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リアクション
スプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)は目の前に相手がいると想定し、一つ息をついた。
練習だと分かっていても、近くには合同結婚式の行われる会場がある。スプリングロンドは意を決して口を開いた。
「エミィーリア・シュトラウス、急に呼び出してすまない」
彼の後ろ姿を見て、エミィーリア・シュトラウス(えみぃーりあ・しゅとらうす)はドキッとした。リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)から彼の居場所を聞いてやって来たのだが……。
「どうしたの、ロン?」
スプリングロンドは彼女に気づかない様子で言った。
「この血塗れた手で掴めるか自信がないんだが」
「あら、自信がないと取れないものなの?」
と、エミィーリアは苦笑いをしながら彼のそばへ寄った。
はっと振り向いたスプリングロンドは慌てたが、彼女の優しげな表情を見ると告白をした。
「そ、その……お前と掴みたいんだ! 幸福を!」
練習が本番になってしまったことに動揺しつつ、スプリングロンドは指輪を取りだした。
エミィーリアはにこっと微笑み、彼の前へ立つ。
そしてそっとキスをすると、「これが私の答え」と、笑うのだった。
二人の様子を影から見守っていたリアトリスはほっと安心し、幸せに包まれる二人から背を向けた。結婚式の準備をするためだ。
ブルーウォーター家で用意された合同結婚式会場は、和洋折衷の大きな場所だった。
合同と名が付くだけあって、今日は5組のカップルが式を挙げる予定だ。
控え室で桜葉忍(さくらば・しのぶ)は緊張でそわそわとしていた。
ばっちりタキシードを着込んだものの、結婚式で失敗しないか、本当に相手を幸せに出来るのかと不安がわいてくる。
このままではいけないと、忍は気分を変えるため外へ出た。
すると、パートナーであり大切な相棒でもある織田信長(おだ・のぶなが)の姿を見つけた。
「あ、信長も来てたのか」
「うむ。控え室でじっと待っていられなくてな」
「そっか。俺は緊張と不安で……」
と、ため息をつく忍。
同じくタキシードを着た信長は、元気づけるように忍の背中を叩いた。
「ほれ、しゃきっとせんか! そんなのでは花嫁の香奈まで不安になってくるじゃろうが!」
びくっと姿勢を正した忍は、信長の頼もしい笑顔に励まされた。
「うん、そうだよな。ありがとう、ちょっとだけ気持ちが楽になった」
と、忍も笑顔を浮かべる。
開始時刻が近づいて、大会場の前に新郎新婦を乗せた馬車が到着した。
始めに到着したのは佐野和輝(さの・かずき)とルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)だ。
先に降りた和輝は、白いウエディングドレスに身を包んだルーシェリアへ手を差し伸べて降りるのを助ける。
ここまで二人を運んできたのは、彼らの友人でもある姫宮みこと(ひめみや・みこと)だった。今日は晴れの日ということで、馬車もウエディング仕様に飾り付けられている。
みことは和輝とルーシェリアが会場へ向かうのを見送り、馬車をゆっくりと駐車場へ向かわせる。
次に到着したのは早乙女蘭丸(さおとめ・らんまる)の操作する馬車だった。
中にはリアトリスの用意した衣装を着用した、スプリングロンドとエミィーリアが乗っている。
先ほどプロポーズを終えたばかりの二人はどこか初々しく、蘭丸は微笑ましく見守っていた。
最後にやってきた馬車は少し毛色が違い、さりげなく和風の飾りがされていた。
御者は本能寺揚羽(ほんのうじ・あげは)、乗り込んだ新郎新婦は織田信長と織田帰蝶(おだ・きちょう)だ。
花嫁である帰蝶はウエディングドレスを着用しているが、スカートの裾に縫い付けられた刺繍は日本らしさを思わせる。
そして、ブルーウォーター家主催の合同結婚式は始まった。
神父に扮したレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は広い会場の隅々にまで届くよう、大きな声を出した。
「えー、この度はまことにおめでとうございます。本日は神父および式の進行を務めさせていただきます、レティシア・ブルーウォーターでございます」
彼女は去年、新婦として結婚式に参加していた。今年は反対に祝う側として結婚式を取り仕切る。
「それでは、新郎新婦の入場でございます。場内後方をご覧下さいませ!」
オルガンの演奏とともに、式のメインである新郎新婦が順番に入場してきた。
リングガールを務めるネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は、彼らを先導するようにてくてくと祭壇を目指して歩いていく。真珠色のドレスに身を包んだネージュは5組分の小箱を手にしていた。
ネージュに続くのはフラワーガールの歌戀・ラーセレナ(かれん・らーせれな)と、フラワーボーイのディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)だ。
にこにこしながら二人で花びらを撒きつつ歩いていくが、緊張したディアーヌからはラベンダーの花粉が出ていた。スモークに紛れているためさほど気にならないのが救いだった。
最初に入って来たのはタキシードを着た和輝と、ウエディングドレスを着たルーシェリアだった。
ふわりとふくらんだドレスのせいで歩きにくそうにするルーシェリアだが、きちんと隣で和輝が支え、エスコートしている。
次に入場してきたのは桜葉忍と東峰院香奈(とうほういん・かな)だった。
ウエディングドレスを着た香奈にドキドキして緊張する忍だが、香奈もまた同じようにドキドキしていた。
こうして今日を、結婚式の日を迎えられたのは幸せなことだった。
祝福の拍手に包まれながら、神父であるレティの待つ祭壇へ向かって歩いて行く。
三組目は織田信長と帰蝶だ。
普段と違って髪を下ろした帰蝶は美しく、早くも結婚できる幸せをかみしめている様子だ。
信長はそんな彼女をゆっくりとエスコートしつつ、バージンロードを進んでいった。
次に入って来たスプリングロンドはきちっとしたスーツを、エミィーリアの方はドレスを着てより一層美しさを増していた。
展開が少し早いような気もするが、彼らのパートナーであるリアトリスは二人を心から祝福してくれていた。
最後の花嫁である城紅月(じょう・こうげつ)は、最高級白絹の着物の反物を使って仕立てたウエディングドレスを着ていた。襟はチャイナカラーになっており、薔薇のレースの装飾が入っている。
袖は彼の美しい腕がよく見えるようなアメリカンスリーブで、襟と胸の部分は薄絹のシースルーになっており、袖口も薔薇と桜のレースで飾られている。
マーメイドラインのドレスは彼のスリムな体型を美しく見せ、背面はサテンリボンで編み上げられている。後ろ姿に広がるトレーンはふんわりとやわらかく、裾へ向かって桜色のグラデーションが入っていた。
薔薇と百合のイタリアンレース仕立てのヴェールの中、紅月は少し瞳を潤ませていた。
彼の相手であるレオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)は剣の花嫁衣装を身に纏っていた。こちらは剣の花嫁である彼にとっての礼装だった。
リングガールの手から指輪の入った小箱が神父へと手渡される。
5組のカップルが祭壇前に並び、レティシアはさっそく式を進めていった。
「新郎新婦、誓いの言葉」
レティの合図で、5組のカップルたちは順番に相手との愛を誓い合っていく。
――結婚を申し込まれた時、紅月は思わず聞き返していた。「俺で良いの?」と。しかし、レオンと幸せになりたいという気持ちを紅月は無視できなかった。
「生涯愛し続けていくことを、誓います」
震える声で誓いを終えた紅月に、レティシアはにこっと微笑みかける。今の二人があるのは、彼女に相談した結果だった。
無事に結婚式が終わり、新郎新婦は入って来た順に退場していく。
織田信長に御姫様抱っこをされた帰蝶を見て、多比良幽那(たひら・ゆうな)は心から祝福を送った。
彼女のアルラウネたちもまた、帰蝶に向けて拍手を送っていた。お嬢様気質のヴィスカシアは見ているだけだったが、ディルフィナは微笑ましく見守っている。
リリシウムは幽那をげしげししながら、ラディアータは浮かれる帰蝶に半ば呆れつつ、ナルキススはぼーっとしながら、彼女たちを見送った。
フラワーガールを務めた歌戀は、退場していく新郎新婦たちに見とれているディアーヌの肩をちょこんと叩いた。
「世界で一番おひめさまー♪ ねえ、似合う?」
と、紅月とおそろいの桜色のグラデーションが入ったスカートをちらちらさせる。
ディアーヌはドキドキしながらも、にっこりと微笑みを浮かべる。
「はい。とってもよく似合ってますよ」
すると歌戀は、ディアーヌに不意打ちでキスをした。
「えへへっ。僕たちも、いつか結婚しようね」
と、笑う歌戀にディアーヌは真っ赤になって花粉を大量放出させるのだった。
そして会場は移り披露宴が始まった。
用意された料理を確認し、テーブルへ運ぶように指示を出すのはミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)。その他の裏方仕事も彼女が担当しており、どたばたと忙しい。
花嫁衣装を見ると、つい自分の幸せはいつ来るのかと考えてしまうミスティだが、そんなことを考えている余裕はなかった。
「みんな、結婚おめでとう! お待ちかねのウエディングケーキだよ!」
と、巨大なケーキを運んできたのは金色に輝くイコン、イーグリット・アサルトに乗った小鳥遊美羽(たかなし・みわ)だった。
ケーキを作ったのは彼女のパートナーであるベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)。お菓子作りの達人と呼ばれるほどの実力を持つ彼女のケーキは、言わずもがな絶品だ。
ウエディングケーキが大きいためか、美羽の用意したケーキナイフはほとんど斬馬刀のようだった。
「さあ、これでケーキカットをしてね」
と、5組のカップルにそれぞれナイフを渡す。
合同結婚式のため、ケーキカットも合同で行われることになっていた。等間隔に並び、一斉にケーキへナイフを入れる。
その後のケーキは、美羽とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が手分けして切り分け、客へ配った。
フルーツをふんだんに使ったケーキをみんなが食べ始めたところで、美羽はようやく一息ついた。
相変わらずにこにこしているコハクを見て、美羽は何とも微妙な気持ちになった。
「あれ、どうかした?」
「別に何でもないよ。ただ……みんな素敵だなって」
と、美羽は花嫁たちの方を見つめた。
美羽だって女の子だ。結婚はしたいし、ウエディングドレスに対する憧れだって人並に持っていた。
コハクはどんな言葉を返したらいいか分からず、口を閉ざしてしまうのだった。
お色直しの時間がやってきて、ルーシェリアは控え室へ向かった。
途中、パートナーであるアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)に目配せをする。
「それでは、よろしくお願いしますねぇ」
「ええ、お任せ下さい」
何かを企むルーシェリアに気づくこともなく、和輝は用意された控え室へ。
中で待っていたのはスノー・クライム(すのー・くらいむ)だった。
「さぁ、和輝。お色直しはこれを着てね」
と、手にしたウエディングドレスを見せるスノー。
「……は?」
お色直しとは衣装を着替えることなのだが、何かがおかしかった。
「落ち着け、スノー。それを良く見ろ。それはウェディングドレスだ。そして俺は男だ、新郎だ。だからお色直しでそれを着るとかおかしいだろうが!!」
と、声を荒げる和輝だが、スノーに一般常識など通用するはずもない。
「ふふっ、残念。これは決定事項よ。諦めなさいな」
「諦めって……うわっ」
突然、背後から和輝はアルトリアに羽交い締めにされる。
「和輝殿……おとなしくご覚悟を」
「大丈夫よ。私が綺麗に仕上げてあげるから」
後ろと前をふさがれた和輝は、レティシアが神父をしていることからしておかしかったと思い出す。
「くそっ。もしかすると、これもあの人の差し金……ぎゃああああー!?」
和輝の悲鳴が悲しく控え室内に響いた。
一方のルーシェリアは、ちょうど控え室へ着いたばかりだった。
手伝いをするのは佐野悠里(さの・ゆうり)とアニス・パラス(あにす・ぱらす)の二人だ。
「あ、アニスお姉ちゃん」
と、悠里は思わず口に出してしまい、はっと両手で口を押さえた。
アニスは悠里をじっと見つめると、首を傾げる。
「ふぇ? お姉ちゃん? えと……アニス、貴方のこと、知らない、よ?」
「あ、えっと……ごめんなさい、何でもないの」
と、悠里はごまかすようにルーシェリアの着替えるピンク色のドレスを取りだした。
アニスは納得のいかない様子でしばらく悠里を見ていたが、ふとルーシェリアの視線に気づいて視線を外した。
「アニスさん、ウエディングドレスを脱ぐの、手伝ってもらえますか?」
「あ、うん! えーと、どうしたらいいの?」
と、アニスはすぐにルーシェリアへ歩み寄るのだった。
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