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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?

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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
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 ここで話は夕方に遡る。
 キーワードは、陽が言ってた『コロッセオ』であるが、まずは、夕暮れのトレヴィの泉をご紹介する。
 ここはローマでも有数な観光名所であり、大勢の観光客でいつも賑わっている。
「荷物持ってもらって本当にいいの?」
「気にしないでよ。たまにはオレも先輩らしいところを見せないとね」
 雅羅に笑ってそう言うのは、荷物を両手に持った四谷 大助(しや・だいすけ)である。
 ふと、雅羅が後方を振り返り、
「あら? コウがいないわ……」
「え? ……あぁ、何処かに買い物にも行ったんじゃないかな? 若しくは、またナンパされてるとか?」
「買い物はスーツを買ってたみたいだし、そうなるとナンパね……イタリアって大変な国よね。コウが言ってたけど、イタリアの男は女性に声をかけないのは失礼と本気で考えているのかしら?」
 雅羅は、今日は朝から瓜生 コウ(うりゅう・こう)に連れられ、大助やルシオン・エトランシュ(るしおん・えとらんしゅ)と共にナポリへ訪れていた事を思い出す。

× × ×


「来年の就職、進学に備えてスーツを一着仕立てておきたい」
 そう話したコウは、雅羅達と共に、ナポリのとある工房を訪れていた。
「昔母親から名前を聞いた古い工房があるんだ」
 イルミンスールの新制服はスカートが似合わない、との理由から旧制服で修学旅行へ来ていたコウ。
 日本語、英語、イタリア語少々の言語能力を持つコウが率先してその工房を探す。
 ナポリの街には、伝統的な仕立ての工房が立ち並ぶ一角があり、雅羅は物珍しそうに通りを見る。
「随分、生産効率の悪いことしてるわね」
「オレ達が育ったアメリカとは違うよな」
 コウは、雅羅とは似たような、米国育ち・親族に疎まれた・ついでに銃使いという生い立ち故に興味があるんだ、と語る。
 しかし、中々曖昧な記憶だけでは工房は見つからず、仕方なく街行く人に話しかける。
「ちょっと聞きたい事あるんだけど……?」
 英語でまず話しかけてみるが、通行人の男は、コウを見て首を傾げる。
「(困ったな。イタリア語は今ひとつなんだが……)」
 今や地球の公用語となりつつある英語であるが、都市部から少し外れると全く通じないことが多い。
 コウは仕方なく、慣れないイタリア語でのやり取りを始める。
「こういう工房を探しているんだけど?」
 手に持ったメモを見せるコウ。
「ああ! そこは川を渡った向こうだよ」
「ありがとう。じゃ……」
「おっと、良かったら僕が送って行ってあげようか? 君や後ろの女性は太陽のように美しいから危ないよ?」
「……危ない?」
「その工房の場所は、イタリアマフィア、カモッサの本拠地なんだ」
「ありがとう。でもオレ達は大丈夫だから」
「そうかい。それじゃ、そこのカフェで珈琲でもどうだい?」
 男はコウにしつこく食い下がる。
 雅羅がコウに言う。
「コウ? 何て言ってるの?」
「オレや雅羅と珈琲を飲みたいって。別にいいけど変わったヤツだな」
「コウさん、それ、ナンパって言うッスよ?」
 ルシオンが言うと、大助が驚いた顔を見せる。
「……え、ナンパ?」
「ふぅん……」
 不慣れなイタリア語のせいか、それとも元々鈍感なせいか、コウはナンパされている事自体に気づいていなかった。
 だが、よくよく男の言葉を単語レベルで拾っていくと、『貴方の豊満なリンゴ二つ』や『黒い瞳に吸い込まれそう』等の歯の浮くような台詞が聞こえてくる。
「ゴメン。急いでいるんだ……」
 コウはしつこく食い下がる男にそう言って歩き出す。
 尚も追おうとした男であるが、一見頼りなさそうな大助が、珍しく威嚇の瞳を向けると、スゴスゴと退散していくのだった。

 たどり着いた目的の工房は、看板すら出ていない保守的な色合いが強い店だった。
「スーツをご希望ね……まず採寸させてもらうわよ」
 中年の女性のが銀縁眼鏡を光らしてコウを見つめる。
「わかった」
 頷いたコウが着ていた上着を一枚脱ぐ。
「あんた……刑事さんかい?」
「どうしてそう思うんだ?」
「いや……見間違いかもしれないが、上着の内ポケットに銃みたいなものが見えたからね」
 水道で手を洗った職人が、愛用していると思われるの古いメジャー取り出す。
「……母は刑事だった。この工房の名も母から昔聞いたんだ」
 職人がコウの顔を見つめる。
「他人の空似かもしれないけど、昔あんたと似たような人のスーツを仕立てた事があるんだよ」
「へぇ……オレと?」
「ああ。何でもホシを追ってアメリカからやってきた女刑事だった。ここはマフィアも多いしね。それにこの街で女性向けのスーツを作る職人はあたししかいない」
 ゆっくりと職人がコウのサイズをメジャーで測っていく。
「……その人は、どんなスーツを?」
「サルトリアラインをアレンジしたものだったかねぇ……もう随分昔だったから覚えていないよ」
 職人の言葉をコウが神妙な面持ちで聞いている。
「……あんた、胸大きいね」
「そう。胸はやや緩めで、まだ大きくなってるっぽいからな」
「わかったよ。そういやあの時の刑事も胸が大きかったね。今は居ないウチの亭主が鼻の下を伸ばしてたから、あたしがケリ入れてやったね」
 職人が笑い、コウもわずかに苦笑する。
「あとは、流れるような肩のラインと丸みを帯びたシルエットにして欲しい」
「あいよ」
「それと……その昔に来た女刑事と同じサルトリアラインをアレンジしたデザインで頼む」
「何だい? 知り合いなのかい?」
「さぁ……」
 コウが工房の天井を見て呟く。
 職人が物珍しそうに工房を見ていた雅羅に目をやる。
「あんたも仕立てるのかい?」
「え? 私?」
「あんたやこの人みたいに胸の大きな子のスーツは、あたしが一番仕立てるのに自信があるよ」
「でも……10万Gでしょう?」
「そうだよ。何せ、年に月の数より少ない数人しか作れないからね」
 工房の壁には、仕上がったり制作途中だったりする女性向けのスーツが並んでおり、大助とルシオンが見つめている。
「また、今度出来上がった時に取りに来るだろう? その時まで考えたらいいよ」
「ええ、そうするわ」
 雅羅が言うと、職人が彼女の胸を見つめて笑う。
「まだまだ大きくなりそうだしね。そこのあんたもそう思うだろう?」
「え? ……大きく?」
 突然話しかけられた大助が戸惑っていると、全てを聞いていたルシオンがニヒヒと笑い、大助に耳打ちする。
「大さん。ここは『オレに任せとけ』って言っておくッス」
「え……ああ、オレに任せておいてよ」
 大助の言葉に職人が雅羅に笑う。
「だってさ?」
「……知らない」
 プイとそっぽを向く雅羅と、「あれ? 何かおかしな事言ったかな?」と首を傾げる大助。
 そんな中、コウは昔から続く工房を見つめて何か懐かしい気分を感じるのであった。