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リアクション
余興として、龍騎士団員は演奏を披露し。
ハーフフェアリーの村人はダンスを。
大工達はその場で、まな板を作って晴海にプレゼントをした。
「私も歌わせてもらってもいいかしら」
晴海の友人席から申し出たのは、ディーヴァのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だった。
親族と司会の許可を得て。リカインは舞台に上がる。
それからもう一人。
「ボクもプレゼントの歌、歌うです!」
ゴスロリドレスを着た、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、ヴァイオリンを持って、ぺこりとご挨拶。
「おめでとうです!」
笑顔で心からの祝福の言葉を、2人に贈る。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
レストと晴海がヴァーナに微笑み返した。
「それじゃ、歌うです!」
そして、ヴァーナーも舞台へと上がって。
「ご婚約おめでとうございます――」
「歌を贈ります。聞いてくださいです!」
祝辞を述べた後、リカインとヴァーナーが歌い始めたのは『幸せの歌』だった。
心に幸福を呼び起こす、歌。
リカインは、晴海と直接関わりがあったわけではない。
だが、彼女も離宮問題に関与していた為、晴海のこと――彼女が鏖殺寺院に与していたということは、記憶に残ってはいる。
これだけ契約者がいるのなら、何か起きてもおかしくはないということ、も。
晴海を恨んでいる者がいてもおかしくはなく。
鏖殺寺院が、彼女を狙っている可能性も、なくはない。
だから、リカインは何の柵もない、一般の契約者として、彼女にそっと注意を払っていた。
ヴァーナーは、白百合団に居た頃の晴海のことを知っている。
深い関わりはなかったけれど。
晴海が救護に長けた、白百合団員としてとても素晴らしい先輩であったことを、覚えている。
もしかしたら、当時は『嘘』の姿だったのかもしれないけれど。
今は多分、本当の姿と想いで、共に歩む人を癒しているのだろうと思う。
(アルカンシェルでがんばったレストおにいちゃんと晴海おねえちゃん。応援するですよ〜♪ 村のみんなもしゅくふくしてるです!)
村のハーフフェアリーに、2人はとても歓迎されているようだった。
「晴海も、皆を幸せにする歌、得意だよね」
「魔法や魔法歌は十八番だもの」
瑠奈とティリアがそう言い、晴海は首を縦に振った。
「一緒に、歌わせてください。皆様に幸せをお分けしたいです」
言って、晴海は立ち上がり、レストに礼をして許可を得ると、皆が見守る中、舞台の方へと歩いていった。
彼女がレストから離れて。
リカインが手を差し出して迎えようとした、時。
警戒していた契約者、龍騎士達が殺気を感じ取る。
「あなたが動くほどのことではない」
祝辞を述べに、メインテーブルに向かっていたクレアが言った。
「彼女の歌を、聞かせてもらおう」
クレアが勢いよく、舞台の方へと手を伸ばした。
「まぁそうだな、騒ぐことのほどじゃねぇ」
ラルクは小さな声で言った後。
「盛り上げるぞ! こい!」
と、拳を入口の方向に向かい、突き出した。
「余興は、素敵な女性に任せます」
「歌はパスっ! 大荒野のリサイタルで十分」
白竜や伏見 明子(ふしみ・めいこ)、それからエリシアが外へと駆けていく。
「っと、逃げんなよ、祝いの席だぜ〜。歌おうぜ!」
ラルクも彼らを追うように、笑顔で走っていった。
「……気分が悪いようだ、救護室へ案内を頼む」
レストは立ち上がらずに、付き添いの女性に言った。
「畏まりました」
女性は、青ざめた顔で毅然と立っているクレアに近づいて、彼女を会場の外へと連れていく。
――親族や、一般の客たちには何かが起きたことなど全く分からないまま。
友人と、晴海の歌が始まった。
リカイン、そして晴海、傍にいた瑠奈とティリアも気付きはしたが、皆を不安にさせてはいけないと、そっと頷き合って歌を歌っていく。
幸福を呼び起こす、幸せの歌を。
リカインは晴海を自分の側に引き寄せた。
もしもの際には、自分自身を盾とする覚悟もあった。
「もう、何も感じない。追っていった人たちに任せれば大丈夫」
間奏中に、リカインはそっと晴海に囁いた。
「ありがとう」
礼を言った後、晴海はレストに目を向けた。
レストが軽く首を縦に振り――風を起こした。
歌を運ぶ風を。
幸せを運ぶ歌が、会場いっぱいに広がって。
人々は安らかな笑みを浮かべていく。
(ちょっと、こわいことありそうでしたけど、もうだいじょうぶです)
晴海を狙った者がいることに、ヴァーナーも気づいていた。
彼女は舞台の中央に立って客たちを見回し、式を壊したいと思っている人が、潜んでいないかどうか確認していく。
「私も一緒にいいですかぁ」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、舞台に上がってきた。
「大丈夫ですぅ」
メイベルはヴァーナーにそう微笑んだ。
殺気看破で探っても、害意は特に感じられなかった。
「はい」
ヴァーナは微笑み返して、ヴァイオリンを弾き始める。
(わるいこと考えている人、いないです。みんなで歌うです――)
ヴァーナーが奏で、歌い始めた歌は、エリュシオンにも知れ渡っている讃美歌だった。
そして、地球にも。
船内で歌われた歌でもある。
「知ってる人は、いっしょに歌うです! しらない人もおぼえるです。そしてボクたちにも、みんなの知ってる歌を教えてくださいです!」
「歌いましょう〜」
ヴァーナーとメイベルがそう言うと、会場に集まった人々も、一緒に歌いだす。
柔らかな風が吹いていき。
幸せに、包まれていく。
会場内からあふれ出て、街全体に――。
「流石にこっちは静かやね〜」
会場に入れなかった……むしろ、本気で入るつもりはなかった裕輝は、木の上でのんびりしていた。
「……前言撤回、静かやったね〜」
突然、会場の方からすっ飛んできた何かが、彼のいる木の根元に転がり落ちたのだ。
「というわけで、コレ、じゃまやん」
言って、転がっている何かの元に下りて、人の集まっている方に蹴り飛ばすと。
再び木の上に登って、繰り広げられる余興を楽しみながら、のどかな時間を1人楽しむことにした。
会場には、良くない感情を抱いている者も、少なからずいるようだった。
そして、晴海とレストが離れた瞬間。それとは別な、明らかな殺気と思われる気配を、警戒に当たっていた者達は感じ取った。
次の瞬間、ハーフフェアリーに紛れて空に飛び立った人物が、パチンコのような道具で舞台を狙った。
放たれた弾は、クレアが自らの腕で受けた。
弾は爆発はしなかった……が、弾には毒が仕込まれていた。
腕を突きだしたラルクは、手で仲間達に弾が飛んできた方向を示し。
即座に、明子が空に向かって真空派を放ち、無関係の人や、設備は傷つけず、狙撃者を遠くへと飛ばしていた。
「兆候の段階で片付けられればと思いましたが……。あまり大事にならないよう、ご配慮を。伏見明子さん、ラルク・アントゥルースさん、特に君達は有名ですから」
白竜は前を走る明子と、自分に続くラルクにそう注意を促す。
「わかってる。今回はお祝いに来たんだしね」
明子が胸のボタンをむしり取る。
「なるほど、暴力は控えて、色仕掛けですか」
「ちがーう」
明子は取ったボタンを神威の矢の能力を用い、指弾で飛ばす。
「うっ」
木蔭に潜んでいた者達が露わになり、直撃を受けた一人が、顔を押さえる。
「っと、手間が省けたぜ」
ラルクが真空派で飛ばした男が、何者かの援護? により、潜んでいた者達の元に飛ばされてきた。
倒れているその男を置いて、逃げようとする者に。
「安心しなさい、武器は持ってないから」
明子が飛び込んで、拳を叩き込んだ。
「こちらはお任せください」
針を持ち、突進してきた男性の前には、エリシアが飛び込む。
アイスフィールドで攻撃を受けて防ぐ。
「見逃すことはできません!」
エリシアは手刀の能力を駆使して、食事に使っていたナイフを振りおろし、男の腕を切裂いた。
「はっ!」
そして、真空派。
衝撃で飛ばされた男は、木に体を打ち付けて倒れた。
「拘束させていただきます」
エリシアはすぐに、男を木に縛り付ける。
「お前だっていいんだ! くたばれっ」
パチンコのような道具で、男がラルクを狙う。
「んな玩具が効くかよ」
黄金の闘気を纏ったラルクに、攻撃は届きもしなかった。
「武器はねぇが、俺は己自身が武器みてぇなもんだ! っと、あまり叫ぶな、会場に届いちまうだろ!」
叫び声を上げる男達を、七曜拳でぶちのめす。
「悪ぃな、逃げ場はねぇぜ!」
ジャンプをし歴戦の飛翔術で、飛び立とうとした男達も上から叩き落とす。
「さて、何が目的なのかな……言わないと、もう2、30発殴るわよ?」
明子が殴り飛ばした男の胸倉をつかみあげる。
しかし、既に男は気絶をしていた。
「はぁ……この程度か……」
倒れた男達を見下ろしながら、ラルクはため息をついた。
とりあえず、身動きが出来ないよう土の中に埋めておくことに。
「なんか、弱い者いじめしちゃった気分だわ」
明子もつかんでいた男を下ろして、ふうと息をついた。
「あなた方もシャンバラから来たのですよね? 彼らのことや、龍騎士のことを知らないわけではないでしょう。そんな装備で、何をするつもりだったのですか?」
白竜は、神速で近づき、先に1人男を捕縛していた。
「御堂晴海か、要人をやるつもりだった。婚約式を葬式に変えてやるつもりだったんだよ!」
吐き出すように、その男は言った。
少量ずつパーティ用クラッカーや花火を持ち込み、小爆発用の火薬を入手する予定だったが、予想以上に検査が厳しく、持ち込みの制限も厳しかった為、火薬は断念したという。
毒や、弾に仕込んだ針はソーイングセットやハンカチに包んで持ち込んだようだった。
「くっそ……割に合わねえ……警備が厳しすぎて、近づけやしねぇ、しッ」
エリシアに捕縛された男が、悔しげにうめき声を上げる。
この男は、金で雇われただけのようだ。
「あとのことは、頼んでもいいのよね?」
明子が駆け付けた警備員――従龍騎士に尋ねる。
「はい。皆様は会場にお戻りください」
「まだ、残党がいるかもしれねぇしな。しかしなんつーか……」
こんな日くらい、戦いのことは忘れさせてあげたいものだと、ラルクは思う。
「ですが、くれぐれも会場で暴動など起こされないよう」
従龍騎士が何故か明子にだけ、そう注意をする。
「あ、あのー。私、今日は一般の善良な元学友を祝う契約者なんだけど」
「余興で腕試しなど行われないよう、くれぐれもよろしくお願いしますよ!」
従龍騎士達は口々にそんなことを言う。
明子は、恐竜騎士団の現団長と喧嘩をしたり、龍騎士殴りに行ったり。
ヴァイシャリーでも龍騎士とタイマンしようとしたり、その他諸々。
龍騎士団に目をつけられる理由はありすぎる女だった。
「うん、わかった。気を付けるわ、気を付ける〜ははははは」
明子は乾いた笑みを浮かべながら、会場へと戻っていく。
勿論、今回は龍騎士に挑んだり、争いごとを起こすつもりは全くない。
尚、毒を受けたクレアは軽傷だった。
レストと晴海が個人的に礼を言うことはなかったが――後に政府や学校を通して、訪れた契約者達と、テロリストから会場を護った契約者達に贈り物と礼状が届けられた。
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