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2022年ジューンブライド

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2022年ジューンブライド
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リアクション

 慌ただしい日々の中、二人は久しぶりにのんびりと散歩を楽しんでいた。
「あれ? あぁ、結婚式か……」
 と、朝霧垂(あさぎり・しづり)は呟く。
 教会から出てきた新婚の夫婦が、色とりどりのフラワーシャワーを浴びている。
 隣を歩く騎凛セイカ(きりん・せいか)をちらっと見やって、垂は微笑んだ。
「俺達が結婚してから、もう1年も経つのか……早いなぁ」
 一年前の結婚式のことを思い出す垂。セイカもまた、その時のことを考えている様子だ。
「あれから色々あったけど、セイカが健康に生活していてくれて、それだけで俺は嬉しいよ」
「……はいっ」
 と、セイカは嬉しそうに垂へ笑いかける。
 今日は天候も落ち着き、とても平和な時間が流れていた。普段いる場所とは真逆と言っても嘘ではない、安穏とした時間だ。
 隣を歩く大切な人と他愛のないおしゃべりを楽しみながら、二人は教会の前を通り過ぎていく。
 次に見えてきた場所でも結婚式が開かれているらしく、ウェディングドレスを着た花嫁を見かけた。
「ジューンブライド日和、ってやつかな」
 と、垂は呟き、そして笑う。
 セイカもくすくすと笑って、愛を誓い合った夫婦たちの幸福を思った。
 やがて静かな公園が見えてきて、垂はセイカを中へ誘った。
 太陽光を受けて明るく咲いた花々を横目に、垂は大切な彼女へ向き合う。
 じっと見つめられてドキドキするセイカへ、優しい微笑みをたたえながら垂は口を開いた。
「セイカ、改めて誓わせてもらうな?」
「は、はい……っ」
「……朝霧垂は騎凛セイカの事を愛し、生涯のパートナーとして共に歩み、幸せな過程を築いていく事を……誓います」
 と、垂は真剣な口調で言った。一年前にも誓ったことだが、想いは変わっていないのだとお互いに実感する。
 セイカもまた笑みを浮かべ、垂の台詞を真似るのだった。

   *  *  *

 天海北斗(あまみ・ほくと)はじっと恋人の顔を見つめた。
「なぁ、レオン……その、オレたち……そろそろ、……け、け、け……決闘! ……しようぜ!」
 この場の雰囲気にはそぐわない言葉だったが、レオン・ダンドリオン(れおん・たんどりおん)はちゃんと彼の意図を汲み取る。
「決闘じゃなくて、結婚、だろ?」
「そ、そう! あの……それで、返事、は……?」
 と、不安そうに尋ねる北斗へ、レオンはにこりと笑った。
「ああ、いいぜ」

 小さな教会に設置されたパイプオルガンの前に天海護(あまみ・まもる)は着いた。すべての準備が整ったところで、護はオルガンの鍵盤に両手を置いて、二人を祝福する曲を奏で始める。
 バージンロードを歩いてくるのは二人の新郎だ。
 北斗のパートナーを始めとした、親しい友人たちだけを呼んでの結婚式だった。
 二人とも教導団所属の軍人だということで、結婚式と名はついても豪華さや派手さはない。
 ほとんどの参列者も軍人のため、みな一様に軍服を着用していた。主役であるレオンもきっちりと礼装用の軍服を着ている。
 一方の北斗は衣服を着用しないタイプの機晶姫のため、機体をワックスでピカピカに磨いての登場だ。
 レオンと北斗が祭壇の前に立ち止まる。
 ――二人が出会ったのは2年前のことだ。いつもみんなの中心にいるムードメーカーでありながら、しっかり者で頼れるレオンに、北斗はいつしか心惹かれるようになったのだ。
 ともに任務をこなしていく度に二人の距離は縮まり、やがてレオンは北斗を受け入れ、愛するようになった。
 そうして今、二人は新たな旅路のスタートラインへ立とうとしている。階級は同じ少尉のため、二人はこれからも共に切磋琢磨して成長していくのだろう。
 いつにもまして真面目な顔をしながら、レオンは言った。
「健やかなるときも、病めるときも、共に助け合い、愛し、天海北斗を支え続けていくことを誓います」
 続いて北斗も、はっきりと教会中に聞こえるように言う。
「健やかなるときも、病めるときも、共に助け合い、愛し、レオン・ダンドリオンを支え続けていくことを誓います」
 この誓いは、これまで二人が育んできた愛の結晶だ。
 指輪交換を終えて誓いのキスの番がやって来ると、北斗は彼を見上げて背伸びをした。
 相変わらず頑張ろうとする北斗にレオンはくすっと笑ってから、そっと腰をかがめるようにしてキスをした。
 種族は違えど、二人の間で生まれた愛に偽りはない。キスはほんの一瞬だったが、北斗にとっては永遠のようにも感じられた。
 あまりにも幸福な気持ちを覚え、目を開けた二人は優しく微笑み合う。

 見守っていた護は、拍手で二人を祝福した。
 北斗が恋をし始めたその時から、ずっとそばで二人の様子を見てきた。その二人が、今日ようやく結ばれたのだ。
 式が終わって退場していく二人の背中に、護は再びパイプオルガンの音色で彼らを送り出すのだった。

   *  *  *

「わぁ……ステキなドレスがたくさんあって、困っちゃいますわ」
 と、泉 美緒(いずみ・みお)は目をきらきらと輝かせた。
「ヴェールやティアラなど、アクセサリーも充実してますね」
 冬山小夜子(ふゆやま・さよこ)はシルバーに淡い色のサファイアがはめられたティアラを美緒へかぶせてみせる。
「ふふ、よく似合ってますよ。とても可愛らしいですわ」
「そ、そうですか? では、ドレスはこのティアラに合わせて選びましょうか?」
 と、美緒は鏡をじーっと見つめる。
 二人は模擬結婚式のために教会へ訪れていた。
 模擬とはいえ、結婚式であることに変わりはなく、口にせずともお互いにどこか特別な気持ちを抱いていることが分かる。
「あら、タキシードも色々あるみたい……では、私はこちらにしましょう」
「え、ドレスは着ないんですの?」
「ええ、二人でドレスというのもおかしいでしょう?」
 にこっと微笑みを浮かべ、小夜子は自分に合うサイズのタキシードを見繕い始める。
 一方の美緒もドレス選びに夢中になり、あれこれと鏡の前で合わせるのだった。

 美緒が選んだのは前が短く、後ろの長いトレーン型のウェディングドレスだった。控えめに入れられた花の刺繍はうっすらと青みを帯びており、清楚な雰囲気を演出している。
 バージンロードを歩いてくる彼女を見つめ、小夜子は胸の中にわき起こる感情を改めて知った。
 タキシードをばっちり着こなした小夜子の隣へ立ち、ともに神父の前へ向かう美緒。
 ついに結婚式が始まって、美緒はドキドキと緊張した。そんな花嫁を気遣うように、小夜子は彼女との距離をわずかに縮める。
「楽しみましょう」と、口パクで言う小夜子に、美緒はにこっと微笑んだ。
 夫婦となる誓いの言葉を言い終えると、今度は誓いのキスだ。
 向かい合った二人はお互いを見つめ合う。
 小夜子はそっと美緒の頬へ口づけた。こんな風にして人は結婚するのかと、今さらながらに身をもって知る。
 美緒もまた小夜子の頬にキスをして、はにかんだ。

 模擬結婚式を終えて、美緒はくすっと笑う。
「最初は緊張しましたが、とても楽しい式でしたわ。花嫁気分を味わえて、本当に良かったです」
「ふふ、楽しんでいただけたようで何よりですわ」
 と、小夜子も笑う。
 先ほどの誓いを本当にしてしまいたいと思うものの、小夜子は美緒の笑顔を近くで見られるだけで満足だった。