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リアクション
【2022年12月24日 09:45AM】
アルの証言は、フレデリカにとっては中々に衝撃的であり、本音をいえば今すぐにでも女湯に向かいたい気分だったが、しかしまだ聴取すべき顔ぶれが残っている。
フレデリカは逸る気持ちをぐっと堪えて、最後のグループへの聴取に入った。
残っていたのは、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)、富永 佐那(とみなが・さな)、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)、エリー・チューバック(えりー・ちゅーばっく)、パピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)、高峰 雫澄(たかみね・なすみ)、夢宮 ベアード(ゆめみや・べあーど)の七名である。
このうち、アルテッツァと結和、そしてエリーの三人は昨晩、フレデリカの手伝いとしてプレゼント回収を担当していた為、この三人の行動は先のザカコ同様、フレデリカ自身もよく分かっている。
但しザカコと微妙に異なるのは、アルテッツァはフレデリカの失態を指摘し、回収作業に当たりながらも、事ある毎に説教を垂れていた為、フレデリカとしては幾分、苦手に思っている節があった。
が、当のアルテッツァは昨晩の記憶をほとんど失っている為、自身がフレデリカに対して相当なプレッシャーを与えている事実に、まるで気付いた様子もない。
「おや、どうしたんですか? 何だか顔色が優れませんよ、フレデリカ君」
「あー……いや、その、気にしないで。ちょっと疲れが出てきているだけだから」
不思議そうな面持ちで問いかけるアルテッツァに、フレデリカは乾いた笑いを返した。
すると、隣からパピリオがにへら〜っと不気味な笑いを浮かべながら、フレデリカの端正な面に、まだ幼さが残る顔をずいっと近づけてきた。
「本当のほんとうに、疲れてるだけなのかな〜?」
「……取り敢えず、そういうことにしといて頂戴」
変にいい訳がましいことをいえば、要らぬツッコミが飛んでくると判断したのか、フレデリカはにやにや笑い続けるパピリオに対しては、ぴしゃりと拒絶の態度を見せた。
しかし、パピリオはまるで気にした風もない。
寧ろその矛先を雫澄に向け変えて、更に勢いを増そうとしている。
「そういえばナスミ、昨晩は凄かったね〜」
「え、えぇっ!? 何ですか!? 僕何か、やらかしましたっけ!?」
雫澄は誰の目にもよく分かる程に酷く狼狽し、迫り来るパピリオの笑顔に抗い切れず、わたわたと仰け反ってしまった。
昨晩、酷く飲みまくって酔い潰れたような気が無きにしも非ずの雫澄は、自身を酔わせた相手が、このパピリオなのではないかと内心で疑ってはいたが、しかしこう露骨に迫られてしまっては、そんな疑念など一瞬で消し飛んでしまった。
正確にいえば、疑念が確信に変わった、と表現した方が良いかも知れない。
矛先が雫澄に向いたのをチャンスと受け取ったのか、フレデリカは結和とエリーへの聴取に切り替える。
「取り敢えず、何だか随分と酷い目に遭ったような気が、しないでもないですー」
結和は幾分困った様子で、う〜んと小首を傾げた。
よく覚えてはいないのだが、あまり良い状況には置かれていなかったような気がして、ならないらしい。
一方のエリーは、全く異なる。
何があったのかは定かではないが、思い出そうとするだけで胸がドキドキする妙な昂揚感があった。
「ボクは……うぅん、何だか、変。こんな気持ちになるのって、結和とお話しする時ぐらいだと思ってたんだけど、何だかおかしい……」
矢張り、覚えていないか――フレデリカはこのふたりの行動をかなり把握はしていたが、当の本人達はほとんど記憶に残っていない。
リライターの効果は相当に個人差があるようで、特にフレデリカの手伝いをしていた面々にはその度合いが強いように思われた。
女湯での問題にも直接関わっていない様子のふたりからは、特に聞き出せる程の情報もなさそうであった。
「……で、あなたは?」
ひとりだけ、妙にばつが悪そうにしているベアードに、フレデリカは水を向けた。
ベアードは外観も非常に独特だが、その言動も微妙に特殊であった。
「イヤ、ナンデモナイ。トニカク、ナンデモナイ。メガサメタラ、トッテモハズカシイカッコウニナッテタ、ナンテコトハナイ。ダンジテナイ」
自分から、白状してしまっているようなものである。
実際ベアードは、目覚めた時には亀甲縛りにされていた。何とか自力で脱したのは良かったが、あんな恥ずかしい姿を他の誰かに見られてはいやしないかと、もうそれだけが、気が気ではなかった。
幸い、今のところはまだ、その状況を目撃したという話は耳に入ってきていない。
後は如何にして白を切り続け、何事もなかったかのように振る舞うだけなのだが――。
「ふぅん。何かあったのね」
フレデリカのこのひと言に、ベアードは我知らず、全身から冷や汗が噴き出した……ような気がしたのだが、見た目からは自分でもよく分からない。
最後にフレデリカは、佐那に今朝の状況を尋ねた。
すると佐那は、何故か本気で悩み始めた。
「えぇっとですね……朝起きたら、廊下で従業員のひとにアナコンダ・バイスをかけてました」
「……はぁ?」
思わずフレデリカは素っ頓狂な声をあげたが、更によくよく聞いてみると、佐那のもうひとつの顔、即ち海音☆シャナの衣装に着替えていたのだという。
何となく、昨晩は誰かとプロレスに関して熱く語り合っていたような気がするのだが、しかしそれが何故、目覚めのアナコンダ・バイスに繋がるというのだろう。
フレデリカでなくとも、その異様な展開が理解出来ないという者は少なくない。
当の佐那自身も、何があったのか全く分かっていないのである。
「それで、その従業員さんは?」
「取り敢えず、今日は家でゆっくり休むそうです」
病院送りにならなかった分、まだ事態は比較的簡単に収まりそうではあるが――少なくともフレデリカは、佐那と一緒に呑む機会があったとしても、絶対にお断りしようとこの場で心に誓った。
「ところでひとつ疑問なんですが……どうしてサンタクロースのあなたが、昨晩の出来事をこうして皆さんに聞き回っているんですか?」
物凄く根本的なところを突っ込まれ、一瞬フレデリカは喉の奥でうっと詰まったが、しかし決して顔には出さず、涼しい表情を装った。
「えぇっと……今夜のクリスマスイブに向けて、どういう段取りを取ろうかと思ってね。それで、昨晩のパーティーの様子を参考にしようと思って」
「へぇ〜、そうなんですか。お仕事熱心なんですね」
佐那は心底、感心した様子を見せていたが、フレデリカは内心、そのひと言が酷く強烈な嫌味に聞こえてならなかった。
* * *
パーティーが始まって、まだ一時間も経っていない宵の内の時間帯。
会場の一角に目を向けてみると、キロス君の周りで周りに何人か集まってる。まだリナリエッタさんに剥き倒される前の、平和なひと時ってところかしら。
キロス君を囲んでいるのは柚さん、アルテミスさん、それにスティンガーさんね。
この面子なら、キロス君も安心して料理を楽しんでいられるってものね。
キロス君も悪い気分じゃなさそうだけど、ただ、スティンガーさんが正義の心の使い方について語り出したのには、ちょっと辟易してるみたい。
「だからな、キロスはさ、正義感の使い方を覚えるべきなんだって。爆発させるべきはリア充共じゃなくて、犯罪者の方だろ?」
「いや、ちょっと待てよ。何故最初に、爆発なんだ? まずそこから、話を整理しようじゃねぇか」
あはは……逆にキロス君の方が冷静じゃないの。
スティンガーさんもこれには、苦笑いするしかないみたいね。
ん?
何だろう、アルテミスさん妙にもじもじしてる……柚さんも、アルテミスさんの様子に気付いたようね。
「アルテミスさん、それ、本当なんですか?」
「はい、私も最初は単なる気の迷いだと思ったんですが……でも、騎士の精神に誓って断言します。これはもう間違いありません。私は、キロスさんに恋しています」
おぉっ、何なに? いきなり愛の告白ですかぁ?
「そういうことなら、ほら、これをプレゼントして告白するのがお約束ってやつですよっ!」
柚さんが愛のキューピッドって訳?
熱い展開になって……って、ちょっと待ったぁ!
今、柚さんがアルテミスさんに渡したのって、秘宝だよね? 秘宝だったよね?
「頑張りますっ! このお宝でキロスさんを見事一本釣りしてみせますっ!」
いや、ちょっとアルテミスさん、何いってんのよ。
そんなのでキロス君を釣ろうって、いやいや、そんなの、じゃないわ。私の大事な秘宝を勝手に使わないでってば……あぁー、駄目だ、もう目が完全に恋する乙女じゃない。
「キロスさん、お願いしますっ」
アルテミスさん、いや、だからさ……秘宝差し出して、握手求めてんじゃないわよ。
「おぉっ、キロスっ。いきなりリア充の仲間入りか!? 裏切りは良くねぇぞぅ」
スティンガーさん、そういう問題じゃないの。ちょっと黙っててくれるかしら。
「アルテミスさんガンバですっ! その綺麗なお宝でキロスさんのハートを奪っちゃうのですっ!」
えぇい、柚さんも黙らっしゃい。
それは秘宝なのっ。愛の告白なんかに使われちゃあ困るのってば!
「うーん、さぁて、どうしたもんかな〜」
キロス君もしたり顔で勿体ぶってんじゃないわよ。後でリナリエッタさんに酷い目に遭わされるんだからね、覚えときなさいよっ。
それにしても、どうして秘宝がこんなに量産されちゃってるのかしら。
おかしい、絶対おかしいわ。
とにかく原因を突き止めないと、非リア充エターナル解放同盟を排除することもままならないわ。
そういえば、マリエッタさんも秘宝を手にしたひとりよね。
どこに居るのかしら……あ、マリエッタさんじゃなくて、先にゆかりさんを見つけた。どうやら、ローザさんと一緒に、マイキーさんとマネキさんが経営するバーコーナーでがぶがぶ呑み倒しているみたい。
あ〜……ありゃ、完全に呑み過ぎだわ。
っていうか、あのペースで呑んだら、普通に酔い潰れそうなんですけど。
「良い呑みっぷりだ、お嬢さん。このアワビ酒がお気に入りのようだねっ。愛を感じてくれたら尚良しだ」
「うむ……この酔いどれ酒、実に好調だ。ここで一気に喧伝して、ゆくゆくは大量生産に……」
マイキーさんは純粋にバーテンダーしてるのに、マネキさんのブラックな空気は一体何かしら。
それはそうと、ゆかりさん半端ない呑みっぷりね。本当に大丈夫かしら?
「ふぅ〜、呑んだ呑んだ、呑みました。ちょいと今から、ひとっ風呂浴びてきましょうかね〜」
ローザさんって、酔うとお湯に浸かりたくなる体質なんだ。
あー、でも、ゆかりさんひとりにして大丈夫かな。
「わ〜たすぃだってですねぇ、呑む時ゃ〜呑むんでござんますのよぉ〜!」
……こりゃ駄目だわ。完全にお酒に呑まれちゃってるよ。マネキさんの酔いどれ酒って、そんなに強烈なのかしら?
マイキーさんのところで何故かウェイターなんかやっちゃってる雫澄さんも、えらいことになってる。
「ふふふ……ナスミのグラスを持つ手って、綺麗ね」
パピリオさん、口では色っぽいこといってるけど、雫澄さんにがばがば呑ませるそのペースは、ちょっと殺人的過ぎるんじゃないかしら。
確か、雫澄さんって結構お酒に強いって話だったけど、あんなにべろんべろんになっちゃって。
そもそも、呑み過ぎたひとを介抱してたらいつの間にかウェイターみたいなことまでやらされちゃってたのが雫澄さんのここまでの経緯だけど、パピリオさんが雫澄さんをワイン攻めにしてたのって、いつ頃からだったのかしら?
「うぅ……だ、駄目です、ちょ、ちょっともう、勘弁してください……」
「またまたそんなこといっちゃって……ナスミってば、喉のラインもすらっとしてるのに、どことなく男らしいのね……ちょっと見直したかも。ねぇ、もっと呑ませてあげる」
「あ、いや、だから……」
んなこといってるうちに雫澄さん、卒倒しちゃったよ。
パピリオさん、めっちゃ笑ってるし。
「おぉっと、ウェイターさん倒れちゃあ困るよ」
マイキーさんも、すっごい他人事なんですけど。
っていうか、何だか会場全体が妙に混沌としてきたような気がするんだけど、気のせいかしら。
「オゥイエー! 皆、乗ってるかーい!」
誰かと思ったら、アキラさんじゃない。
会場内を機晶サーフボードで飛び廻るって、何考えてんのかしら。
しかも何故か、デメテールさんをタンデム騎乗させてる。
で、そのデメテールさんは、何故か知らないけど、中華鍋を抱えてる。なんで? どうして?
「こらー! その鍋を返すアルねー!」
……あ、美凜さんが物凄い形相で追いかけてきてる。
もしかしてデメテールさん、美凜さんの四川料理を強奪したの? 分からない。さっぱり意味が、分からないわ。
そうこうするうちにパピリオさん、別のひとを標的にしたみたい。
「うぉっ、な、何だぁ!?」
「逃げろ逃げろニンゲンどもよ〜」
追い回されてるのは、宵一さんじゃないの。
しかも、すぐ捕まってるし。逃げるの、遅っ。
あ〜、捕まったが最後ってやつね、がっばがば呑まされてるし……もしかして、宵一さん逆さ磔にしたのも、パピリオさんなんじゃないの?
うぅん、もしかして、じゃないわね。あの勢いだと、多分間違いないわ。
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