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自然公園に行きませんか?

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14


 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)と、もっと深い仲になりたい。
 そう、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が切に望んでも、フレンディスは一切気付かないから困りものだ。
 想いを伝えても、返答は曖昧。
 それ以降も進展らしい進展はなく、非常に中途半端な今現在。
 なんとか状況を動かそうと、空京にある自然公園に出向き、おあつらえ向きに展開していたオープンカフェに入ったものの。
「…………」
「…………」
 会話らしい会話すらない。
 フレンディラはお茶を飲み、視線があっちへ行ったりこっちへ行ったり。そわそわしているのがよくわかる。
「何きょろきょろしてんだ」
「あ、えっと……わたげうさぎさんご一行がいらっしゃられると聞いたので、見かけないかなあ……と」
 ふうん、と頷きコーヒーを飲む。表面上はいつも通りの顔をして、他愛のない雑談を交わすが。
 ――なんだよ、あいつらの方が気になるって?
 ――いやでも、脈ありなのは確かだから。そう悲観的に捉えちゃいけねぇよな。
 そう思うものの、けどなあ、と考えてしまう。
 フレンディスの、ぴこぴこと動き続ける耳と尻尾。落ち着きがないのはどうしてだ? いったい彼女は何を考えているのだろう。


 ……フレンディスの内心では。
 ――あわわぁあ……。
 いろいろと、大変なことになっていた。
 ――こ、これは所謂デートというものなのでしょうか……?
 ――男女が二人きりで休日を過ごす。それっぽいですが……。
 ――いえしかし! マスターはそうとおっしゃっていません……私の勝手な勘違いでしたら恥ずかしすぎてもう顔も合わせられません……確かめられないです。うう……。
 混乱と期待で、ぐにゃぐにゃと心がもみくちゃにされる。
 結局、心の中での結論は『護衛』となった。外の世界は危ないのだ。だから、自分はここにいるのだ。……正直、よくわからない理由だと思ったけれど気付かないふりをしておく。
 ――それに致しましても……。
 フレンディスは、目を閉じてコーヒーを飲むベルクを見た。
 強くて、周りのことをよく見ていて、的確な判断を素早く下してくれて、俺様気質なのに常識人なところがあって。
 ――それを、わたしは尊敬していて。
 すごいと思っている相手。
 マスターと呼んで、忠義を誓っている相手。
 ――……何故、マスターは私などのことを思って下さっているのでしょうか……。
 考えても考えても、わからない。
 そして、考えるほど、嬉しくなって、恥ずかしくなって、頬が熱くなる。彼の顔を見れなくなる。
 だけど、いつまでもそうやって逸らし続けていてはいけない。今日こそは考えるのだ。彼が自分を思ってくれているわけを。
 記憶を遡る。出会ったあの日まで。
 ――はっ、もしや……!
 ベルクが目を覚ましたとき、彼が一番最初に見たのがフレンディスだった。
 ――イン、何とかというものではないでしょうか……。
 目を覚ましたときに、初めて見たものを親と思い込んで慕う現象。
 あれではないか?
 もしそうならば辻褄が合う。
 ――いけません。マスターの勘違いを解かなくては!!
 まさしく自分の思考が勘違いであると、フレンディスが気付くのはいつの日だろう。


 鈍感娘に恋をした彼はというと。
「…………」
 なにやら百面相をはじめたフレンディスを眺めていた。
 ――何考えてんのかねぇ……いまいち本心が読みきれねぇんだよな。
 ベルクもまさか、自分がヒヨコ扱いされているとは思うまい。
 なので、ただフレンディスを見る。彼女の心のうちを少しでも知れないかと。
 彼女は、返答を躊躇している。
 ――その理由があるのは間違いねぇが……。
 理由を追求しようとしたら逃げられてしまうだろう。
 だから、待つしかない。
 ただただひたすら、答えを。
「…………」
 厄介な相手に惚れてしまった。
 鈍感で、天然で、勘違い。いらない要素が三拍子そろっている。
 今日のお出かけも、デートとは思わず護衛だとでも思っているのだろう。想像に難くない。
 ――つっても、こーやってこまめにフレイを誘うしかねぇんだよなぁ……。
 たくさんたくさん、誘うから。
 いつか、この気持ちに気付いて欲しい。
 微妙な状況が続いても、待つから。
 ――そーいやぁ今頃、熊の奴も苦労してるんだろーなぁ……。
 似た境遇の男のことを思い出し、心の中で手を合わせた。


*...***...*


「ふあ〜、気持ちのいいお天気だねぇ」
 伸びをしながら、天禰 薫(あまね・かおる)が言った。そうだな、と熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)は頷き景色を眺めた。
 咲き誇る、薔薇や芝桜。
 空の青と雲の白。
 吹き抜ける風は初夏の匂い。
「のんびりするにはもってこいなのだっ」
 と、薫が言うのも頷ける。そんな天気だった。
「ねえねえ孝高、くまさんになってもらってもいいかな?」
「なに?」
「くまさん。もふもふに寄りかかりたいのだ〜」
 熊。内心で一度繰り返す。
 薫の頼みとあらば断りたくないし、別に構わないけれど。
 ――寄りかかるんならヒトの姿ん時に寄りかかってほしかったなぁ。
 と思わずにはいられない。もちろん、言わないけれど。
「ほら」
 熊の姿に変わると、薫が「わあ」と嬉しそうな声を上げて孝高に寄りかかってきた。無邪気に笑っている。
「くまさんの孝高、ふかふかなのだ。気持ちいいのだ〜……」
 それから、うっとりとした声。あまり理性によろしくない。
 孝高の心情など露知らず、薫は天禰 ピカ(あまね・ぴか)わたげうさぎロボット わたぼちゃん(わたげうさぎろぼっと・わたぼちゃん)を手招いた。
「ピカ、わたぼちゃん。我の膝においでなのだ。ふたりも、もふもふしようねぇ」
 ぽんぽん、と薫は自身の太ももを叩く。「ぴきゅぴきゅう」と、ピカが嬉しそうに声を上げて膝に乗った。
「ピキュピ、ピキュウ〜」
 わたぼも、とでも言うように、わたぼちゃんも薫の傍に寄る。
 みんなでもふもふ。
 ぴきゅピキュ二人の鳴き声と、楽しそうに笑う薫の声。
「もふもふ、もふもふ、気持ちいいねぇ」
「そりゃ何より」
「たまにはこんな風に、のんびりしたのもいいねぇ」
 不意に、声のトーンが下がった、気がした。
「我、なんだか色々、焦ったり、落ち込んだりしているから……」
「…………」
「時々こうして立ち止まって、みんなとのんびりして、たくさんお話して、笑って……」
「…………」
「そうしたら、また、立ち上がって、頑張るのだ」
 声の調子こそ、いつもより低いものだったけれど。
 力強さは平時よりあって、意志の強さが窺えた。
「それでね、あとは、ね…………」
 突然、声が途切れた。寄りかかる重みも増える。
「……薫?」
 声をかけた。返ってきたのは寝息だった。
「ぴきゅぅ〜」
 ピカが、薫の顔を見て声を上げた。寝ちゃった、と言っているのかもしれない。
「ピキュピキュ」
 わたぼちゃんも、たぶん同じようなことを言っているのだろう。言い終えてから、わたぼちゃんは薫に寄り添った。そのまま目を閉じ、一緒に眠り始める。
 ピカも二人の様子を見て、寝ることにしたらしい。目を瞑ってしまった。
 静かな空間に、孝高は取り残される。
 眠りについた三人を、薫を、見て。
「お前は頑張り屋だからな」
 優しく、声をかけた。
「たまには休んだ方がいい」
 そんな、いつも頑張っていたら、いつか破裂してしまうから。
 適度に休んで欲しかった。
「俺たちが、傍にいるから」
 ああ、やっぱり。
 ――ヒトの姿だったら良かったなぁ。
 そうすれば、薫の頭を撫でてやれるのに。