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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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第五章 


「え、缶蹴り当日に?」
 エミカ・サウスウィンドが有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)に聞き返した。
「はい。牛丼販売をしたいのですが、許可頂けませんか?」
 さすがに未成年の学生が多い以上お酒を出すというわけにはいかないが、頑張った後は美味しいものを食べたいことだろう。
「うーん、でも打ち上げの準備をするって人達もいるんだよねー」
「缶蹴り中も必要になると思いますよ。警備の人もお腹を空かせるでしょうし、何より途中で捕まってしまった人のためにもなりますから。それに、占いでも出ましたからね」
 顎の下に手を当てしばし考え、エミカが答えた。
「そういうことならいいよー。だけど、気をつけてねー」


・The great fish eat up the small.(弱肉強食)


「ったく、ちょうどこれからって時によ。
 ……おめぇらもこっち来て飲まねぇか?」
「芹沢さん、そりゃさすがに無理だ。あの顔が、誘いに応じるように見えるか?」
「ああ、見えねぇな」
 芹沢 鴨が警備そっちのけで宴会の準備を進めていると、武器を構えた一団や、大小様々な恐竜が姿を現した。
 酒を飲みながら余裕そうにしている鴨に対し、平助は相手をじっと見据える。
「……出来る奴は少ないな」
 だが、純粋に恐竜騎士団の一員と取れる人物はそう多くない。
「なんだい? ちゃんと今日は使用許可を取ってるはずだよ」
 椎名 真(しいな・まこと)は、殺気立っている強面の人達に向かって言い放った。
「真、言っても無駄だ。こいつら、単にここにいる契約者と自分達、どっちが上か示してぇだけだ」
 原田 左之助(はらだ・さのすけ)が不殺槍・星霜流を構えた。
「つっても、缶蹴りやってる連中が体力を消耗した頃合いを見計らって来たあたり、たかが知れてるがな」
「そうだね。それじゃ、ここでお引取り願おうか」
 真も鉄甲を装着した両腕で構えを取り、神ではない恐竜騎士団員――の下っ端と相対する。
「痛い目に遭いたくなかったら大人しく引け!」
 マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)が警告を行った。
 互いに間合いを保った状態だったが、その均衡を崩したのは日堂 真宵(にちどう・まよい)だった。
「いきなり出てきてなんなのよ。このッ!」
 手近な一人に、蹴りを繰り出した。
「ちょ、それじゃ警告の意味が……」
「うっさい!」
 なぜかマイトまで真宵に蹴られる。
「何で俺まで!?」
「何となくよ!」
 警備のはずのこちら側から喧嘩を吹っ掛ける形になってしまう。
「貴様ら……! やれ!!」
 掛け声と共に、大荒野の民達が一気に攻め込んできた。
「暑苦しいわね、もう」
 真宵がブリザードを繰り出し、自分も相手に向かって駆け出していき、飛び蹴りを食らわせる。
「公務執行妨害で全員逮捕だ!」
 マイトが歴戦の防御術と女王の盾で敵の攻撃を捌きながら、逮捕術を用いて取り押さえる。さらに戦闘用手錠を投擲し、敵を引っ張り寄せて延髄に一撃を与え気絶させた。
 次々と向かってくる敵に対し、ヒロイックアサルトも組み合わせ、天然理心流柔術と特技の柔道と武術を駆使して一人ずつ拘束していく。
 もし缶蹴りの守備として参加していたら、かなりいい線をいったことだろう。直接攻撃こそ出来ないが、事故に見せ掛けた不可抗力としての攻撃も上手くいなすことが出来たのかもしれない。
「あれ、弱い?」
 真はかえって驚いた。
 恐竜や暇を持て余した神とか、強い相手と戦うことになるとばかり思っていたのだが、それにしても弱い。
 相手の懐に潜り込んで一本背負いをしたり、顎に掌底を食らわせることで相手を動けなくする。
「でも、さすがに数が多いな」
 ならば、一気に蹴散らすまでだ。
 実力行使によって勢いのある蹴りを敵の足に見舞い、転倒したところで足を掴み、そのまま遠心力を利用して投げつける。
 それを目晦まし代わりに利用して、隙を見せた敵の懐に潜り込むと、拳の一撃で気絶させた。
「この程度の蹴りをかわせないようなら、缶蹴りのフィールドに足を踏み入れる資格はないわ!」
 同じように敵と戦っている真宵は、とにかく蹴りにこだわっている。
(まあ、確かに俺達なんかよりあっちの方が遥かに危険だとは思うけどね……)
 間違いなく、日本古来(といっても百年も経っていないが)の缶蹴りを知らない者が見たら誤解するだろう。
 後日、パラ実生の間で「姦華裏」といった形で流行らなければいいが……。
「さあ、何人でもかかって来いよ」
 左之助が槍で殴打し、薙ぎ払う。不殺槍・星霜流は、相手を殺さないように殺傷力をほとんど持たせていない槍だ。
 あくまで警備として向かって来る者達を追い払うのが最優先だ。それを考えれば、真を含めまだ優しいくらいだ。
 少なくとも、敵の一団の中にロケットランチャーをぶっ放したり、トラックで彼らを引こうとしたり、ドラゴンで突撃するような人はいないのだから。
「この程度で終わると思うなよ。行け、REX!」
 ここに来て相手も不味いと思ったのか、調教したらしい恐竜達をけしかけてきた。
「お、ようやくお出ましか」
 嬉しそうな鴨とは裏腹に、真を含め他の顔ぶれは苦い顔をせざるを得ない。
「REXが何よ!」
 真宵が天のいかづちをT−REXに見舞うが、さすがというべきか、まるで効いていない。
 それでも彼女は接近し、蹴りを繰り出した。
「グルァァァアアア!!」
 恐らくダメージはないだろうが、どうやらREXは興奮しているらしい。
「と、とりあえずあの細い脚なら……」
 巨体に似合わぬ細い脚を掴み、マイトがREXを転倒させようとする。しかし、さすがに持ち上がりはしない。
「どうだ、あの小娘にやられた日からずっと飯を食わせてねぇでいたんだ。今のコイツは飢えてるから、すっごく強暴だぜ?」
 ずっと戦わずに様子見を決め込んでいた男が、得意げに喋った。

「飢えている、か」
 それを受け、近藤 勇(こんどう・いさみ)は声を漏らした。
「歳、どうやら俺達も本気を出さねばならなそうだ」
「だな。いこうか、『兼定』」
 土方 歳三(ひじかた・としぞう)が応じる。
 新撰組の局長と副長は、自らの愛刀を抜いた。
 否、正確には空から飛来した、というべきだろう。
「近藤さん、土方さん、ここまで連れて来てたのか」
 呆気に取られたのは、左之助だ。
 T−REXと相対するのは、巨大クワガタの兼定と、巨大カブトムシの虎徹である。
「今宵の『虎徹』は、一味違うぞ」
 一味どころか、全く違う。そもそも刀ですらない。
「待て、おめぇら。何でそりゃ?」
 珍しく、鴨が突っ込みを入れてきた。
「芹沢さん、新撰組では今昆虫がブームだぜ。恐竜よりも昆虫だ」
「時代と共に相棒はその姿を変える。これこそ、今の『虎徹』だ」
「おい、平助。おめぇも何か言ってやれ」
「まさか芹沢さんが知らないなんて、初耳だ」
 一体いつの間に現れたのか、平助の背後には巨大カマキリの姿があった。
「マホロバで林崎師匠は仰った。生前、諸国の武者修行に出ている時最も苦戦したのは、蟷螂拳を剣術に取り入れた我流の使い手であったと。自然から学び、神より奥義を授かれとは師の言葉だ。しかし、それを近藤さんや土方さんが既に実践していたとは……知った時は驚いたもんだ」
 真宵が歳三の指示で密かに根回しを行ったためであるが、平助は何か妙な思い込みをしているようだ。品行はよろしくないが根は真面目なだけあって、ネタをネタだと思っていない節がある。
「虫ケラがいくらいたところで、オレのREXに敵うものか! やれ!!」
 T―REXが勇達に向かって突進してきた。
 恐竜対昆虫の戦いの火蓋が切って落とされ――、
「じゃぁかぁしい!」
 鴨が、REXの頭上に飛び、抜刀せずに鞘のままその頭部を殴打した。
 強い衝撃で脳が揺さぶられ、REXは倒れ伏した。
「ば、バカな……REXが一撃で……」
「あぁん? デカかろうが何だろうが、生きてるもんなら頭ん中揺さ振られりゃ動けなくなんだろ。安心しろ、死んじゃいねぇ」
 自治区の恐竜は一応保護動物扱いらしいので、間違ってでも殺したら大変なことになるらしい。
「芹沢さん……空気読んでくれ。今のは、恐竜王対昆虫王の頂上決戦。『最強の恐竜王相手に昆虫達が徒党を組むが、圧倒的な力を前に窮地に立たされる。だが、その時』っていう感じのシーンだろ? これじゃ漫画のネタとして、盛り上がりの欠片もねぇ。こんなんじゃギャグにもコメディにもなんねーぜ」
「確かにな。おかげで『虎徹』が血に飢え始めている。こうなる少々不味い。俺が」
 冷めた空気が流れ始めた。
「芹沢さん、とりあえずそのれっくすとかいうのを起こして、もう一回やり直したら?」
 なお、平助も近藤達についている。
 鴨がREXに近付き、鉄扇で頭をポンポンと叩いた。
「おーい、起きろーれっくすー。ああ、駄目だ。完全にのびてやがる」
「な……なんなんだお前ら! なめてんのか!?」
 この新撰組のやり取りに気圧されたのか、T―REXを放った恐竜騎士団らしき男は完全にビビっているようだった。足が震えている。
「く……こうなったら仕方ない。頼むぜ、先生!」
 その声に応じて、一人の男が姿を現した。
 目を布で覆い隠し、手には七メートルはあるであろうパイクが握られている。
「久しぶりですね、藤堂 平助」
「まさかこんなところで会うことになるとはな――『猛槍』のオイディプス」