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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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レッスン5 養護施設に行ってみましょう。その2


「あのね、クロエちゃんがまほーしょうじょになるんだって!」
「魔法少女……?」
 柚木 郁(ゆのき・いく)の言葉に、柚木 瀬伊(ゆのき・せい)が怪訝そうな顔をした。
「魔法少女とは、一体何なのだ?」
「んと、せいぎのみかた? って。クロエちゃんがいってた」
 疑問符つきなところに対し、瀬伊が疑わしそうな目をしたが、郁が楽しそうにしているからだろう、何か言うことはしない。郁が黙って嬉しそうに話す郁を見守っていた。
 見守るのは柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)も同じである。そうか、クロエちゃんが魔法少女にね。相槌を打ちながら、話しを聞く。
「女の子ってこういうの好きだよね」
「おんなのこだけじゃないよ。いくも、きになるよ」
「郁も?」
「うんっ。いくも、まほーしょうじょになりたいっ」
 どうやら、興味があるとかそういう程度ではないようだ。
 まさか、なりたいと言うほどだとは思ってもいなかったので貴瀬はくすくすと笑う。
「まほーしょうじょは、みんながえがおになるおてつだいするんだよっ。だから、いくもがんばってまほーしょうじょになるのっ」
 小さな拳をぎゅっと握って、強く語る郁の頭をぽんぽんと撫でて、
「まぁ郁は可愛いし、みんなのお手伝いをしたいって気持ちもとっても郁らしいし……俺も、お手伝いをしようかな?」
 貴瀬はふっと微笑んだ。
「ほんとう? 貴瀬おにいちゃんも手伝ってくれるの?」
「うん。写真撮ったりしてあげる。クロエちゃんはどこで何をするって言ってた?」
「えっとね、あのね――」
 郁から詳しく聞くと、どうやらクロエはヴァイシャリーにある養護施設に行くらしい。
 ――ヴァイシャリーの養護施設って……。
 思い当たる場所があった。でもまさか、偶然だよねと思いつつ。
「じゃあクッキーでも焼こうか。甘いもの持って、差し入れに行こう?」
 エプロンをつけて、キッチンに向かった。
「瀬伊もぼーっとしてないで? 魔法少女の衣装を作ってもらうんだから」
「聞いてないぞ」
「だって郁、魔法少女になりたいっていうんだから。ちゃんとした格好させないと、ね。郁のためだよ?」
 そう言われると、瀬伊が反論できなくなるのは知っていたので。
 ちょっと卑怯かなーとは思うが、何せ可愛い郁のため。
「ね? お願い」
 頼み込むしかないだろう。
「……仕方ないな」
 はぁ、とため息を吐きながらも了承してもらったので、やったね、と郁の手を取って喜んだ。


 クッキーをたくさん焼いて、郁と一緒に個包装して。
 バスケットに入れたら準備完了。
「郁、準備できた?」
「うんっ」
 問い掛けに応じて、郁がぱたぱたと駆け寄ってきた。
 フリルやパニエでひらひらとした格好は、
「うん。どこからどう見ても、魔法少女だね」
 穿いているのはスカートだし。えへへ、とはにかむ顔も可愛らしいし。
「それにしても、瀬伊は器用だね」
「貴瀬が作れと言ったのだろう?」
「作ってって言って、本当に作れるから器用なんだよ。褒めてるよ? あと、ありがとう」
「郁のためだからな」
 ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向かれた。
 さて、と郁に向き合って。
「みんなと仲良くなれるといいね?」
 ふんわりと微笑み、手を繋いで出発進行。


 養護施設に到着して、クロエの姿を探す。
「クロエちゃん、みーつけたっ」
 見つけると、郁は嬉しそうに笑って走っていった。転ばないようにね、と貴瀬は後ろから声をかける。
「クロエちゃーん!」
「あ、いくおにぃちゃん。まほうしょうじょだわ!」
「うんっ。クロエちゃんとおんなじで、まほーしょうじょだよっ。いっしょにまほーしょうじょ、がんばろうねっ」
 かっこいいところを見せようとしているのか、いつになく真剣な顔をして言うのが微笑ましい。
「二人とも、怪我をしないようにな」
 瀬伊の言葉に郁とクロエが声を揃えて「はーい」と答え、また駆けていこうとするので、
「待って」
 貴瀬は呼び止めた。
「魔法少女の二人にお仕事をお願いしたいな。このクッキーを、施設の子供達に配るお手伝いをしてくれない?」
 バスケットを差し出して、にこり。
「いいわよ!」
「いく、がんばるよっ!」
 元気よく頷いた二人にバスケットを手渡した。
「クッキー、おいしそうね」
「貴瀬おにいちゃんのやいたくっきーは、とってもおいしいよ。あとでクロエちゃんにもいくからあげるね!」
「じゃあいくおにぃちゃんにはわたしからあげるわ!」
 きゃいきゃいとはしゃぎながら遠ざかる二人の写真を撮りつつ、見送り。
「さてと。俺たちは何しようね?」
「考えていなかったのか。俺は郁たちの後を追うぞ。何かあるといけないからな」
 俺も行こうかな、と思っているうちに瀬伊が歩き出してしまった。なんとなく出遅れた感じがして、まあいいかとマイペースに廊下を歩く。が、廊下の先から来る人物を見て足を止めた。
「紺侍」
 以前紺侍がチャリティイベントを起こした施設だったからもしかしたらと思っていたけど。
「会えるとは思わなかったな。偶然だね」
「えー、貴瀬さん。なにしてるんスか?」
 驚いたように、紺侍が言った。微笑みかける。
「郁とクロエちゃんのお手伝い」
「ああ。魔法少女」
「正解。だからあげる」
 自分で配ろうとしていた分のクッキーをひとつ差し出した。クッキー、と紺侍が目を輝かせたので、くすりと笑う。
「甘さたっぷりだよ。今なら俺が食べさせてあげるオプションつき」
「マジすか」
「うん、まじ」
 笑いながら、包装を解いた。あー、と開けられた紺侍の口にひょいと入れる。
 黙って咀嚼する紺侍を、貴瀬は不安を覚えながら見守った。
「……どう? いろいろと頑張ったんだけれど……」
 子供たちが好きそうな味とか、貴瀬なりに考えて。
 だから、このお子様味覚の彼が美味しいと言うのならそれは大成功なのだけど。
「ん、甘ェ。素朴っていうんスかね? そォゆー味がしていいなァ」
 嬉しそうに笑ってくれたので、ほっと安堵。
「これから何かあるの? 俺も手伝おうか?」
「魔法少女によるヒロインショーがあるそうで。手伝ってくれるならありがたいっスね」
 じゃあ手伝う、と言って紺侍の隣に並んだ。
「盛り上がるといいね」
「っスねー」
 他愛のない話をしながら、廊下を進む。


*...***...*


「奥様の名前はコトノハ。そして、旦那様の名前はルオシン。ごく普通の二人は、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。でも、ただひとつ違っていたのは……奥さまは魔女っ娘だったのです!」
「どっかで聞いたことのあるフレーズっスねェ、それ」
 紺侍の笑い声に、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は「気にしたら負けです!」とびしり、言い放つ。
 ちなみにお供に連れているのはパラミタペンギンのペキンとマンドレイク・ポピーのポピーである。なにもそこまで模倣しなくても、とルオシンが言っていたけれど、こういうのは形が大事なのだとコトノハは思う。
「魔法少女だったんスか、コトノハさん」
「ええ。その名も『魔法の人妻マジカルコトノハ☆』。よろしくね?」
「あたしは『魔法少女プリティ夜魅☆』!」
 コトノハの名乗りに便乗して、蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)がウインクを飛ばす。夜魅の隣にもお供が居て、ピーのピーとサラマンダーのサーラだ。
「ちなみに夜魅の設定は、『家の隣のアパートに住む苦学生・壮太に憧憬ゆえの恋心を抱く小学生六年生』です」
 昨日しっかり練ってきた構想を紺侍に教えると、
「壮太さんって年上好きだったよォな」
 ぽそりと呟く。そういうことは言ってはいけない。人差し指を紺侍の唇につきつけた。
「夢を壊すようなことを言ってはだめですよ、紺侍くん」
「へい」
 頷いたので、指を離す。夜魅にも聞こえていないようだったし、まぁ良し。
「あっ。やみおねぇちゃんだわ」
「クロエちゃんっ」
 クロエの声に、夜魅が走った。廊下の先でぎゅむーっと抱きつく。魔法少女二人がきゃっきゃしている姿はなんとも可愛らしい。
「コトノハおかぁさんもいるのねっ」
「ええ。今日の私は『魔法の人妻マジカルコトノハ☆』なの。だからクロエちゃんや夜魅と同じで魔法少女なのよ」
 魔法だって使える。
 轟雷閃……もとい、『ムーンライトブレイカー』や、爆炎波……もとい、『ソルバスター』など。
 何かが違っている? そんなことは気付いても言ってはいけない。紺侍がなにか言いたげにしていたが、笑顔で制しておいた。従って黙ったので、察しが良いらしい。
「クロエちゃんはどんな魔法が使えるの?」
「わたしはまだみならいだから、なにもできないわ」
「じゃあ、これから夜魅と一緒に色々経験して覚えていくのね」
 二人の将来が楽しみだわ、とコトノハは顔を綻ばせた。
「やみおねぇちゃんもまほうしょうじょ?」
「うんっ。今日のヒロインショー、クロエちゃんと一緒に頑張るよ!」
「ほんとっ? がんばろうねっ」
 手を取り合って笑う夜魅とクロエを、紺侍が写真に収める。
「可愛らしいっスね。和むっつーかなんつーか。ヒロインショー、頑張ってくださいね」
 満足そうな紺侍に、
「? 何で傍観者みたいなの? 紺侍お兄ちゃんも一緒にやるんだよ?」
 夜魅が首を傾げ、さも当然のように言い放つ。
「へ?」
「だから。魔法少女のヒロインショー」
「いやいやいや。オレはナイでしょ。第一オレのどこが魔法少女だと?」
 慌てたように紺侍が自らを指差した。
「身長187センチ、体重72キロの魔法少女って普通にキモいっス」
「細かいよ」
「細かくねェっスよ。外見って大事でしょ、特に魔法少女ときたらさァ。……てか外見なら。貴瀬さんやればいいんじゃ」
 夜魅に振られたことが相当困ったのか。紺侍が隣にいた貴瀬になかば無茶振りの会話を投げる。
「俺の魔法少女? 見たいの?」
 ふわりと柔らかに笑い、貴瀬が問う。真っ直ぐ答えられたのは紺侍にとって予想外だったらしく、「う」と言葉に詰まっていた。
「てか。見たいって言ったらやるんスか」
「どうだろうね?」
「たかせおにぃちゃんも、こんじおにぃちゃんも、ふたりともやればいいとおもうの。いくおにぃちゃんもいっしょで、みんないっしょよ?」
 クロエが無邪気に笑う。
「いや、なんか絵面的にオレIN魔法少女は却下の方向で」
 やり取りの最中、外から音楽が聞こえてきた。ショーのためのステージが作られた方向からだ。ヒロインショーの始まりを告げるオープニングの曲だろう。
「あ、ホラ。始まるみたいっスよ」
 さぁさいってらっしゃいと紺侍が夜魅やクロエを後押しした。
 紺侍くんも魔法少女をやればよかったのに、と思いつつ、コトノハは豊美ちゃんの姿を探す。
 聞きたいことがあったのだ。
 魔法少女という主人公には、憧れのお兄さんがいる。
 夜魅にとってのその存在は壮太で、クロエにはリンスだろう。
 ――なら、豊美ちゃんにとっては、誰なのかしら。
 きょろきょろと辺りを見回し、見つけた。
「豊美ちゃん!」
 呼びかけると、豊美ちゃんがコトノハを見た。にこり、微笑みながらこっちにおいでと手招き。
「どうしましたかー?」
「豊美ちゃんには誰かしら、と思ったんです」
「?」
 コトノハは先ほど思ったことを豊美ちゃんに話して聞かせる。
 魔法少女にとっての、憧れ。
「私は……そう、ですねー」
 考えるように、豊美ちゃんが小さく首を傾げながらぽつりぽつりと言葉をこぼす。
「この前、私がお世話になっているカフェテリアのお姉さん、ミリアさんが結婚されたんです」
「まあ。素敵ですね」
「はいー。とっても素敵でした。花嫁衣装も見せてもらいました。とても綺麗で、そして、とても幸せそうでしたー。
 私は、魔法少女としてこれまで、皆さんの平和と安心を、幸せを運ぼうと頑張ってきました。
 なかなか上手くいかないこともありましたけど、皆さんの笑顔を見るだけで、私は幸せでしたー」
 にこやかな顔に、少し影がかかった。
「……でも、ミリアさんの花嫁衣装を見て、幸せそうな顔を見て、
 ちょっとだけ、いいな、って思っちゃったんです」
 その理由は、それで。
 豊美ちゃんが、取り繕うように笑みを浮かべなおす。
「……おかしいですね。私も結婚はしてるのに。うーん、あれはでも、結婚、って言うんでしょうか?
 ああ、別に夫が嫌い、というわけじゃないですよー。むしろ好きです。……うわ、私何言ってるんでしょう。恥ずかしいですー。
 ウマヤドも、ウマコも、よくしてくれましたねー」
「…………」
 なんて声をかければいいかわからなくて黙っていると、豊美ちゃんがまた笑った。あはは、と軽く、明るく。
「結局回答になってないですね。ごめんなさいー。
 そうですね、答えるなら……幸せな皆さん、でしょうかー」
 範囲、広すぎですねー、と自分でツッコミしながら。
「それでは私、そろそろ行きますー」
「あ、はい。引き止めちゃってごめんなさい。教えてくれて、ありがとう」
 コトノハは立ち上がった豊美ちゃんにお礼を言って、去っていく彼女の後姿を見つめた。