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そして春が来て、君は?

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そして春が来て、君は?

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3.


 真珠舎の中庭の花壇では、作業にいそしむ人物の姿があった。
 ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)は、定植を終えた薔薇の苗にたっぷりと水をやりながら、まだ瑞々しい若木を目を細めて見つめる。
 この薔薇の苗木は、薔薇の学舎の薔薇園から株分けしたものだ。両校の友好の証として贈られた。いずれ、立派な薔薇園となったときには……。
(いつか、ルドルフと……)
 丹精したこの庭を見て欲しい。その日を思い浮かべ、うっとりとララはため息をついた。
 一方では、少し離れた場所で、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)と窮奇、そしてKSGの一人である白花蛇がなにやら機械を囲んで額を寄せている。
「窮奇の作った装置に魔法陣を仕込んでみたのだ」
 それは以前、ナラカの太陽を捕獲した球体のミニチュアだ。
 リリの細い指先が触れると、球体を中心に微かな振動音が響き、魔法陣が花びらのように広がる。
 あらわれたのは、円形の魔法陣に五芒星が描かれた魔法陣だ。
「魔法陣全体は反発する呪印、五芒星の頂点は吸着する呪印で出来ているのだよ。だから……」
 リリが12個の球体をばらりと投げる。すると、展開した魔法陣が自動的に組み合わさり、空中で12面体の姿を為した。これにより作成された12面体は、リリ掌の上でくるくると回転を続けている。
「わあ!」
 思わず、窮奇と白花蛇が驚きの声をあげた。
「これで一人でも瘴気の塊を隔離できるのだ。問題はこの千倍の規模で動作するかなのだが……」
 リリの眉根が寄る。そのときだった。
「失礼しまああーーーーっす!!」
 きゃあきゃあ、としか表記しようのない喧噪とともに、KSGの面々が中庭にどっと姿を現した。美しく着飾った集団は、さながら色とりどりの花束といった感じだ。
「お、お前たち……」
 目標に向かって一目散に向かうガールズたちの勢いに押され、リリたちはその場に尻餅をついた。手のひらの12面体も、ころころと地面に転がっていく。
「ララ様、見てくださいな!」
「あらずるい。こちらが先でしてよ!」
「ララ様、私のほうが素敵でしょう?」
「ま、待ちたまえ。君たち、なんの騒ぎだ?」
 ララがなんとか一団を制止する。彼女らは、皆手に手に紙を持っていた。
「『真珠舎制服案』?」
 小旋風に渡された一枚に書かれていた文字を読み上げ、ララは事情を納得する。
「はい。私たち、制服のデザイン案をだすように共工様に命じられたのです」
「それで、皆で考えたのですが、絞りきれませんでしたの」
「ララ様のご意見も伺いたくて、まいりました!」
「なるほど……」
 制服というものは学校にはやはり必要だ、というのは天音たちからのすすめでもある。共工から、ララも実は相談は受けたのだが、「タングートの民の学校のものは、タングートの民が決めたほうがよい」というリリたちの考えのもと、KSGに要請することを提案しておいたのだ。
 その結果がこうなのだから、ララとしても無碍には出来ない。
「見せてくれたまえ」
「はい!」
「そうだな、制服なんだから余り露出の高いのは……、おや……」
 渡された紙の束をぱらぱらとめくるうちに、そのうちの一枚にララは目を留めた。
 それは白を基調にレースで真珠模様をあしらい、薔薇の刺繍の入ったアオザイ風の衣装だった。
「清楚さと動き易さを両立した良いデザインだ。私はこれを推すよ」
 そのほかにも数点を選び出し、選ばれた少女は頬を紅潮させて喜んだ。他の少女たちはしぶしぶながらも、ララの言葉ならばと納得した様子だ。
「さっそく、実際に作りますね」
 このデザイン画から実際に制服を作り、生徒達の前でファッションショーをした上で、投票で制服は決定することになったそうだ。ガールズによるファッションショーということは、さぞかし華やかになることだろう。
「ああ、楽しみだ」
 ララは心からそう答え、優雅に微笑んだ。



「綺麗な建物なの。案内図とか、あるのかな?」
「おい、ちょっと待てって」
 エセル・ヘイリー(えせる・へいりー)が楽しげに歩いて行くのを、レナン・アロワード(れなん・あろわーど)が引き留める。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもねーよ。あんまり大きな声だすなって。目立つだろ」
 小声で注意するのは理由がある。真珠舎の噂を聞きつけてエセルが興味を持ったのはいいが、問題は、「一人で行くのは不安だから、レナンちゃんについてきて欲しいの」と頼んできたことだ。
「女子校なんだぜ? 男が行けるわけねぇだろう」
「でもでも……女の子に見えればいいんだよね? レナンちゃんは髪長いし、下ろしちゃえば女の子に見えると思うの!」
「はぁ!?」
 ……というやりとりの後、結局レナンは女装をして、エセルについて来たわけだ。我ながらエセルに甘いとは思うが、放っておけないのだから仕方がない。
 金色の長い髪はおろして、講師志望というイメージで、スーツを新調した。さすがにスカートでは尻尾が目立つので、パンツスーツにしたのがせめてもの救いか。胸は矯正下着の類いで、なんとか作って誤魔化している。薄化粧も施したレナンは、ややゴツいながらも、それなりに女性に見える。
 とはいえ、バレるのは問題だ。そのため、ついつい声を潜め、周囲に気を配りながらの行動になってしまう。
「大丈夫なの。レナンちゃん、とっても綺麗なの」
 エセルはそう無邪気に褒めてくれるが、そう嬉しくもない。
 出来れば『ちゃん』付けもやめてほしいが、今の姿はどう見ても『エセルちゃん』そのものだろう。説得力がない。なさすぎる。
「花壇のお花も綺麗なの。温室とかも、あるのかな? ……あ」
 そこで、ちょうど廊下をやってくる二人連れを見かけ、エセルは人なつこい愛らしい笑みを浮かべて声をかけた。
「こんにちわなの!」
「ごきげんようなのです」
 ぺこっと頭を下げたのは、フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)だ。その隣で、にこにことミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)も挨拶する。
「ふらんかはゆりそののしょとうぶさんねんせいです。きょうはけんがくにきました」
「そうなの。私は、イルミンスールなの。ね、よかったら、一緒に見学したいの。どうかな?」
 可愛らしく挨拶をするフランカの頭を、良い子良い子、とエセルは撫でてあげる。すると、途端にフランカの顔がぱぁっと輝いた。
「はいです! よろしくお願いします!」
「わぁ、よかったの。そうしたら、フランカちゃんはどこに行きたいの?」
「ふらんかは、じゅぎょうをききにいきたいです」
「そっか。そしたら、お教室に行ってみるの」
 二人はすっかり意気投合し、にこにこと手をつないで歩き出す。
「おい、教室どこだかわかってんのか?」
 レナンは呆れ、にこにこと様子を見守っているミーナに「いきなり、悪いな」と声をかけた。
「いえ。フランカと仲良くしてくれて、ありがとうです〜」
 可愛い女の子同士が仲良くしている様は、ミーナは大好きだ。ほわほわと満足げな笑みを浮かべて、フランカとエセルを見守るミーナだった。