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手を繋いで歩こう

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手を繋いで歩こう
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リアクション

(神楽崎は、吉永番長の事が好きだったんだな……)
 若葉分校生として、番長の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)と共に訪れた国頭 武尊(くにがみ・たける)は、隠れ身で姿を隠し、会場の隅っこで一人、料理を食べていた。
 バレンタインの日、優子は竜司にパンジーの花を贈っていた。
 武尊へも用意してあったのだが、諸事情で武尊に渡せなくなってしまったため、直接渡したのは、竜司だけになっていた。
 経緯などは知らず、ただ、事実だけを知った武尊の精神は酷く乱れていた。
(パンジーはバレンタインの花と言われ、「愛の象徴として、愛しい人に贈られる花」らしいな)
 それは気になってネットで調べて知ったことだ。
 顔を上げれば、親しげに会話をしている竜司と優子の姿が目に映った。
「く……っ」
 そういえば、竜司は最近随分と武尊に優しくしてくれる。
(アレはきっと神楽崎に好かれている余裕の表れなんだろう)
 武尊は完全に竜司と優子が相思相愛だと思い込んでいた。
(知っていれば、神楽崎に手作りパンケーキを頼んだりしなかったのに。これじゃまるでピエロじゃないか)
 ……最悪だ。
 武尊は料理を持ってきては、『自称小麦粉』を『うまみ調味料』と称して、料理に振りかけながら食べていた。
 さらに、時折『その身を蝕む妄執』を自分に使い、現実から逃れようとする。
 次第に、朦朧としてくる。
「国頭」
 女性の声に、顔を上げる。
 目の前に、神楽崎優子の姿があった。
「ああ、やっと会えたな」
 それは幻覚の、自分が作り出した神楽崎だ。
 武尊はツナギのポケットから、取り出した――リングを、彼女へと差し出す。
「月が綺麗だな」
 それは、有名な作家の愛の表現――告白だった。
(幻覚相手の告白だから、何も問題ない……もう、どーにでもなれ)
 武尊の心は荒んでいた。
 幻覚の神楽崎はきゅっと眉を寄せて。
 輝く巨大な石のついたリングを、受け取った。
「頼むから、少し休め。ここは室内だ。月は見えない」
 幻影の神楽崎は、武尊の腕を引き、救護室へと連れて行く。
(幻覚なのに、温もりを感じる……虚しいぜ……)
 武尊は苦しげに顔をしかめる。
「どこかい痛むのか? 直ぐに医者を呼ぶ、大人しく寝ていてくれ」
 幻覚の神楽崎は、武尊をソファーに寝かせて、部屋から飛び出していった。

 その少し前。
「私だってぱーてぃのてつだいぐらいできるっつーの!」
 崩城 ちび亜璃珠(くずしろ・ちびありす)は、竜司が連れてきた若葉分校生に交じって、料理をぱくぱく食べていた。
「おまえらとちがってりょうりはふつうにできんだからな!」
 でも、今日は何も作ってはない。
 まだ、何もお手伝いもしていなかった。
「それなら、片付けくらいはして帰ってもらおうかしら」
 亜璃珠が、優子と一緒に、分校生達が集まるテーブルへと近づいてきた。
「もちろん、おかたづけまかせておけー。おまえたちもいっしょにやるぞ」
「やんねーよ。俺ら招待客だしなー」
「邪魔になるしな。ちびちゃんは、えらいでちゅね〜」
「バカにすんなー!」
 ぽかりと、ちび亜璃珠が分校生の足を叩く。
「いいこでちゅね、いいこでちゅね〜」
 分校生達は笑顔でちび亜璃珠の頭を撫でたり、料理をとってあげたりと、可愛がっていた。
「ん?」
 亜璃珠と一緒に、微笑ましげに分校生達を見ていた優子が、部屋の隅に目を留めた。
「国頭、あんなところにいたのか。……挨拶に行ってくる」
「優子さん?」
 武尊の姿を見つけると、優子は深刻そうな顔で駆けて行ってしまった。
 なんだか近づいてはいけないような気がして、亜璃珠はその場に留まっていたけれど……見てしまった。
 武尊が、優子にリングを贈る様を。
「あの指輪の大きな宝石……」
 あの巨大な石の存在は良く知っている。
 亜璃珠はごくりと唾を飲み込んだ。
「美味しいのかしら」
 そう、菓子屋で売っている飴だ。指輪キャンディーだ。

 医者を呼びに向かった優子は一人、苦悩していた。
 国頭武尊の病とは、認知症ではないかと。
 離宮での戦で、脳に損傷を受けたのではないかと。
 深い同情と、責任を感じつつあった……。