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空を観ようよ

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空を観ようよ
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雨の日の温もり

 家を出た時は、雲一つない快晴だった。
 用事を済ませて外に出たら、空は暗い雲に覆われていて、ごろごろと音を立てていた。
 ポツッと大きな滴が落ちてきたと思ったら、数分後には前も良く見えないほどの土砂降りになっていた。

 ドンドンドン、ドンドンドン
 激しくドアを叩かれて、ヴァイシャリーに滞在中だった神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は、飛び起きて剣をとった。
「どうした?」
 警戒をしながら、ドアをあけた途端。
「よかった、いたぁ!」
 と、冷たい何かが飛びついてきた。
「どうした亜璃珠。変質者でも出たか?」
 優子は飛びついてきた女性、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)を庇うように抱き締め、部屋の中に入れた。
「そう、襲われたの……突然」
 よよよよっと亜璃珠は泣きまねをして、優子を見上げて、彼女の真剣な目をみて我に返る。
「ええっと、見ての通り、突然の雨にやられちゃって」
 体を起こして、亜璃珠は優子に自分の格好を見せる。
 自慢の縦ロールは雨でぐずぐずのべたべた状態。
 よりによって今日は白いブラウスの下に黒の下着をつけていたものだから、ただでさえ危うかったのに、濡れて服が張り付いて、体のラインが露わになった上に、下着がスケてしまっている。
 辛うじて化粧だけは守ってきたけれど、出てきたのが優子ではなくゼスタなら、目つぶしをしていただろう。
「これで留守だったらどうしうようかと……その、ごめん」
 抱き着いたせいで、優子も濡れてしまって、下着が見えている。というか、優子はスポーツタイプの上下の下着に、長いガウンを羽織っただけの姿だった。
「なんて格好してるの? まるで襲ってくれと言っているような」
「夜勤明けで寝てたんだよ。今のキミに言われたくないね」
 優子はタオルを持ってくると、亜璃珠の頭に乗せてぐしゃぐしゃと髪を拭きだした。
「きゃああ、なんてことをー! 髪がめちゃめちゃに……。その格好といい、もう少し女性らしさというものを持ってほしいわ。
 ううんいいのよ、男性的な反応でも。これって少年漫画で言ったら、この上ないラッキースケベなシーンなんだから、もうちょっと喜んだり催したりしてもいいのよ」
「喜ぶ要素がどこにある。とにかく脱げ」
「うわっ、絶好のシチュエーションなのに、何故か全く色気を感じない」
 軽く嘆きながら、亜璃珠はタオルを借りて自分で髪を拭き始めた。
「やっぱり天気予報は雨じゃないし、夕立にしては酷過ぎない?」
 窓から見える空は、まだ暗かった。
 携帯電話で確かめたが、天気予報は晴れのまま。
 軽くため息をついた後、亜璃珠は部屋の方に目を移す。
 優子は、亜璃珠に貸す服を選んでくれている。
「神様が気でも利かせてくれたのかしらね……プラマイゼロかなあ」
 深くため息をついた途端。
 ドーン。
 部屋が揺れるほどの大きな音が鳴り響いた。
「!!!」
 亜璃珠はダイブするかのように、優子の背に飛びついていた。
「……近くに落ちたみたいだな」
 優子が亜璃珠の頭に手を置いた。
「そ、そうね……」
 亜璃珠は咳払いをすると、優子から離れる。
 雷――苦手なのだ。
 出会いがしらの抱き着きと違って、今のは反射的に体が動いてしまった。
「いや、こういうのは多分、留守番しがちな子にはよくある筈だから……。
 その、シャワー借りるわね」
 とたとたと早歩きで、バスルームへと向かう。くすっと優子が笑う声が聞こえて、亜璃珠は顔を赤らめた。
 脱衣所のドアを一旦閉めてからまたちょっとだけ開けて、亜璃珠は優子の姿を覗き込む。
「一緒にどう?」
 誘うようにそう言うと。
「……残念だけど、2人で入るには狭すぎるから」
 優子は亜璃珠から目を逸らしてそう言った。
(あ、照れてる……すこしはむらっと来たのかしら)
 くすくす、亜璃珠は笑いながら、濡れた服を脱ぎシャワーを浴びた。

 シャワーをして着替えて、髪を乾かし終えたときには、雨はすっかり止んでいて、部屋には太陽の光が射し込んでいた。
「身長もたい……体重もそんなに変わらなくて助かったわ。下着はきついけど」
「体重変わらない? ふーん」
 優子は意味ありげな笑みを含んだ顔で、亜璃珠の身体を眺めた。
 上半身に来たシャツは、ボタンが弾けそうな感じで、下半身のパンツはむっちりとしたお尻と、足のラインが露わになっている。
「なにその、エロ親父のような視線は」
 身長も体重も変わらないというのは、嘘ではない。身長は優子の方が少し大きく、体重は亜璃珠の方が少し重いだけで。
 ……体脂肪率は全然違うかもしれないけれど。
「まあいいか。何か飲んでいくか?」
 優子がふっと笑う。
「……遠慮するわ。もうすぐ日も暮れるし、ここに長居したら、雨じゃない別の何かに襲われてまた脱ぐ羽目になるかもしれないじゃない?」
「それもそうだな、私も身の危険を感じる」
 笑い合って、玄関に向かいドアを開けた。
 空は茜色に変わっていた。
「今日はありがとう。またね」
「ああ、次は私が世話になるかもしれない」
「わかったわ。いつでもどうぞ」
 そして亜璃珠は外へ一歩、足を踏み出してからくるっと振り向いた。
「ところで行ってきますのちゅーは?」
「それは未来の旦那様用だな」
「予約は」
「いいから帰れ」
 優子の苦笑気味な笑みに見送られて、亜璃珠は帰っていった。

「……それにしてもキツイ」
 伸縮性のあるスポーツタイプの下着をつけているのだが、とにかくきつかった。
「でもなんか……」
 ぎゅっと抱きしめられているような感覚でもあった。
 シャツからは仄かに優子の香りがして……目を閉じると不思議な気持ちになる。