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リアクション
そんな一行とは別に迷宮を進む……いや、彷徨う者達がいた。
「困りました……どこも同じ様な壁や構造ですから……」
ハァーッと溜息をつくのは千種みすみ(ちだね・みすみ)である。
「これでは、ミノタウロスに辿り着く事は勿論……家に帰れるかも不安です」
「大丈夫だよ、みすみ。私達もいるんだから!」
鬼崎 朔(きざき・さく)がそう声をかけると、みすみは朔を見て、頭を下げる。
「ごめんなさい!」
「え? どうして謝るの?」
「だって、元はといえば、私が無理言ってミノタウロス退治に参加するって言ったから……」
「そこは謝らないでよ。みすみに付き合うって言ったのは私なんだし」
朔は迷宮突入前に、やる気十分だったみすみを思い出し、「(みすみは可愛いな……このなでなでしたくなる笑顔を護る為に頑張らないと!)」と思う。
「みすみは私が守ってあげるよ! きっと! それにみんなともいつか合流出来る!」
「あら、朔? あたし達は守ってくれないの?」
妖艶に微笑むアテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)が朔に話しかける。
アテフェフの傍では、ビデオカメラ片手の花琳・アーティフ・アル・ムンタキム(かりんあーてぃふ・あるむんたきむ)がいる。
「う〜ん、あたしが情報で知ってる修学旅行と違うような……」
「花琳。これは修学旅行ではないのよ?」
「違うの? アテフェフお姉ちゃん!?」
「クスクス……あたしと朔との新婚旅行だもの。刺激的なのは仕方ないわよ」
朔がツッコミを入れるより早く、花琳が頷く。
「そうなんだ」
「クスクス。ミノタウロスというのは隠語よ。そして薄暗い迷宮は闇夜の言い換え……朔ったら、何時荒れ狂う牡牛のような二本のツノであたしを突き上げ……」
「深読みし過ぎだよ!! アテフェフ!! ツノ一本もないよ!」
やり取りを聞いていた花琳が笑う。
「……まっ、いっか! お姉ちゃん達の新婚旅行の方が楽しそうだし♪」
「クスクス……そうね、朔は新婚旅行は否定しないものね?」
「うん。そっちも違う」
朔が素早く否定する。
「えっ……違う?」
その言葉にアテフェフが非常に残念そうな顔をするのを花琳がビデオカメラで捉える。
「も、もちろん、冗談よ!」
目を逸らすアテフェフ。
「それにしても……旅行でミノタウロス退治になんて随分と刺激的なのね」
「アテフェフ、回復は任せたよ?」
「いいわ、朔をサポートするのがあたしの役目だし、思う存分暴れてきなさい。治療の時は、朔夜(アルラウネ)も手伝ってねね、クス」
「ああ……わかっ……」
朔はアテフェフがその後に、フフッ……怪我したらねっとりと至れり尽くせり治療してあげるから、という恐ろしい台詞を吐いたので、全力で「怪我をしないでおこう!」と決めた。
「もちろん、花琳とアテフェフも大事な家族なんだから護るに決まってる。安心してくれ!」
「フフフッ……朔ったら、回りくどい言葉で『あたしだけしか見えてない』なんて……」
アテフェフが頬を赤く染めて悩ましげな溜息をつく。
「言ってないよッ!?」
朔とアテフェフがやりあう中、花琳はビデオカメラで、先を行くみすみを捉えていた。
「(さ〜て、どんな弄るネタ……もといハプニングがあってもいい様にビデオカメラは離さないよ♪)」
その時、振り返ったみすみが叫ぶ。
「みなさん! 見てください!?」
「みすみ? どうした?」
朔がアテフェフを振り切るように駆けつけると、通路に種モミ袋が一つ落ちている。
「これは……」
朔がみすみの肩を叩く。
「なぁーんだ! ただのアイテムじゃない」
「はい……えっ!?」
驚くみすみの傍からヒョイとアテフェフが覗く。
「クスクス。幸先良いわね。早速迷宮で、アイテムを手に入れるなんて」
「みすみ! こっちにも種モミ袋が落ちてるよ……いや、これは、道しるべとして落としているのか?」
朔とみすみが落ちていた種モミ袋を辿ると、大量のプリオンで凶暴化した獣達の躯と、どうやらこれに立ち向かっったらしい6人の救世主(タネモミジャー)が瀕死寸前でいた。
「……」
「迷宮でこういう場合、何かイベントが起こるんじゃないかな?」
花琳がビデオカメラでその一部始終を撮っていく。
「クスクス……そうね。こういう場合、「オレ達は挑んだが負けた。後は頼む……」て展開になるわね」
そう言うアテフェフが花琳の持つビデオカメラを見て、
「それはそうと……この前のハロウィンはありがとう、花琳。クスクス……凄く堪能させてもらったわ、またよろしくね」
「ハロウィン? ああ、お姉ちゃんの衣装をこしらえた事ね? いいよ〜、あたしもお姉ちゃんの恥ずかしげな表情見れて良かったから♪」
花琳は朔の本当の妹であり、且つアテフェフとも幼馴染である。以前、彼女はアテフェフに頼まれ、ハロウィン用に姉を弄る為のコスプレ衣装を縫ったのだ。
「フフッ……朔以外ではあなただけよ、大好きなのは」
「えへへ、ありがとう、アテフェフお姉ちゃん。やっぱり、家族っていいよね!」
「クスクス、そうね……あ、その他の有象無象はどうでもいいから」
笑いあう二人の背後から、ヌッと現れる影。
「たす……」
「花琳! アテフェフ! 後ろ!!」
朔が叫ぶと同時に、みすみが剣を抜いて突進する。
「たぁーーッ!!」
―――ギィィンッ!!
薄暗い中より現れた影はカタール(両腕につけて敵を斬る刃状の格闘武器)でみすみの剣を受け止める。
「ふふ……あたしに、勝てるわけ……ない」
「みすみ! 手伝う!! 花琳とアテフェフは後ろへ!」
叫んだ朔がみすみの傍に並ぶ。
「私はみすみも、大切な家族も守ってみせる!!」
「クスクス、朔……。あたしをどこまで夢中にさせる気?」
「あ……た……し……」
四人の前の影が何か言おうとするが、花琳がビデオカメラを持ってズームをかける。
影の赤い長髪が見える。どうやら女性っぽいようだ。
「(あれ? この人、この格好、どこかで見た……あ!)」
花琳がとある人物の事を思い出す。
「今回はミノタウロス退治? いいじゃない! 対決物としては王道よ! どっちがミノタウロス倒せるか、勝負よ、みすみ!」
迷宮突入前に足を震わせながらみすみを指さしてそう叫んだのは、エリヌース・ティーシポネー(えりぬーす・てぃーしぽねー)であった。
「でも、エリヌースさん。修学旅行ですよ?」
「ふふーん! 修学旅行とか関係ないわよ! 今日も今日とて、アンタと勝負よ!」
「……わかりました。受けて立ちましょう!」
みすみの言葉に、エリヌースが満面の笑みを浮かべる。
「今日もたっぷり敗北感を味合わせてあげるわ! 『第一回クレタ島限定種もみ剣士選手権』の優勝者のご尊顔を拝み倒させてやるわ!」
「そ、そんな大会が開かれて……私も負けません!」
エリヌースの適当な嘘にみすみがガッツを燃やす。
「貴公ら、そろそろ行くぞ。準備はよいか?」
セルシウスの言葉に頷き、どんどん歩いて行くエリヌースとみすみ。そして、その背後を朔達が追いかけるのであった。
「(だから……護ってね! タネモミジャー! あたしは物陰からあんた達の指示出すから!)」
エリヌースの先を行く6名の救世主達が無言で頷く。
そう、エリヌースは今回も戦闘は彼らに任せっきりだったのである。
しかし……今回は様相が少し違った。後方からセルシウス達一行を守る術として、何とエリヌースは意外に役立ったのだ。
「自慢じゃないけどあたしの殺気看破での察知能力とオペレーション能力は自信あるんだから!」
だが、その慢心が隙を生む。
襲いかかってきた獣を倒すエリヌース(倒したのは救世主達)は、みすみに、赤髪をなびかせ、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「どう? みすみ! これでアンタは私以下の存在だって事が……があああぁぁぁぁーーッ!?」
「エリヌースさん!?」
タネモミジャーの奮戦する隙を狙って、巨大化した犬がみすみを口に咥えて走り去る。
「エリヌースさん!!」
すかさずエリヌースを咥えた犬を追うみすみ。
「みすみ……一人じゃ危険だ! 第一、ソレは放っておいても!!」
「ソレって言うなぁぁぁーーッ!」
遠くから聞こえるエリヌースの叫び声。
みすみを追った朔が走りだし、当然アテフェフと花琳も続く。
こうして、5人はセルシウスの部隊からはぐれ、行方不明となったのである。
………そして現在。
「(……面白そうだから、黙っていよう。うん♪)」
花琳の思惑のまま、よく見たら何だか半分位溶けかけているエリヌースは、みすみや朔達と対峙する羽目になる。
エリヌースが溶けかけている理由の詳細は定かではない。
……全くの余談になるが、犬はたまに道端で野草を食べて吐く事がある。あれは、胸やけやムカつきを抑えるための自然対処法だそうである。
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