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リアクション
「まったく、二転三転して……」
七尾 蒼也(ななお・そうや)は文句の一つも言いたいと言う顔で、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)を見つめた。
今回のバレンタインでは、大和たちの予定が二転三転したため、蒼也はそれに振り回される形になったようなのだ。
「大和に振り回されるのはスライム事件で初めて会ったときからだしな。まあ、ジーナに心配をさせたくないから、この次は確定してから準備しよう」
「そういえば、今は一人みたいですが……?」
話に出ているジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)がいないのに気づき、大和が尋ねると、蒼也は校舎の方を指差した。
「ジーナなら、天城紗理華先輩に会いに行くって」
大神 御嶽(おおがみ・うたき)の幼馴染である天城 紗理華(あまぎ・さりか)を、ジーナは訪ねに行ったのだ。
「ああ、なるほど」
納得した大和に、蒼也は携帯の待ち受けにしているジーナのドレス姿を見せびらかした。
「いいだろう、この間、試着したものなんだけど、綺麗だろう」
うれしそうな蒼也に大和は少し苦笑いしながら、はいはいと答えるのだった。
その頃、ジーナは御嶽から話を聞き、ショックを受けていた。
「えーーっ、いらっしゃらないんですかー?」
「はい、何やら買いたいものがあるといって、ずいぶん早くに出かけていきましたよ?」
御嶽はジーナに、そう紗理華の不在を告げた。
「ふむ、魔糸のときの恩を返すのは、また次になるかな」
『大神御嶽の恋成就大作戦』を企画していたガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)はそう呟いた。
「あ……」
(早く出たって事は、もしかして、天城先輩、チョコを買いに行ったんじゃ……)
そんなことを思ったジーナだったが、真相は分からない。
少しの間ができた後、御嶽はジーナとガイアスの後ろに視線を向け、ジーナに問いかけた。
「それよりも、用事がある人がいるんじゃないですか?」
「え?」
ジーナが振り向くと、そこには蒼也が立っていた。
「ええと、遅いなと思って…………」
ちょっと照れくさそうに言う蒼也にジーナはオロオロしながら、返事をする。
「あ、ご、ごめんなさい。私……」
「実は一緒に行きたいって思ってたレストランがあるから、これからどうかなと思って。ガイアスさんも良かったら一緒にいかがですか?」
「ふむ、それでは行くとしようか」
ジーナが答える前に、ガイアスが了承してしまう。
「ガ、ガイアス」
思わずジーナが口を挟むが、蒼也がそんなジーナに少し心配そうに聞いた。
「ジーナは嫌かな?」
「い、いいえ」
ジーナは頬を染めて小さく頷いた。
「喜んで……」
こうして、ジーナと蒼也の二回目のデートが実現した。
同じイルミンスールの生徒である蒼也とジーナの最初の出会いは割と早く、学校に入学した頃だった。
その頃からいろいろな場所ですれ違い、段々と気にかかるようになり、一緒に冒険するようになった。
蒼也はジーナが先輩と呼んでくれるのがうれしくて、性格もいい子で可愛いし、気になっていた。
でも、自分は話がうまいわけじゃないし……なので、魔糸の時など、連絡が取りたくても取れなかったときもあったりした。
今日はそんな感情に打ち勝ち、勇気を持って、ジーナを誘ったのだ。
2人とも少し緊張していたが、それでも互いに互いのことを話していた。
「前に空京で鏖殺寺院の奴をかばって、警官に撃たれたよね、ジーナ。あのときはあんな思い切ったことするなんてって驚いた」
それと同時に、守れなかった自分が悔しかった、と蒼也は思っていた。
「ああいう無茶はしちゃ駄目だぞ?」
「あ、はい、でも……」
ジーナは控えめに蒼也の言葉に反論した。
「鏖殺寺院ってそんなに悪い人なのかな……って思うんです」
グエン・ディエムと関わりのあるジーナは、他の人たちと鏖殺寺院への見解が異なっていた。
「そういうものかな? でも、無茶はダメだぞ。ジーナを大事な人が悲しむ」
蒼也の言葉に、ガイアスもうむうむと頷く。
ガイアスとは初めて話す蒼也は、それで少し緊張が解け、少しくだけた感じで話し始めた。
「ジーナは将来の夢とかあるのか?」
「夢ですか?」
ジーナは小首を傾げる。
「入学した頃に、人生の目標を見つけようとは思っていたのですが……七尾先輩は?」
「俺は……まだ漠然としてる」
蒼也はフォークを置き、自分の思いを語った。
「だが家族を養えるだけの仕事はちゃんとしたいと思ってる。……ロマンがないかな?」
「いいえ、そんなことないと思います」
首を振るジーナに、蒼也は安心し、じっとジーナを見つめた。
「ジーナと一緒なら……夢が見られそうな気がする」
「え?」
プロポーズにも聞こえるその言葉に、ジーナは驚いたが、蒼也はそれ以上そういった話は続けず、違う話に切り替えた。
「春になったら、一緒にもっと遠くへ行きたいな」
「そうですね、暖かくなると、遠くにも行きやすいでしょうし、お花見とかそういうのもあるかもしれませんし」
「うん、ガイアスさん。これからもよろしくお願いします」
「……ふむ」
ガイアスは蒼也のプロポーズめいた言葉に、何か思うところがあったようだが、ここは鷹揚に頷いた。
最後にジーナは蒼也に手作りチョコを渡し、解散となった。
「そうだ、お返し」
ジーナと別れた後、蒼也はホワイトデーのことに気づき、何を送ると喜ぶかなとあれこれ考えるのだった。
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