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第17章 一緒にいれば

「アスカ、空京で今月はホワイトデー大感謝祭というお祭りがやってるそうですぅ。行きますよぉ〜」
 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)から、そう誘われた神代 明日香(かみしろ・あすか)は、勿論2つ返事でOKした。
 バレンタインに、エリザベートに『特別』を貰ってからというもの、明日香はとってもご機嫌だった。
「カップルが多いですねぇ」
 その日のお昼頃。
 2人は大感謝祭で賑わう街に到着した。
「どこに行きましょうかぁ」
 明日香がエリザベートに尋ねる。
「露店を見て回るですぅ。それから、人気のお店に入りますぅ。それからそれから」
 エリザベートはきょろきょろ辺りを見回している。行く場所は決まってないようだった。
「それじゃ、エリザベートちゃん。露店を一通り見て回った後で、私が行きたいお店に付き合ってもらえますか〜?」
「わかりましたぁ〜。お昼はあのクレープにしますぅー!」
「そうですね。甘くないものにしましょう〜」
 2人は手を繋いで、クレープ屋へと歩いていく。
「甘いのは帰りにしますぅ……。今は、卵照り焼きチキンクレープにしますぅ」
「私は、ツナピザクレープをお願いします〜」
 明日香はエリザベートと同じクレープにしようかとも少し考えたけれど、違うクレープの方が食べ合いっこで、違う味を楽しめるだろうと思って、あえて違うクレープにした。
「エリザベートちゃん、こっちも食べますかー? あーん」
「アスカもちょっとだけ、どうぞ〜。ピザも美味しいですぅ」
 エリザベートは自分のクレープを差し出しながら、明日香のクレープを一口齧った。

 クレープを食べ終えた後。
 スプリングジュースという、花の香りがするジュースを飲んでみたり。フランクフルトやリンゴ飴を食べたり。宝釣りゲームを楽しんだりして。
 一通り露店を見て回った後で、明日香はアクセサリーショップにエリザベートを誘ったのだった。
「エリザベートちゃんは、どういうものが好きですかぁ?」
「うーん、隣のお店の方が楽しそうですぅ」
 エリザベートは、アクセサリーよりは隣の……子供向けのぬいぐるみやお菓子のお店の方がまだ好きなようだった。
「それじゃ、こういった可愛らしいのがよさそうですぅ」
 明日香が選んだのは、白薔薇のブローチ。
「可愛いですぅ。本物の薔薇みたいですぅ」
 エリザベートは手にとって、ブローチを眺めている。気に入ったようだった。
 子供にも、思春期の少女にも似合いそうなアクセサリーだ。
 凝ったつくりになっていて、ちょっと値段は高めだったけれど、値段のことは気にせず明日香はそのブローチを購入することにした。
「つけてみますか?」
「汚しそうだから、今度にしますぅ」
 食べ歩きの際に、エリザベートは少し服を汚してしまっていた。
 明日香が拭いてあげてはいたけれど、多少シミになってしまっている。
 白いバラに今はまだ色をつけたくないという思いからエリザベートは大切そうにブローチを鞄の中にしまった。
「汚さないよう隣にいますから、パーティとかでつけてみるといいかもしれません〜。可愛いエリザベートちゃんがおしゃれしてもっと可愛くなったらとっても素敵ですぅ」
 明日香が嬉しそうに微笑むと、エリザベートは首を縦に振った。
 お洒落にはまだそんなに興味はないようだけれど……。
(保護者みたいな立場のアーデルハイト様はおしゃれなんてまだ早いって言うかもしれませんが……)
 明日香はまたきょろきょろあたりを見回しているエリザベートをにこにこ見ながら思う。
(いつまでも子供じゃありません! 成長してるんです)
「アスカ! パンダですぅー! イルミンスールに連れて帰るですぅー!」
 と、エリザベートはパンダの着ぐるみに向かって、目を輝かせて駆けていく。
 まだまだ子供のようだ。
 それでも少しずつ、確実に成長していることが明日香には解っていた。
 そんな彼女と一緒にいるだけで、明日香は満ち足りていた。幸せを感じていた。

 沢山楽しんだ後。
 2人は手を繋いで抽選会場へと行った。
「エリザベートちゃんお願いしますぅ」
 明日香は抽選券を全てエリザベートに渡した。
「アスカはやらないのですか〜。仕方ないですねぇ」
 そう言いながらも、嬉しそうにエリザベートはハンドルを回していく。
 白、白、白、白……と、白玉が続いた後。
 コロンと、ひとつだけ色のついた玉が落ちてきた。
「おめでとうございます。4等です!」
 明日香は表を見て、4等の景品を確認する……携帯電話のストラップだ。
「エリザベートちゃん、やりましたですぅ〜」
 明日香はエリザベートの頭を撫でてあげる。
 エリザベートは「くすぐったいですぅ」と言いながらとても嬉しそうに、景品を貰った。
 それから、エリザベートの手からストラップは一つ、明日香に渡された。
 二人の携帯電話につけられたストラップは色も形も同じものだった。
 エリザベートが選んだ、パンダのマスコットがついたストラップだ。
「可愛いですぅ」
 ストラップもだけれど……何より、自分に嬉しそうにストラップを差し出すエリザベートがとっても可愛くて、明日香はぎゅっと彼女を抱きしめる。
 そして、頭をなでなでして、微笑み合って。
 手を繋いで、イルミンスールへと帰っていった。