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リアクション
(2)窓のない平屋−2
「むむむ、あの平屋、怪しいですね」
イコン『サタナキア』の鎮静により、混乱の収まりかけた集落内。そのの一角にある『窓のない平屋』へ歩み寄る人影が一つ。
次百 姫星(つぐもも・きらら)はなぜか忍び足で平屋へと歩んでいった。
「誰か……だぁれか居ませんか〜?」
興味津々、爛々に輝く瞳で平屋の入り口を覗き込んだ時だった。
「「きゃっ!」」
姫星の悲鳴と、もう一つ。建物内から飛び出してきたコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)と衝突したようだ。
「痛てててて」
「大丈夫?」
気付けばコレットの手が差し伸べられていた。どうやら先に起きあがったらしい、というより後続の者たちに支えられて押されて平屋から出されたと言った方が正しいかもしれない。平屋からは次々に契約者たちが現れ姿を見せた。
「さぁ、行きましょう」
「ちょっちょっと待って、行くってどこに?!!」
「どこって……」
姫星の外見は人外的な形をしている。青い鱗鎧肌や大蛇の尾など挙げればキリがないが、その身には『ヴァンガード強化スーツ』を着ていた。だからこそコレットは姫星を「地上から来た契約者の一人」だと判断したのだ。そして契約者であるならば、
「撤退するに決まってるでしょう?!! 全軍撤退するのよ!!」
「撤退?!! 待って、私は―――」
聞けば集落外で戦うハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)からグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の携帯へ連絡があった。『地下牢』からの脱出と、建物内の職人たちの制圧を完遂した彼らに伝えられた指示は「集落からの撤退」だった。また、自分たちが撤退するだけではなく、集落の各地に散る契約者たちへの撤退指示と通告も行わなければならない。
そうした状況を聞けばコレットたちが慌て急いでいる事も理解は出来るのだが―――
「待ってって! 私は『ザナドゥの大淫婦』について聞き込みをしたいのです!」
「そんな事してたら逃げ遅れるでしょ!! 聞き込んでる間に殺されるわよ!!」
「えっ……あっ……ちょっ……」
有無を言わさず抵抗むなしく。
「そんなぁ〜〜〜!!!」
連行されるが如くに腕を引かれて姫星は一行と共に撤退……させられたようである。
それらの少しばかり後といった所だろうか。同じく『窓のない平屋』の建物内から一人の職人が姿を現した。それを、
「こっちだ!」
と中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)の手が招き導いた。
『綾瀬の手』は実に白くて細くて美しい、最も今は奈落人である中願寺 飛鳥(ちゅうがんじ・あすか)が中から操っているため、その所作は男臭く荒い所があるが、それでも『綾瀬の手』は変わらずに美しい。
「それが『最高の一品』か?」
職人から受け取ったのは、どう見ても未完成。魔鎧の腕パーツに剣が付けられているが、その出来は、
「まるでオモチャね」
今度は魔鎧状態で綾瀬に纏われている漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が酷評した。酷評……そう、飛鳥が見てもそれは「オモチャ」それも「壊れかけでボロボロのオモチャ」しか見えなかった。
「どういう事だぁ? ああ゛?!! 言ったよな、この集落で一番のものを持ってこいってなぁ!!」
胸ぐらを掴んで脅してみても、どうも嘘をついているようには見えなかった。「この集落で最も優れた作品を持ってくれば、『特別に腕利きの職人』としてパイモンに紹介する」と職人を煽り、その作品と共にパイモンへの手土産にしようと考えたのだが、肝心の作品がこの様では話にならない。
「つーことはつまり、技術の粋を集めて作ったのがこの武器だが未だ完成してない、っつーことか? それじゃ意味ねーんだよ!!」
脅した勢いのままにツッコんでいた。ドレスはと言えば「これじゃ普通の魔鎧の方がずっとマシだわ」と溜息を吐いていた。
「ダメだ……ドレス、何か思い出さないか?」
「えぇ、だんだん思い出してきたわ……私はかつて『ベリアル』と名乗っていた……『無価値な物』……魔鎧にされ、綾瀬に会うまではまさにその通りだったわね」
「…………あぁ、うん。そういう事じゃ無いんだよな、今思い出して欲しいのは」
「残念ながら特定の場所に懐かしさを覚えるといった事は無いけれど、それも今後思い出してゆくのかも知れないわね」
「あぁそうかい、そうだと良いな」
『魔鎧専用武器』は未だ未完成、その上、契約者たちが退却する際にそれらの多くを持ち帰ったため、数自体も多くは残されていないのだという。さらに元々この集落で研究と開発が行われていた物となれば、そもそも手土産として成立していない。
「はぁ。まったく……」
とにもかくにもパイモンへの謁見は手土産が無いまま臨むことになりそうだ。
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