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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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レッスン2 教わってみましょう。その1


 秋月 葵(あきづき・あおい)が人形工房にやってきたのは、師匠であり、憧れの相手である豊美ちゃんから新人魔法少女の指導をお願いされたから。
 けれどその新人魔法少女が、
「クロエちゃんだったんだ〜♪」
 友人だったので、少し嬉しくなった。
 新しい仲間が増える。その時点で十分嬉しいし楽しいと思っているけれど、それが知り合いや、まして友人ならもっと楽しいと思うのだ。
「よろしくおねがいしますっ」
 ぺこり、クロエが頭を下げた。葵は笑ってクロエの頭を撫でる。
「オッケー、オッケー。クロエちゃんが魔法少女としてバッチリ活動できるように、協力しちゃうよ〜♪」
「わあいっ。ありがとうあおいおねぇちゃん!」
「ちなみにクロエちゃんは、魔法少女になって何がしたいのかな?」
「あのね、まほうしょうじょのかっこうがね、かわいかったの! コマーシャルのおねぇちゃんたちもたのしそうだったの。だからね、いいなぁっておもったの。それでよ」
「それでかぁ」
 まあ、可愛いものや魔法少女に憧れるのは女の子の宿命。これといって何をしたいと強く思っていなくても、やり遂げることはできるはず。……はず。
 動機が何であれ、
「クロエさんはすごいです……」
 魔装書 アル・アジフ(まそうしょ・あるあじふ)にとっては感服に値することのようだった。
「すごいの?」
「はい。だって、自ら魔法少女になるなんて……あたしは、成り行きというか……断りきれずに魔法少女になったような感じ、ですから」
 何しろアルは見た目からして魔法少女とは言いがたい。
 良く言えば儚げ。悪く言えば弱そう。
 守るべき立場の魔法少女ではなく、むしろ魔法少女に救われる立ち位置のほうがしっくりくるようなタイプなのだ。実際、いつも何かとトラブルに巻き込まれては葵や他の魔法少女に助けてもらったりしているので、自信もあまりない。
「あたし、野良犬に睨まれて逃げ出すような体たらくですし……ぐす」
「アルおねぇちゃん、しんぱいいらないわ。だれだってこわいものはあるもの!」
「それが多すぎるんですぅ……」
 アルが今にも泣き出しそうな顔になった。クロエが、どうしよう? と問いかけるように葵を見上げる。苦笑してから、葵はアルの手を握った。
「これで大丈夫かな?」
「うぅ……はいぃ」
 きゅ、とアルが手を握り返す。さらには葵の後ろに隠れた。けれどそれて一安心はしたらしい。泣き出しそうな気配は消えた。
「さてと。いつもやってることを教えてあげればいいんだっけ?」
「おねがいしますっ」
「んー。いつもは……【空飛ぶ魔法↑↑】で上空からパトロール、かな」
 空からなら広い範囲が見えるし、何より魔法少女っぽい。
「それで、困っている人や事件が起こったら素早く突撃して解決するんだよ〜。変身のことは聞いた?」
「みせてもらったわ!」
「そっか。じゃあプチテクニックを伝授しちゃおう。『光精の指輪』の人工精霊さんの力を借りて派手に光の演出をすれば、もーっと魔法少女っぽくなるよ」
 ほらこれ、と指輪を見せてあげた。クロエが目をきらきらさせて指輪を見つめる。
「あと、そうだ。決めセリフも忘れずにね」
 きめせりふ、とクロエが葵の言葉を繰り返す。
「ちなみにあたしのはね、『愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおい☆にお任せだよ♪』」
 ぴしっ、と軽くポーズも決めた。きゃぁぁ、とクロエの歓声。
「すごい! かっこいい!」
「でしょー♪」
 クロエのきゃっきゃとはしゃぐ声に、アルがこそりと顔を出した。
「貴方の側に這い寄る魔法少女とか……ダメ?」
 彼女なりに考えた決めセリフなのだろうけれど。
 ――それは、ちょっと……怖いかな。うん。
 どうにもクトゥルフ神話的というか、なんというか。不気味さ漂う、魔法少女らしからぬ決めセリフだ。
「……ダメですよね……」
 葵からもクロエからも曖昧な沈黙が返されたため、アルがしゅーんとへこむ。かける言葉が見つからなかったので、空いている手でよしよしと頭を撫でてやる。
「いつかぴったりの決めセリフが思いつくよ」
「あたしとしては、今のがぴったりだったんですけど……」
「ちょっと怖かったかな〜」
「いつでもおそばにまほうしょうじょ、ならかわいいかも?」
「それだ」
 先ほどあった不気味さが消えた。たぶん、這い寄るが悪かったのだ。
「どう?」
「ん……と。お二人がそれでいいなって思うなら、あたしもそれがいいですぅ……」
 アルも頷いたので、決定。
「あと教えてないのは……モットーかな?」
 モットー? とクロエが首を傾げる。
「そう。あたしのモットーは、『悪い子には罰を、子供達には夢を』。長々と喋ったけど、クロエちゃん。あたしはクロエちゃんの魔法少女になりたいって気持ち、応援してるよ。頑張ってね」
 最後にそう微笑みかけて、葵は空に舞い上がる。
 新米教育のあとは、どうにもやる気が満ちているもので。
「パトロールに行っちゃうよー」
 あたしはいいです、とアルの抗議が聞こえた気がしたけれど。


*...***...*


 魔法少女の格好は、りぼんやレースのあしらわれたふりふりふわふわな乙女チックなミニドレス。
 そういった姿に憧れる少女も少なくはなく、白麻 戌子(しろま・いぬこ)も例に漏れず密かに憧れを抱いていた。
 だから、今回はチャンスなのだ。
 四谷 七乃(しや・ななの)グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が、クロエに魔法少女の心得を教えるために工房に向かうなら。
 ――ボクだって可愛い格好をしてもいいではないか。
 しかも工房周りにいるのはみんな魔法少女だ。ここでいきなり変身をしても不自然ではないだろう。むしろ変身の仕方を教えてあげられるというもの。
「クロエ、よく見ておくといい。これが魔法少女の変身シーンなのだよ!」
 クロエの目の前で、変身。
 服装が、みるみるうちに変わっていく。
 虹色に光る犬パーカー。いろいろときわどい、超ミニ丈のスカート。そこから伸びる足を覆うは純白のニーソ。
 服の各所には七色の柴犬アップリケが刺繍されており、ちょっと個性的ではあるものの、戌子らしい魔法少女の出で立ちとなった。
「魔法少女・グリタル★わんこ! ふふん、どうかね?」
 胸を張ってみせると、クロエがきゃーと歓声を上げて拍手した。得意げになる。
 が、戌子を見る四谷 大助(しや・だいすけ)の目が。
「……何かね。ボクがこの格好をすることに不満でも?」
 驚いているというか、心配しているというか。今にも、何だお前その格好、と問い詰めてきそうだったので戌子自ら振ってみた。
 真面目な顔をした大助が、
「ワンコ……隠さなくていい。何か悩みがあるなら……辛いなら、オレが相談に乗ってやるから。だから無理をするな……」
 どこかズレたことを言った。
 ――ああ、そうか。突然この格好に変身したから、驚いているのだな。
「まったく、女の子耐性がないとこれだからな」
「は?」
「普段は凛々しく美しい先輩がかわいい魔法少女に変身! そのギャップに戸惑っているのだろう? ふふん、これぞまさにギャップ萌え。そうだろう?」
「……いや、うん。なんだろう。ワンコ、少し休んだほうがいい」
 大助の目は、哀れみを含んだものになっていた。どういう意味だ。
「ふーんだ。ボクだって女の子なんだから、可愛い服が好きなのは当然だろう? だからそんな目で見るのはやめたまえ、失礼なのだよ」
 そもそも第一、
「そんな格好の大助に哀れまれたくはないな」
 大助の格好。
 それは、怪獣の着ぐるみ姿だ。
「これはグリムが」
 大助が弁明しようとしたところで、
「現れたわね、怪人!」
 グリムゲーテの声が響いた。
「は!? オレ!?」
「貴方以外に誰がいるのよ」
「……ごめんなさいですマスター。今の七乃は魔法少女なのです。怪人は、倒さないと!」
 グリムゲーテと七乃が大助に武器を向ける。戌子も魔法少女の名乗りを上げたので、クロエの手を引いて魔法少女側につくことにした。
「そういうわけで、覚悟なのだよ!」
「いやいや、待てグリム。これ、マスコットだって言ったよな? 魔法少女にはマスコットの存在が必要不可欠だからこれ着ろって、」
「そんなゴツいマスコットがどこにいるのよ?」
 グリムのツッコミはもっともだった。怪獣姿のマスコットだなんて、明らかにおかしい。
「オレもおかしいって言っただろうが!! ……! もしかして怪人役か!? くそっ最初からこれが狙いか!」
 不条理さに大助が吼えるが、
「問答無用!」
 グリムゲーテが攻撃した。脅威の反射神経で大助が避ける。
「あっこら! 避けるな!」
「むざむざやられてたまるか!」
「なに言ってるのよ、物語、特にこういった魔法少女モノにヒール役がいるのは当然でしょう!」
 騒ぎながらも攻撃を繰り出し、避け。
 グリムゲーテの攻撃は魔法主体ではなく肉体系だったが、彼女は戌子や七乃と違って騎士なのでそれも仕方がない。
 その、魔法少女たる七乃はというと、
「七乃は魔法少女ですけど、まだまだ知らないことなんていっぱいありますです」
 クロエに話しかけながら、武器の準備をしていた。
「ですから、今日はクロエちゃんと一緒に先輩さんたちに色々教えてもらうのが目的なのですよ」
 武器の準備、完了。魔力装填もばっちり。
「でも、攻撃魔法は自信ありますですよ。攻撃の仕方、お見せしますです」
 にっこり微笑んで、大助に向けて。
「いきますです! 必殺! オーバー・ダイナミック・カウンターバスター……もとい! お代官・バスタァァア!!」
 耳を劈く砲撃音に混じって、どこからともなく「あ〜れ〜」という声や、「ああっ、ご無体な〜」と艶っぽい声が聞こえてくる。
「なるほど。それでお代官バスターというわけなのだな」
 戌子が頷く。
「どういうことなの?」
 クロエが問いかけてきたけれど、
「いつかわかるさ」
 曖昧にお茶を濁しておいた。純粋そうな彼女を、変な知識で穢してはいけない気がしたのだ。


 怪人役の大助を倒し、平和を取り戻したので。
 グリムゲーテは七乃、戌子、クロエに向けて真面目な顔をしてみせた。
「私は騎士であって、魔法少女とは違う。けれど、人々を守るのは騎士も同じよ。だから守る上での心得くらいなら教えてあげられるわ」
 本当は、ちょっぴり、魔法少女の仲間入りをしたかったけれど。
 ――だって、まさかワンコさんも魔法少女になるなんて。
 ――こんなことなら私も魔法少女の修行を積んでおけばよかったわ。
 その上で、騎士道にも通ずることを教えてあげたかった。けれどそれには遅いので、今教えられることのみを伝える。
「魔法少女は子供の夢、つまりは希望そのものよ。だから軽々しく負けてはならない」
 怪人役に勝たせることで、自信をつけさせて次へと続かせる。その適役が大助だった。なんだかんだ言いつつも、場の流れを読んでくれると思ったのだ。だから抵抗らしい抵抗も、結局はグリムゲーテにしかしていない。七乃が放った魔法少女の攻撃で、地に伏したのだ。
「騎士は民の身を、魔法少女は心を守る。そこに大きな違いは無いわ」
 根本は守ること。
 守るためには、負けないこと。
「応援しているわ。……頑張って」
 はいっ、という三人の元気な返事が、少しくすぐったかった。