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ユールの祭日

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ユールの祭日
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●●● 折れた槍

なんとか一戦目を切り抜けた後藤 又兵衛だが、途方にくれていた。
槍が切断され、使い物にならなくなっていたからだ。

と、何者かが彼の肩を叩いた。
織田信長である。

「おう、本当ならば俺の仕事じゃないが、これを使え」

差し出された槍は、天下無双の名槍『日本号』であった。
もともと天皇家から足利家に下賜され、その後信長、秀吉といった武将を転々とし、最後には又兵衛の手に渡った槍である。

そういう次第で又兵衛は本来の愛槍を手に勇気百倍。

対するはユリウス・プッロ。
東西の槍使い同士の激突だ。

双方とも、難しい策略には頼らないタイプである。
互いの槍のどちらが、先に相手を捕らえるか、それで勝敗は決する。

シュン、二本の槍が唸った。

次の瞬間、倒れていたのは又兵衛のほうであった。
ユリウスの投槍術が、間合いにおいて有利であったのだろう。


●●● ファイナル・カウントダウン

次に対決したのは原田 左之助と織田 信長である。

「うおー! 珠代さんだァー!!! おい、そこをどけ!」
「な、なにをする!!」

モヒカンの男、南 鮪(みなみ・まぐろ)がアウナスを無理やりどかせて、席を占領してしまった。

「あら。そういえば信長公のパートナーだったんだっけ?」
珠代の質問に鮪は胸を張った!
ちなみに今まで何をしていたかというと、美少女英霊のパンツが見えないかとなるべく低い場所に陣取っていたのである。

「ヒャッハァー! 俺様ほど英霊(のパンツ)に詳しい男はいねえぜェー!!」
「そうなんだ? どの英霊が強いと思う?」

鮪は自信たっぷりに、何人もの「世界的英雄」の名前を挙げた。

・ナポレオン
・カエサル
・秦の始皇帝
・チンギス・ハーン
・アル・カポネ
・カメハメハ大王
・徳川家康
・佐々木小次郎
・アレキサンダー大王
・トーマス・エドワード・ロレンス
・バスコ・ダ・ガマ
・ガンジー
・ロアルド・アムンゼン
・織田信長
・武蔵坊弁慶
・霧隠才蔵

(えっ、なにそのメンツ、どういう基準なの!?
 それにアルカポネとロレンスとガンジーとアムンゼンはまだ英霊になれてないし!)

「あとは忠臣蔵の赤穂四十七士だなァ。
 だけどどんな英霊も(高木)陽子さんに比べたら雑魚も同然だぜェ!
 なァ〜陽子さん来ないのかよォ〜〜!?」

来ません。


「おい織田の、俺のとっておきは返してもらうからな」
「やれるもんならやってみい」

信長はにやりと笑って、恐るべき宣言をする。

「これより織田内閣発足を宣言する! 首長たる内閣総理大臣はわし、織田信長じゃ!」
「総理大臣襲名だと……だがそれで戦えるのかよ」
「自衛隊に出動命令を出す。これよりあの不逞の輩をひっとらえい。
 これが織田軍団の強さの秘訣よ」
「げええー!!」

どこからともなく戦車や自衛官が姿を現す。
ガタガタと迫る戦車は、想像以上に恐ろしいものだ。
自衛官は発泡命令を受けて、小銃による射撃を開始する。

タタタタタ。銃声が響く。
銃弾を受けて、左之助は倒れた。
「くそっ政府め……!」

「わしの勝利じゃな」
信長は勝利を確信したものの、不思議なことに左之助の姿がない。

「……? どういうことじゃ? 捜索せい!」
自衛官が周囲の捜索を始めると、妙な老人がやってきた。

「何奴? 邪魔じゃ、どけい」
「わからんか。
 ふふふ、俺は……馬賊となって生き延びた原田左之助よ!」

原田左之助の秘技、『馬賊伝説』である。
左之助は戦死したと伝えられているが、それから数十年が経過して
「自分は生き延びて馬賊となっていた原田左之助だ」
と主張する老人が現れたのである。

自称馬賊となった原田左之助の号令一化、馬賊軍団が自衛隊に襲いかかった!
馬賊からドラゴンに乗り換えており、龍賊とでもよぶべき恐ろしい連中である。

戦車の対空砲が火を吹き、ばたばたとドラゴンが地に落ちる。
ドラゴンの吐息が自衛官を焼く。
もはや怪獣映画としか思われぬ情景であった。


この恐ろしい戦いに乗じて、自身もドラゴンに乗った左之助(老人)が信長に襲いかかる。
信長は落ち着き払ったもので、ドラグーン・ライフルを取り出し左之助を撃つ。

どさり。
落馬もとい落龍する左之助。

「馬賊では自衛隊の最新装備には勝てんのう」


鮪は奇声を上げている。
珠代は黙って席を立った。


●●● イントレランス

初戦を勝ち抜き、荀灌はだいぶん自信をつけていた。
次の対戦相手がペルシャ王ダレイオス1世と聞いても動揺はない。

ダレイオスは初戦で1万の大軍勢を披露してみせたが、荀灌にはそれさえも突破できる自信があった。
ダレイオスの様子を見に行ってみると、配下とおぼしき2人の男と何やら相談している。

ひとりは目元を布で覆い、布には大きな目の文様が描かれている。
もうひとりは大きな耳あてをつけ、これにも大きな耳の文様があった。

薄気味悪く思いながらも、荀灌は軽く準備体操をして出番を待っていると、小倉珠代がにこやかに微笑みながら近寄ってきた。

「荀灌ちゃん、ちょっといいかしら」
「えっ、何の用ですか?」

珠代は今回の『祭日』の仕掛け人だが、そもそもダレイオスのパートナーであるとも聞く。
いうなれば敵方の人間だ、荀灌が警戒するのも無理はない。

「ええと呼びにくいから『じゅんちゃん』か『かんちゃん』って呼んでいい?」
馴れ馴れしい。

「じゃあ灌ちゃんで」
「灌ちゃんのことは殺禍(サッカー)で見かけて以来、可愛いって思ってたの!
 あ、お菓子食べる? ビスケットあるけど」
「いりません。用事がないなら帰って下さい」

「まあそういわないでよ。
 これから灌ちゃんと戦うダレイオス1世はね、あなたの身辺を調査してたのよ。
 気づいてた?」
「えっ!?」

「『王の目』『王の耳』という、まあスパイね。
 それで相手の戦力を分析していたの。それがダレイオスの必殺技よ」
「ちょっと待ってください、なんで私にそんなことを教えるんですか?
 ダレイオス1世さんは、珠代さんのパートナーじゃないんですか!?」

「それが問題なわけよ。
 わたしはこの戦いの主催でもあるから、もしもダレイオスが優勝なんてことになったら主催のひいきだの、イカサマ試合だのって言われるのが目に見えてるじゃない?
 だから灌ちゃんにとってあんまり不利な状況で戦われても困るわけ」
「……ちょっと待ってください!
 私が不利なんですか!?」

「今回、ダレイオスはもう必殺技を使っているわ。
 つまり『不死隊』はナシってこと。
 あなたの『敵中突破』は役にたたないかもね。
 それじゃまた後で、お茶でも飲みましょ!」

そういうと、珠代は手を振りながら去っていった。


珠代の言葉が嘘か真か、荀灌にはさっぱり見当がつかない。
しかし相手は(たとえ戦力分析が目的だとしても)自分のサッカーを覚えていた。
そう思うと、また別の自信が湧いてくる。

ダレイオス1世は先の戦いと同じく、チャリオットに乗り、槍と楯で武装していた。

「なかなか良い目をしておる。
 かかってこい。それともこちらから参ろうか」

「子どもと思って甘く見ないで下さいね」
「その年ならば子を生むこともできよう、子供とは思わぬ」

そういいながらも、ダレイオスが荀灌を子供扱いしているのは態度から明らかだ。

自慢の足を頼りに、荀灌は走った。
相手の油断している隙さえつければ! その一念で走る。
しかしダレイオスは悠々と槍を振るい、一撃で荀灌を叩き伏せた。

ダレイオスは荀灌について調べ、ほかに奇策がないことを知っていたのである。
だからこそ堂々と正面に立ち、勝負に挑んだのだ。

「帰れ、小娘。
 この場に留まりたいというのなら、我が6番目の妃となるほかないぞ」

勝ち目がないと悟り、荀灌はその場を後にした。


「灌ちゃんでも無理かぁ……
 それじゃ次は……」