 本人に抱きついてすりすり出来ないのなら、せめて彼女の匂いが染み付いた物を手に入れて、イロイロ楽しみたいと、香苗は純粋に不純な想いを抱いていた。
「これとこれと……でも、数じゃなくて……」
 全部全部欲しいと。
 全身、アレナの服に包まれたいと、香苗は思ってしまう。
 用意されていた古着ではなく……香苗は自然と部屋に運び込まれた、アレナが今使っている服の方へとふらりふらりと歩いていく。
「こ……れは!」
 香苗センサーにより、下着が入った箱を一瞬にして見つけ出し、香苗は箱の中を覗き込んだ。
 中には、薄い色の下着類が沢山入っている。
「はうっ、香苗のものーっ」
 香苗はその大きな衣装箱の中に飛び込んで、アレナの下着に包まれて、至福の時を過ごした。
「これで最後だってさ。ここおくぜ〜」
 ドン。
 なんだか重い物が、衣装ケースの上に置かれた……。

「着替えは隣の部屋でするんだって。ここは男性も入ってくるしね」
「はい……一緒に、行きますぅ」
 冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は、試着してみたい服を籠の中に入れた後、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)と一緒に、隣の寝室へと向かった。
 その部屋の一角には畳が敷いてある。そして、奥には三面鏡が置いてあった。
 千百合は籠を下ろすと、鏡を開いた。
「あたし大体、アレナさんと優子さんの間くらいだし、どちらの服もそこそこサイズ合うかな〜」
 どの服から着てみようかと、籠の中から服を取り出して自分に合わせてみる。
「どういう……のかな?」
 日奈々は服を手にとって、感触を確かめてみる。
 やわらかくて、ふんわりしたスカートだ。
 これはアレナの服だろう。
「身長とか……全然、違うですし……。穿けるでしょうか……」
 日奈々はスカートを服の上から穿いてみる。
「んーちょっとこれは日奈々には大きいかな。色も地味目だしね」
「そうですか……」
 日奈々はそのスカートを脱いで、フリルのあるスカートはないかなと、探してみる。
「優子さんの服は、シンプルな服が多いなー。アレナさんの服はやっぱりちょっと大人しめ……」
 千百合は着てみた服を脱いで、レギンスに手を伸ばした。
……あっ
 日奈々が小さく声を上げた。
 今まで千百合が来ていたぬくもりの残る服が、手に触れたのだ。
 引き寄せて、顔に近づけると……。
(千百合ちゃんの……匂いがするですぅ……)
 ほのかな匂いが、鼻腔をくすぐった。
(…………いい匂い……)
 千百合に包み込まれているような、幸せな感覚を受けた……。
「……奈々、日奈々?」
「あ、はい」
 千百合に呼ばれて、日奈々は我にかえる。
「あたしはこっちの動きやすい服を貰うと思う。日奈々はやっぱり……これかな」
 千百合が日奈々の首にふわりとスカーフを巻いた。
「……気持ちが良いですぅ」
「白と、薄い黄色の可愛らしいスカーフだよ」
「はい……使わせてもらいますぅ」
 千百合は動きやすさ重視の、黒のカットソーと青色のレギンス。
 日奈々はスカーフを貰っていくことにした。