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「ふふふふふ……」
「こんな時に、なに薄気味悪い笑い声上げてるんだ」
 ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)の冷たい声が響いた。
「あ、いえ」
 と、笑いの主、メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)は表情を戻した。
「レンさんと神楽崎さん、以前口論をしていたようでしたが、共通の目的を持って行動している今は、なんだか仲良しさんに見えてしまって」
「そうだろうか。今も口論しているように見えるけれど」
 リィナ・コールマン(りぃな・こーるまん)がちらりと2人の姿を見ていった。
 優子と、レン・オズワルド(れん・おずわるど)は意見が対立している、というより、なにやらレンは干渉しすぎだと優子に諌められているらしい。
「目的を果たすために、より良い結果を得る為に、男同士は殴り合ったり、意見をぶつけあうものでしょう?」
「そういうモンかね」
 ザミエルは興味なさ気に、スコップで地面を掘っていく。
「というか、神楽崎は女性だが」
 言いながら、リィナは運んできた遺体を、地面に寝かせた。
 そして写真を撮って、カルテに貼り付け、身長や体格、性別など分かる範囲んで記入していく。
 仕上げたカルテは、その人物が身に着けていた遺品と共に、袋に入れる。
 回収した遺体を、現地で火葬したいとリィナは申し出ていた。
 しかし、遺族でそれを了承する者はいなかった。
 だが、身寄りのない者については、放置しておくよりも火葬した方が良いだろうと、政府から許可が出たため、ナオの調査で、身寄りがないと判明しているものの遺体のみ、こうして拠点からは少し離れた、この場に集めていた。
「こちらも頼む」
 コウが男性の遺体と、遺品を持って訪れた。
「……カルテを作成しておこう」
 盗賊団員だとわかるような格好の遺体だったが、リィンは最後の姿を写真に収めて、カルテを作成し、遺品と共に袋に入れる。
「ノアをおいてきて正解だったな」
 地面を掘り終えて、スコップを投げるように置きながらザミエルが呟いた。
 この世界は死に溢れ過ぎていて、明るいノアには辛すぎる――。
「神楽崎からの許可が出た」
 軽く苦笑しながらレンがパートナー達の元に戻ってきた。
 どんな立場の者であっても、遺体は全部連れて帰りたい、修復したいという者も多く、優子は火葬に反対だった。
 テレポートは術者を何人か連れてきており、何度かに分けて行えばいいし、今回の探索を終えた後も政府による探索は行われるだろうから、と。その他にも何か理由があるようだった。
 それでも、レンはシャンバラと時間の流れが近づいている今、この地にこの状態のまま置いておくのは良くないと優子を説得し、身寄りのない者のみ何とか許可を得たのだった。
 遺品とカルテの袋詰めを終えると、リィナはメティスと共に遺体をザミエルが掘った穴に寝かせていった。
「離れていろ」
「はい」
 メティスは直ぐにその場を離れ、レンの隣へと歩く。
 リィナも少し距離をとると火術を発動し遺体を焼いていく……。
(今回の件――古代人の陰謀とそれを巡る陰謀によって、どれだけのモノが失われただろう)
 炎を見ながら、コウは思う。
(だが、ここにまだ残るものも、きっとあるにちがいない)
 そして、少ししびれの残る手を眺めるのだった。

 火葬を終えた後、ザミエルは煙草に火をつけた。
 そして、焼き場を見つめ続けているリィナに近づき、煙草を1本差し出した。
 リィナは何も言わずに受け取る。
 発見された遺体の中には、子供の遺体もあった。
 リィナは昔、娘を亡くしている。
 彼女のやりきれない気持ちを、ザミエルは感じ取っていた。

○     ○     ○


 休憩所周辺に、意思能力のない光条兵器使いが沢山集まっていた。
 外の気温が安定していることもあり、休憩所の中で休んでいる者はあまりいなかった。
「生身の方より、機晶ロボットからの方がデータ採取できそうだよね」
 襲ってこない者を壊そうとまでは思えなかったので、レキは壊れている人造兵器、主にロボット型の方を回収しては、記憶装置と思われるものを確保したり、サイコメトリで作った者、起動中に受けた事柄を探っていった。
「うーん、あー、やっぱり壊れた時のイメージが強く残ってるね」
 そのロボットは百合園生に倒されたロボットだった。
「あ、その前にも人に遭遇してる?」
 別の部品にサイコメトリしてみたところ、そのロボットに抗いながら捕獲された人の姿が浮かんだ。
「それで、門のあるところに行きって……その先に、メンテナンス室がある、と」
 ロボットたち、光条兵器使いが残したものを調べているうちに、人型兵器の動きが見えてきた。
 レキはパートナー経由で優子に連絡を入れつつ、調査を続けて、まだ発見されていない人々がいる場所の目星をつけて、皆に連絡を送っていく。
「レキちゃん、ちょっとごめんね」
「あ、うん。ありがとう」
 レオーナは探索を出る前に、休憩所の掃除をしていた。
 愛槍「ゴボウ」に、うっかり自主掃除の時に取り付けたモップをつけたまま、訪れていたため、せっかくだから、皆が快適に過ごせるように、掃除をしておくことにしたのだ。
 レキが座っていた場所をモップでごしごし拭いて、床全体をごしごしして、壁もドアも磨いておく。
「……よし、終了! それじゃイングリットちゃん達と一緒に街を調べてくるわね」
「壊れたロボットや、エアバイクがあったら、運んでくれるとうれしいな」
「うん、任せておいて。何かあったらすぐに連絡ちょうだいね」
 レキにそう言うと、レオーナは休憩所の外に出て、イングリット達を呼んだ。
 単独で行動はしない。もう、皆に迷惑をかけたくないから。可愛くて大好きな仲間達と一緒に、役に立とうと思っていた。

「この辺りには来たことなかったんだ」
 マリカルーシェリアエリシアイングリット、そして合流したレオーナは廃墟の中を歩いていた。
 ここはかつて人が暮らしていた街であったと思われる。しかし今は、殆どが焼け落ちていて、生物の命が感じられなかった。
「随分と昔の建物のようですわ。でも、時間の流れが違うからでしょうか、そう古さを感じませんね」
 エリシアは、エセンシャルリーディングの能力を用い建物を観察していた。
「ダークレッドホールを生きて通過した方でしたら、この街を目指しそうですよねぇ」
 ルーシェリアは辺りを見回して、何か落ちてはいないか調べていく。
 建物の陰や、崩れている家の中も、見落としのないよう、しっかりと確認していかなければならない。
「そうですねぇ、私は上から見てみますね」
 ルーシェリアはサンタの箒で飛んで、空から街を見下ろすことにした。
「お願いね! でも、上空からだけじゃ見えないところもあるし、見落としのないようにちゃんと見て回らないと」
 マリカは道路も建物の中も、しっかりと探して、人がいないか、遺品と思われるものが落ちていないか、調べていった。
「あちらに、壊れたロボットがありますぅ。レキさんの元に持っていきましょう〜。あ、その側に……」
 ルーシェリアは、ロボットの近くに、焦げている何かを発見した。
「……お連れしに行きますわ」
 イングリットがそう言い、ルーシェリアが示す先に、レオーナと一緒に走った。
 その場にあったのは、ロボットの残骸と、パラ実生と思われる男性の遺体だった。
「ロボットの方、お願いしますわね」
「う、うん。イングリットちゃん……大丈夫?」
 遺体を目にして、レオーナは少し怖くなった。
「大丈夫、ですわ」
 布を取り出して、遺体の身体を巻くイングリットの手が、少し震えていることにレオーナは気付く。
「わたくしも手伝いますわ」
 駆け寄ったエリシアが、イングリットと一緒に遺体を持ち上げた。
「ゆっくり歩きましょう。落してしまったら、より状態が悪くなってしまいますし」
「はい、気を付けますわ」
 エリシアとイングリットは歩調を合わせて、ゆっくりと運ぶ。
「辛くなったら、交代するからね」
 レオーナも壊れたロボットを抱えて、一緒に歩いて行く。

 数時間後には、休憩所の前に3人の遺体と、一袋分の遺品が集まっていた。
「それじゃ、行ってきますぅ。輸送トラック、こちらに持ってきますねぇ」
 ルーシェリアはレキが記録したデータや、ロボットの記憶装置を持って、優子達がいる世界の中心点へと向かった。
 そして、トラックを持ってくると、集まった遺体、遺品を乗せてまた、世界の中心点に連れて行く。
「そちらの探索が終わったら、街の方へ回ってほしい。手が足りないようだ」
 優子はレキから届いたデータや、届く報告をもとに、仲間達に指示を出す。
 集めらた遺体、遺品は、ナオ達により身元が調べられ、ローズにより修復をされ……もしくは、レン達により火葬されて、土に還っていった。