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逆襲のカノン

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逆襲のカノン

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第6章 カノン脱出

「カノーン、どこだー? いたら返事をしろー」
 海京アンダーグラウンドの暗い廊下を、柚木桂輔(ゆずき・けいすけ)は大声で呼びかけながら歩いていた。
 講堂に生徒たちを集めて、キイが話していたとき、桂輔たちは、颯爽とその場を離れたのである。
 とりあえずは、捕まっている生徒たちを、女の子優先で救出したいと、桂輔は考えていた。
 特に、設楽カノンだ。
 助けてあげた見返りに何かしてくれるのではないかと、桂輔は下心満々だった。
「ちょっと、桂輔! なに、敵地で大声出して歩いてるんですか」
 アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)は、慌てて桂輔を制止にかかった。
「うん? だって、どこにいるかわからないし」
 桂輔は、こともなげにいった。
 そのとき。
「こっちだ。こっちに、カノンの檻があるぞ」
 柊恭也(ひいらぎ・きょうや)が、桂輔たちに呼びかけた。
「おお、そうか。行くぞ」
 桂輔は、駆けた。
「カノン、無事でしょうか」
 アルマは、ひたすらカノンの身を案じていた。

「あっ、……みんな、きてくれたんですか?」
 檻の中でうずくまっていたカノンは、生徒たちの声を耳にして、助かるという希望で身をふるいたたせ、立ち上がって、鉄格子に身体を押しつけた。
「やあ、カノン! おおっ」
 桂輔は、檻の中のカノンをみるや否や、唇をほころばせた。
 はじめてみるカノンの下着姿は、ぞっとするほど幼く、はかなげで、いやらしかった。
 思わずみとれてしまった桂輔の視線を感じて、カノンはあとじさった。
「きゃ、きゃあ! 来ないで。殺します」
「だから桂輔、出てこないで下さい。カノン、大丈夫ですか?」
 アルマは桂輔を脇に押しやると、カノンに話しかけた。
「う、うん。でも、こんな格好で」
 カノンは、恥辱に身をふるわせた。
「カノン、下着、汚れまくってるじゃないか。よかったら、俺の替えのパンツ、履きなよ。ちょっとサイズが大きいかもしれないけどさ」
「ああ、もう。だから、ニヤニヤしながらいわないの!」
 桂輔がしゃしゃりでてくるのを、アルマは追いやった。
「扉の鍵を開けよう。あともうちょっとの辛抱だ」
 恭也が、檻の扉に顔を寄せた。

「大変、大変だよ!!」
 フィサリス・アルケケンジ(ふぃさりす・あるけけんじ)が廊下を走って、桂輔たちのところにまでやってきた。
「どうした?」
「気づかれたみたい。研究者たちがこっちに来るよ」
 フィサリスは、ぜいぜいと息をつきながらいった。
「何だって。扉は?」
 桂輔は、恭也にいった。
「くっ、まだだ」
 恭也の額に、汗がにじむ。
「そこまでだ。カノンの檻には、必ず誰か来ると思っていたぞ」
 銃を構えた研究者たちが、桂輔たちに迫る。
「くっ、きたか! ここは俺に任せろ。みんなはカノンを……」
 桂輔もまた銃を構えて、研究者たちに立ち向かっていく。
 次の瞬間、桂輔は、弾丸の雨に襲われた。
 ずきゅ、ずきゅーん
「おわあああああ」
 桂輔は悲鳴をあげた。
「桂輔ー!!」
 アルマは、床に転がって銃弾を避けた桂輔に駆け寄っていく。
「ちっ、しょうがない。こうなりゃ、腐れ外道どもを斬り捨て、活路をみいだすまでだ」
 恭也は、扉の鍵を開けるのを断念すると、二刀流を構えて、研究者たちに斬りかかっていった。
「どああああああー! ごほ、ごほごほ」
 だが、恭也は、研究者たちの放った催涙ガスにむせて、うずくまった。
「あ、あああああ!! カノーン!!」
 フィサリスは、絶望的な状況の中、檻の中のカノンに向かって、鉄格子の間から手を差し伸べた。
「みんな!! そこまでしなくていいです。速攻で逃げて構いませんのに」
 カノンは、フィサリスの手をとって握りしめながら、そう促した。
「もう遅いぞ」
 フィサリスの背後に、研究者の影が現れた。
 フィサリスは、羽交い締めにされた。
「さ、触らないで」
 もがくフィサリス。
「ふん。これでどうだ?」
 研究者たちは、フィサリスの柔らかい身体を締めつける腕に、思いきり力を込めた。
「ああああああああ!!」
 骨をヘシ折られるような激痛に、フィサリスは泣き叫んだ。
「どうだ、痛いか? やめて欲しいか? それなら、すいませんといえ」
「ふええ……すいません。ごめんなさい!」
 フィサリスは、無我夢中で叫んだ。
「よし。上玉だな。カノンという餌のおかげで、いいものがたくさん釣れたぞ」
 研究者たちは、フィサリスの顎の下に手を差し入れてその顔を検分しながら、ニヤニヤと笑っていった。
「やめて。みんなを連れていくなんて!!」
 カノンは、鉄格子の中から叫んでいた。
「ははは。チーフはいま、またおいしい目をみているようだが、それが終わったら、いよいよお前も実験されるぞ。最上のマシーンになったお前をかつての仲間たちの前にご披露してやるのが、楽しみだな!!」
 研究者たちは冷たく笑って、鉄格子を握りしめているカノンの指を銃床で思いきり打ち叩くと、戦利品であるフィサリスたちを連行していった。
「カノン!! 諦めないで!! どんなことがあっても、必ずみんな、助けに行くから!!」
 フィサリスは、カノンの檻を振り返って、そんな言葉を投げかけていた。
「くうっ、みんな……どうして」
 銃床で叩かれた指ににじむ血を舐めとりながら、カノンは、悲嘆にくれた。

「あ、ああああ、あああああああ!! どうして、どうして!!」
 一人、檻に取り残されたカノンは、もはや涙を止める術も知らず、床をいつまでも拳で殴りつけていた。
 自分の身代わりになって、先に実験対象にされた白石忍(しろいし・しのぶ)
 そして、危険を顧みず自分を助けようとして、拘束されたフィサリスたち。
 フィサリスたちもまた、恐ろしい実験の犠牲になることだろう。
 なぜ、みんな、自分のために、そこまでするのか?
 自分は……自分は……結局、超能力を封じられ、怖くなってしまって、自分のことしか考えられなくなっているというのに!!
 パリーン
 カノンの打ちつけた拳が、床を砕き、破片を撒き散らした。
「はあはあ。あれ? 力が回復した? 一瞬だけ?」
 カノンは、自分の拳が床にぶつかった瞬間に、サイコキネシスが床を砕いたように感じた。
 超能力は封じられているはずだが?
 ぽかんとしたカノンだったが、次の瞬間、ぱっと考えが切り替わっていった。
「決めました。もう、自分のことだけ考えるようなことはしません!! 自分を想う仲間のために闘います!! 友人たちを救って、愛を……見返りを求めない、友人たちの愛の心を世界に広げるために闘います!! たとえこの身が滅びても!!」
 その瞬間、カノンの脳裏に、どこからか声が伝わってきた。
(よくぞいった。その想いが続く限り援助しよう)
 国頭がパンツァーと呼んていた存在の声だった。
 パリン
 カノンを拘束していた鎖が、ちぎれた。
 みるみるうちに、カノンは、超能力を元通り使えるようになったことを認識した。
「よーし、いきますよ!! 一切の拘束から抜け出します!!」
 カノンの瞳が、ぎらっと光った。

「おーい、忍ー、どこにいるんだー?」
 リョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)は、海京アンダーグラウンドに監禁されていると思われる、パートナーの白石忍(しろいし・しのぶ)の姿を探し求めて、どこまでも続く暗い廊下をさまよい歩いていた。
 調査隊について、ここまでやってきたのいいが、施設は巨大で、監禁されている生徒も多いようだった。
 だが、忍は、必ずどこにいるはずだ。
 リョージュが諦めずに捜索を続けようとしたとき、近くの檻から、ものすごい爆発音が巻き起こった。
「な、何だ?」
 リョージュはその檻の前にまでいってみた。
 その檻は、爆発によって鉄格子が破壊され、もうもうたる煙が内部にたちこめていた。
 煙の中から、やせこけた美少女が姿をみせる。
 その少女は、全裸だった。
 白い肌のあちこちに、何かに打たれた跡のような痣がみえる。
「カ、カノン!! 無事だったのか!!」
 リョージュは、思わず声をあげていた。
 力を解放し、首輪や手枷・足枷のほか、ボロボロになっていた下着や、檻の鉄格子まで破壊して吹き飛ばし、カノンは、全ての拘束から抜け出してきたのである。
 カノンは、じろっとリョージュを睨んだ。
「誰ですか? 私の身体をみないで下さい!」
「そういきりたつなよ。助けにきてやったんじゃないか。しかし、その姿で歩きまわるつもりか?」
 リョージュは、傷だらけのカノンの裸をみて、はあと息をついた。
「で、でもさあ。きれいだよ、はっきりいって」
 リョージュは、カノンの胸をまざまざとみて、怪しい感情がこみ上げるのを覚えた。
「だから、みないで下さい!!」
 カノンは片手で胸を隠すと、もう片方の手でリョージュを張り飛ばした。
 どごーん
「う、うわ! ふ、不可抗力でみちゃったんだって。それに、ほら、助けにきたんだから、見返りに、少しぐらいさ」
 張り飛ばされた頬をおさえて弁明するリョージュを無視して、カノンは決然と歩を進めた。
「おい。どこへ行くんだ?」
「忍さんを、探しに行きます」
 カノンは、リョージュに背を向けたまま、答えた。
「えっ、忍!? そ、それなら、オレも行くぜ!!」
 リョージュは、思わぬ展開にいろめきたった。

「自身の洗浄、終わりました。次の指示をお願いします」
 研究用の浴室の中で、白石忍は、自分の身体をきれいに洗い終えると、モニタで監視している研究者たちに伝えた。
「よし。それでは、シミュレーションの開始だ。お前に接待してもらいたがっている男が、そこに入ってくる。お前は、その男の身体を洗いながら、隙をみてナイフを突き立てるんだ。ナイフは出さなくていいが、途中までやってみよう。なお、その男の役は私がやる」
 言い終えると、研究者は、自分も服を脱ぐと、いそいそと浴室の中に入っていった。
「まずは挨拶。ほら」
「はい。いつも大変お世話になっています。日頃よりの援助のご感謝をさせて頂きます」
 忍は、虚ろな瞳を研究者に向けて、求められるまま挨拶を行った。
 その身体は、丁寧に磨いたばかりなので、光ってみえた。
「おお。相変わらず、可愛いじゃないか」
 研究者は、役になりきって、忍の肩をつかんだ。
「さあ、一緒に入ろう」
「はい。一緒に入れて、嬉しいです」
 湯槽の中で、忍は、研究者の身体にすり寄っていった。
「ああ、○○様。素晴らしい体格ですね。どうぞ私を好きにして下さい」
 忍が、そこまでいい終えたとき。
「忍さん!!」
 浴室の扉を開け、カノンが入ってきた。
「はい。あらたなお客様でしょうか?」
 忍は、虚ろな瞳でカノンをみて、いった。
「な、何だお前たちは!!」
 研究者は、驚いて浴室から逃げ出そうとした。
「逃がしません!!」
 カノンは、そんな研究者の身体をとらえると、湯槽の中に頭から放り込んだ。
「も、もがもが」
 お湯を飲んで、もがく研究者。
「忍!! まさか、もう精神操作を受けてしまったのか!!」
 カノンに続いて浴室に入ったリョージュは、慌てて忍を抱きしめた。
「今日は、たくさんのお客様にご利用いただき、大変感激しています」
 忍は、教えこまれたセリフを繰り返すのみだった。
「くっ!! しょうがない。ショック療法だ」
 リョージュは、忍の唇に、自分の唇を重ねた。
「ん……んん」
 とろけるようなキスに、忍は身を委ねた。
 リョージュは、吸精幻夜を発動させる。
 忍の身体を愛撫しながら、その芯を舌に絡めて、吸い取った。
 リョージュにとっては、いちかばちかの賭けだった。
「はあ……ああ? リョージュ!!」
 忍は、正気に戻った。
「あれ? 私はどうしてこんなところに?」
「はあ。よかったぜ。このまま、風呂に入ろうか?」
 リョージュは、目をぱちぱちさせている忍を抱きしめた。
「カノンさん! 無事だったんですか」
 忍は、カノンの姿に気づいて、歓声をあげた。
「はい。あなたを助けにきました。もう安心ですね」
 カノンは、心から安堵していった。
「カノンさん、裸でうろつくのはよくないですよ。私の下着が置いてあると思いますから、使って下さいね」
「はい。でも、忍さんは?」
「安心しろ。オレが手ブラしてやるからさ」
 露な忍の胸を両手で覆ってみせて、リョージュはニヤッと笑った。

「カノンが逃げたぞー!!」
「近くにいるはずだ。探せ!!」
 研究者たちは、カノンの脱走に気づいて、怒号をあげた。
「よし、この混乱の隙に、いっきに、捕まっている生徒たちを救出するぞ!!」
 柊真司(ひいらぎ・しんじ)は叫んで、生徒たちが捕まっている、檻の扉を次々に壊し始めた。
 もとより鍵の開け方など、真司がわかるはずもないから、ただ破壊するのみである。
「どんどんやっちゃって! 研究者たちがこっちにきたら、私が嬲り殺しにするわ」
 フレリア・アルカトル(ふれりあ・あるかとる)は、真司をかばうように、その背後の守りについた。
「わー、ありがとー」
 救出された生徒たちは、口々に礼をいいながら、廊下に走り出てくる。
 ふと、真司は疑問に思った。
 救出したとして、その後、どうすればよいのだろう?
 何しろ、潜水艦は爆破されているので、地上に帰る手段などないのだ。
 いや、いや。
 真司は、疑問を振り払った。
 帰れないのだとしても、いまはただ、捕まっている生徒たちをひたすら救出すればいい。
 何しろ、このままにはしておけないのだから。
 その後のことは、また考えればいい。
 疑問と同時に、不安をも真司は振り払っていた。
「みんな、こっちに並んで下さい。一緒に行動しましょう」
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が、解放された生徒たちを呼び集めていった。
「やったぞ。電気系統に細工をしておいた。もうすぐあちこちで停電が起きるはずだ。これで、救出をもっとやりやすくなるはずだ」
 同じく、救出に協力している玖純飛都(くすみ・ひさと)がいった。
「おお、ありがとう!」
 真司が礼を述べた。
 そのとき。
 だだだだだ!!
 銃を乱射しながら、研究者たちが近寄ってきた。
「きたわね!!」
 フレリアは、舌舐めずりをして、迎撃に努めた。
「オレも援護しよう」
 飛都もまた、迫りくる研究者たちに銃を乱射した。
 だが。
 どどどどどどど!!
 迫り来る弾丸の嵐を前に、玖純は窮地に立たされる。
「くそっ、どうすれば!! かくなるうえは、身を張ってでも」
 飛都は、生命を賭けて闘う覚悟を決めた。
 ここで屈すれば、生徒たちがまた、檻の中に戻され、絶え間なく続く悪魔の実験の犠牲になることになる。
 それだけは、避けなければならなかった。
「玖純飛都、吶喊する! もしものときは、骨は拾っておいてくれ!!」
 言い捨てて、飛都は単身で、敵の群れに突入していった。
 そして。
 ずばあっ
 乱戦の中から、飛都の背後から銃弾を発射しようとした研究者が、バッサリ斬り捨てられた。
「あまり無茶しない方がいいですよ。仲間がいるんですから、協力しあいましょう」
 紫月唯斗(しづき・ゆいと)が、居合いの刀をおさめていった。
「紫月、こっそり活動していたんだな。ありがとう」
 飛都は礼をいった。
「正面から仕掛けるのもいいですが、ときには闇討ちも混ぜていかないと、読まれますからね」
 唯斗はそういうと、再び、どこかに姿を消した。
「おお、どこへ消えた? まったく、隠密そのもののような奴だ」
 そういいながら、飛都は気づいた。
 唯斗のように闇討ち中心というのも、バランスが悪いではないか。
 その言葉を、聞かせてやれないのが残念だった。

「みんな、怖がらないで!! この隙に、あたしたちも脱出しよう」
 緋王輝夜(ひおう・かぐや)は、響きわたる闘争の音におびえて肩を寄せ合う、同じ檻の面々たちに声をかけた。
 強化人間でありながら、普通の人間以上に精神が安定しているという特性を持つ輝夜は、統制が難しいため、研究者たちにさんざん苦労をかけさせた。
 結果、精神に揺さぶりをかけるため、全裸にされ、衣服を着ている他の生徒たちと同じ檻の中に入れられて、常に全裸でい続けるよう強制されていたのである。
 他の生徒たちは、輝夜に衣服を提供したくても、研究者たちにお仕置きされるのが怖くて、できなかった。
 輝夜も、衣服をくれとはいわなかったが、同じ檻の中には男子生徒もいて、彼らが好奇心たっぷりに自分の身体を眺めるのには、閉口してしまっていた。
 そんな状況だったが、監禁の期間が長引くにつれ、輝夜が全裸だというのは当り前になってしまい、本人も周囲も気にしなくなっていた。
 そんな最中に、施設全体が混乱に包まれ、脱出のチャンスが巡ってきたのである。
「いまがチャンスだよ!! みんなが脱出しているこのときなら、一緒になって動ける!!」
 輝夜は、仲間たちを鼓舞してまわった。
 脱出はいつでもできそうで、できない状態だった。
 ただ檻から出るだけならできそうだったが、出た後、深海の施設の中で、行き詰まってしまうのがオチだった。
 他の生徒たちもいっせいに脱出するような状況でなければ、なかなか動けない。
 まさに、千載一遇のチャンスであった。
 でも、と輝夜は想う。
 脱出するなら、この格好はどうにかした方がいいかもしれない。
「あーあ、輝夜のお尻も、今日が見納めか。残念だなあ」
 男子生徒の一人がふざけた口調でそういって、輝夜の剥き出しのお尻をいやらしく撫でまわした。
 監禁が長引く中で、同じ檻の面々は親近感を増し、いつしか輝夜は、男子が暇つぶしに自分の裸体を触るのを気にしなくなっていたのである。
「ここから出たら、もう、そういうことは許さないからね。セクハラということで、一般社会と同じように怒るからね!!」
 輝夜は、その男子を睨みつけた。
「わかった、わかったよ」
「輝夜も、隠すことを想い出すようにしたら?」
 他の生徒の冗談に、みんな笑った。
「さあ、みんなで体当たりしよう!! せーの」
 輝夜は、駆け声をかけた。
 檻の中の生徒が、いっせいに、施錠された扉にタックルを仕掛ける。
 がちゃーん
 扉が破壊され、開いた。
 輝夜と、仲間たちは、いっせいに檻から走り出た。
「やったー! 出られたぞー!!」
 みな、歓喜の声をあげている。
 だが、地上に戻る闘いは、これからだ。
 そのとき。
「あっ」
 輝夜は、きーんと耳鳴りがしたように思った。
「エッツェル? 近くにきているの?」
 まさか。
 どうして、こんなところに。
「まあ、あたしを助けるため……じゃ、ないよね」
 輝夜は、パートナーが近くにいるらしいということに、嬉しさよりも、むしろ、不安を感じていた。
 パートナーのことを、詳しく知っているがゆえに。