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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?

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第六章:クレタ島の迷宮(その2)
 ……。
 …………。
 ………………何でだろう?
 今までの人生が頭をよぎってるよ。

 そういえばついこの間アイドルデビューとかしたっけ。その場の流れで……。
 死体で発見されたらニュースになるかなぁ?

 迷宮の硬い床の上で、襲いかかってきた獣達をひと通り撃退した鳳明が寝返りを打つ。
「ふはは……せめてわしが生きた証をここに残そうぞ!」
 鳳明の前では既に空腹のあまり幻覚症状が出始めたヒラニイが、手にした短い芋けんぴで無謀にも迷宮の柱に自分の名を刻もうとし、天樹は『食べないで』と大きく書いたホワイトボードを胸にしたまま安らかに寝息を立てている。
「(あれ? 何か……人の声がする……それとも天使かな? 私、とっても眠いのよパトラッシュ……)」
 鳳明が目を閉じて耳を済ますと、複数人の足音と話し声が聞こえる。
 それは、撮影場所を迷宮に移した未散や衿栖達のクルー達であった。

× × ×


「溢れる嫉妬は愛の証! 悪の魔法少女アイドル☆サトミ!」
「溢れる闇(病み)は愛の証! 悪の魔法少女アイドル☆アカリ!」
「「ふたりはヤンデレーション!」」

 迷宮内で変身したサトミと朱里を前に、未散と衿栖が狼狽える。
「朱里!? ……どうして、あなたがヤンデレーションなの!?」
「衿栖がいけないのよ……朱里という者がありながら……転校生の未散とばっかりイチャイチャして……私は未散さんと衿栖の仲を取り持つだけの存在じゃないわ!」
 朱里が迫真の演技を見せれば、サトミも黙っていない。
「みっちゃん。僕だけを見て? 僕もみっちゃんだけしか見てないよ?」
「わ、私は……」
 予想外の告白に戸惑う未散に、ニッコリと笑うサトミ。
「みっちゃんは、衿栖にしょうがなく付き合っているだけなんだよね? ね? ね?」
「サトミ……?」
「だから、僕がみっちゃんの重荷になっている衿栖を消してあげる」
 サトミは笑顔のまま、光条兵器の大鎌【マジカル☆クビカル】を手に持って構える。
「サトミ、衿栖は朱里のモノ。傷つけたら駄目よ?」
 巨大な剣【マジカル☆ヴァルザドーン】を朱里が持ち上げる。
「わかってる。朱里ちゃんも僕のみっちゃんをあまり虐めたら駄目だよ? ……ああ、でも傷ついて、満身創痍なみっちゃんを僕が手取り足取り介護してあげるのも……イイッ」
「衿栖! 来るぜ!?」
「二人とも変身だワン!」
 空気を読んだカイが、台本通りに二人に変身をうながすが……。
「できませんッ!?」
 その場にへたり込む衿栖。
「衿栖!?」
 未散が屈むと衿栖は未散の手をとって泣き出す。
「だって、朱里さんもサトミさんも私達の友達なんですよ!? 友達を倒す事なんてできませんっ!」
「でも! 今やらなきゃ、こっちがやられるんだ!?」
「みっちゃん、どいてーーッ!!」
「チィ!?」
 未散がマジカル☆クナイで、衿栖を庇いつつサトミの大鎌を受け止める。
「ねぇねぇ、みっちゃん、どいてくれないと、そいつ殺せないよぉー?」
「どうして私じゃなくて衿栖を狙うんだ!?」
「え? だってそうすればみっちゃんは僕だけのみっちゃんになるんだよ? ……僕だけのみっちゃんになってよぉー! パンツ一杯買ってあげるからぁぁ!!」
「いらねぇぇぇ!!」
「その命の事?」
「今度は……朱里か!」
 未散がマジカル☆クサリガマで、朱里の大剣を受け止める。
「友情なんて、愛の前では何の意味もないこと朱里が教えてあげるよ!」
「ふ……ふざけるなぁーーッ!!」
 叫んだ未散の体が発光して二人をはじき飛ばし、マジカル☆アイドルコスチュームにチェンジする。
「素直じゃないのは愛の裏返し! 魔法少女アイドル☆みちる!」
 変身した未散が、自分の台詞に疑問を持ちつつも、マジカル☆クサリガマとマジカル☆クナイで二人の前に立ち塞がる。
「そこのヤンデレーション! 嫉妬なんて下らないぜ!? まさにS・H・I・T!だ。第一、楽しくやっていた学園生活を壊そうとする態度が気に入らない!」
「ああ、みっちゃん……変身すると更にスカートが短くなって尚素敵……」
 サトミがうっとりと未散を見つめる。
「でも、衿栖はまだ変身していない……全然、殺れるよ」
 朱里が見ると、カイが衿栖に話かけている。
「衿栖、変身するワン! 未散だけ戦わせる気かワン!」
「カイ……私は駄目、駄目なんです! 友達を倒す事なんて出来ません!」
 カイがそっと衿栖の肩に手(足?)を乗っける。プニュとした肉球の感触が伝わる。
「倒す必要なんかないワン。気付かせてあげるんだワン」
「え……?」
「未散への思いが本当で、朱里やサトミとも仲良しでいたい……そんな衿栖の気持ちはわかるワン。けど、花が実をつけ、そして枯れて種を落とす様に、同じ関係のままずっと一緒なんて、そんな永遠は無いワン」
「……」
 衿栖が涙ぐんだ目で未散達の戦いを見つめる。
「でぇぇい! 衿栖が居ないと、後ろがガラ空きで困るけどぉぉーー!! (てか、この迷宮風強くね?)」
「あー、みっちゃんのパンツみーえた! 今日の色は……」
「サトミィィ!!」
 二刀流と歴戦の防御術で身を守りつつ、殺気看破で動きを読んで朱里とサトミ相手に戦う未散だが、やはり二人相手は分が悪い。というか、ずっと片手でお尻のスカートを押さえているのが気になる。
「私、転校生の未散さんも幼馴染の朱里も、ちょっと未散さんのストーカー疑惑があるサトミさんも、みんなを守りたい」
 衿栖が拳を握って立ち上がる。
「だから、私は私に出来る事をします! カイ!!」
 おすわりして衿栖を見ていたカイが頷き、
「変身だワン!!」
 衿栖の体が発光し、マジカル☆アイドルコスチュームにチェンジする。
「デレたからって、攻略完了じゃありません! 魔法少女アイドル☆えりす!」
「衿栖!?」
 未散が衿栖と並ぶ。
「お待たせしました……ようやく吹っ切れました」
 衿栖がニコリと笑い、未散が照れたような顔で鼻の頭を掻く。
「よぅし……じゃ、二人揃ったところで『アレ』やるか?」
「はい!」
 衿栖と未散がポーズを決める。
「魔法少女アイドル☆えりす!」
「魔法少女アイドル☆みちる!」
「「2人合わせてツンデレーション!!」」
 神々しくポーズを決める二人。

「カーーーットッ!!」

 統の声が迷宮内に響く。
「最高だ! 良かったぜみんな!!」
「……ふぅー」
 衿栖が長い溜息をつく。
「衿栖、すごい名演技だったぜ」
 未散が衿栖を褒める。
「ええ……長台詞が一杯でちょっと厳しかったですけど。でも、私よりカイさんの方が」
 カイは迷宮の床に『伏せ』の状態で台本を読んでいた。どこかその後姿に哀愁が漂っている気がするが……。
「みっちゃんみっちゃんみっちゃん……」
 仲良さげに話す二人を見つめて、役に入り切っているサトミが小声で呟く傍で、朱里はレオンと話をしていた。
「後は……和解して、共闘してミノタウロスを倒すってシナリオだったよね?」
「人の心を震えさせるのは本物の輝きだ。本当の戦闘が放つ緊張感と迫力はどれだけレベルの高い殺陣にも勝るからな」
「……で、辿り着けそうなの?」
「ハル、どうなっている?」
 レオンが呼びかけられたハルが、銃型HCでマッピングしていた迷宮内の構造を読む。
「はい。わたくしの銃型HCによると、もう少しで辿り着きそうだとは思うのですが……やはり、セルシウス様がいないと……」
「ウワァァァーーンッ!!」
「何? 獣!?」
 未散が身構えると、奥から猛ダッシュで鳳明が走ってくる。
「人だぁぁーーッ!! 会いたかったよぉぉーーッ!!」
「鳳明! わしを置いていくなぁぁ」
「……」
 鳳明の後ろからヒラニィと『祝!』と描いたホワイトボードを持つ天樹が駆けてくる。
「……どうもわたくし達以外にも彷徨っている方がいたみたいでございますね」
 ハルがそう呟き、お茶の準備をしようとすると……。
「ヌゥオオオォォォーーッ!!」
 ドタドタとまた迷宮内の奥から足音が聞こえる。
「また、遭難者でしょうか?」
 衿栖が目を凝らして見ると、長身の女性……の格好をしたセルシウスが走ってくる。
「セルシウスさ……ん?」
「おお! いつぞやの貴公達か!?」
 ゼェゼェと息をするセルシウス。
「何で女装してるんだ? まさかそういう趣味が……」
 未散がセルシウスの格好を見て、一歩後退しかける。
「待て! これには理由があるのだ!!」
 慌てたセルシウスが説明を始めると、ハルが鳳明達に出そうとしていたお茶のカップをもう一つ用意し始める。