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最強要塞決定戦!

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最強要塞決定戦!

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    ★    ★    ★
 
「対空砲で敵イコンの牽制を」
「はいはいっと」
 アルディミアク・ミトゥナに言われて、マサラ・アッサムとリン・ダージがHMS・ヴァリアントがいると目される岩塊群にむかって弾幕を張った。
「よおし、一気に撃墜しちまおうぜ」
「適当に弾幕を張る間に、主砲の光条砲の準備を」
「追いかけないのか?」
 やられたらやり返す気満々であったココ・カンパーニュが、不満そうにアルディミアク・ミトゥナに聞いた。
「あんなのは、見え透いた陽動に決まってるわ。すぐに本命が来るわよ」
「正面、敵が移動を開始しましたあ。右に回り込むつもりのようですわあ」
 アルディミアク・ミトゥナの言葉が終わらないうちに、レーダーを見ていたチャイ・セイロンが報告した。
「並走による、横一列の艦砲射撃か。古いセオリーだな」
 アラザルク・ミトゥナが苦笑する。ここは雲海という名の海ではあるが、水の満たされた平面の海ではない。
「光条砲にエネルギー充填のまま、補助スラスターを全可動。メインフローターカットオフ!」
 アルディミアク・ミトゥナの命令をアラザルク・ミトゥナがあうんの呼吸で即座に実行した。
 浮力を喪失したアルカンシェルの巨体が、一気に落下を始める。
「敵攻撃、上方を通過しましたわあ」
 HMS・テレメーアの砲撃が、さっきまでいた空間を横切って全弾はずれるのを見てチャイ・セイロンが言う。
「スラスター全開。姿勢制御!」
 大きくアルカンシェルが傾き、ゴチメイたちがそれぞれのシートにしがみつく。
「光条砲、照射二秒。薙ぎ払え!」
 アルディミアク・ミトゥナの命令で、ペコ・フラワリーが艦首にある光条砲を発射する。未だ姿勢制御スラスターによって全体を回転させつつあるアルカンシェルの射線が、きっちりとHMS・テレメーアを横切るかに思えた。
 そのとき、アルカンシェルの上方に、敵の砲弾がいくつか着弾する。そのため、射線がわずかにずれて、光条エネルギーの光がHMS・テレメーアの艦底部をかすめるに留まった。
 
    ★    ★    ★
 
「初弾、敵上方を通過。修正データ送る」
 弾着観測の任についていた富永佐那が、急降下してHMS・テレメーアの攻撃を躱したアルカンシェルの機動パターンと、射撃修正データを母艦へと送った。
「補正データ来ました」
「データを、魔道レーダーのデータとマージして、さらに補正せよ。水平面、左30度下げぇ! 修正射撃、斉射!」
 ローザマリア・クライツァールの報告に、ホレーショ・ネルソンが命じた。
 HMS・テレメーアが船体を左ロールして、砲塔を下方へとむける。いったん水平面からの射界を外れたアルカンシェルを、今度はきっちりと射界に収めた。だが、アルカンシェルの方も、要塞を傾けてHMS・テレメーアを自分の射界に捉えようとしている。
 生前には考えられなかった戦法だが、自由に空間を我が物とする快感は、そこで戦った者にしか分かるまいと、ホレーショ・ネルソンは内心で笑みを浮かべた。楽しい、実に楽しい。
 だが、わずかにHMS・テレメーアの方が早かった。艦船型のため、船体を傾ける速度は幅のある要塞よりも素早い。
 要塞砲の直撃がアルカンシェルに命中し、敵がわずかにかしいだ。直後に、艦首から、光条砲のエネルギーが巨大なサーベルのように雲海の雲を蒸発させつつ空間を薙いだ。被弾のずれのおかげで、ぴったりとHMS・テレメーアの艦橋を捉えていた軌道がずれ、艦底部の脱出艇を容赦なく船体から切り落とす。
「総員、衝撃に備えっ!」
 脱出艇が爆発し、HMS・テレメーアが爆風で上へと押し上げられる。
「体勢を立てなおせ。気後れした方が負けるぞ」
「敵イコン群接近!」
 魔道レーダーを見ていたローザマリア・クライツァールが、高魔力反応を持つ小さな物体群の接近を報告した。
「各対空砲、弾幕を張れ! 観察機からのデータを再計算。敵要塞を射線上に戻せ」
 敵も休ませてはくれないと、ホレーショ・ネルソンは次々に命令を下していった。
 
    ★    ★    ★
 
「メインジェネレータ再起動。光条砲、エネルギーカートリッジ交換。再充填急げ。各種ミサイル、発射準備」
『おーい、なんだか、イコンデッキから、艦載機がたくさん発進していったぞ』
 次の攻撃を開始しようとしたアルディミアク・ミトゥナの許に、イコンデッキにいるジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)から連絡が入った。
「艦載機って、この要塞の航空戦力は、あなただけのはずよ?」
 そんな、自分のあずかり知らない戦力など考慮していないと、アルディミアク・ミトゥナが首をかしげた。
『なんだか、こばーこばーって、鳴いていたが?』
「ええっ!?」
 まさかと、ゴチメイたちは顔を見合わせて唖然とした。
 
    ★    ★    ★
 
「敵イコンから、大量のミサイル発射を確認。防ぎきれない!?」
 周囲のレーダーを埋め尽くすほどのミサイルマーカーにローザマリア・クライツァールが悲鳴をあげた。
 だが、次々にミサイルが着弾していくものの、深刻なダメージを受けない。
『こばー』
『こばー』
 HMS・テレメーアの周囲では、小ババ様専用イコンで出撃した無数の小ババ様が、一斉にコンテナミサイルを発射していた。本物はその中の一人だけなのだろうが、データ上は雲霞のごとき大群に分裂している。
 ただ、しょせんはイコプラを改造した小ババ様専用イコンなので、極端な火力は持ち合わせてはいない。むしろ、花火程度に最初から抑えられていると言っても過言ではなかった。とはいえ、大量の攻撃を受けては、爆発の閃光と煙で索敵もままならない。
「外部モニタ輝度調整。ザーヴィスチから索敵データ来ました。データ射撃可能。敵要塞、未だ攻撃態勢に移行できずにいるようです」
「機を逃すな。目標は、敵光条砲発射口。荷電粒子砲、狙え。てーっ!」
 ホレーショ・ネルソンが、間髪入れず命令した。
 射線上の小ババ様専用イコンを蒸発させながら、荷電粒子のビームがアルカンシェルに突き刺さる。直撃を受けた光条砲が爆発し、周囲のミサイル砲台を次々に誘爆させていった。そのままメインジェネレータへのエネルギーバイパスを分断されたアルカンシェルが、浮力を維持できずに雲海の底へと沈んでいく。
「敵要塞、戦闘域より離脱。……って、ゴチメイの船を沈めてもよかったの?」
 敵の消滅を確認したローザマリア・クライツァールが、ちょっとホレーショ・ネルソンに聞いてみた。確か、先に合コンで、ホレーショ・ネルソンはゴチメイの一人、マサラ・アッサムを踊りに誘ったりと、いろいろいい雰囲気だったと聞いている。
「戦いは戦いですからな。模擬戦でなければ拿捕するところだが……。まあ、後でお茶にでも誘うこととしようか」
 すでに頭の中は勝利のティータイム段階に移行したホレーショ・ネルソンが、そうローザマリア・クライツァールに答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「試合終了です。HMS・テレメーアの勝利となりました」