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ミニイラストシナリオ

ミニイラストシナリオ

イラスト:しいら まさき / ノベル:夜光ヤナギ

参加者

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 輝ける太陽。深緑の香り。
 真更町の山には、キャンプ場がある。
 観光客や地元の客用に設けられたそのキャンプ場は、今はのどかな空気に包まれていた。
 そして、キャンプ場の中央には、各々好きな場所で釣りや水泳を楽しめる小川がある。
 そんな小川の浅瀬に立ちながら、じっと川の中を見つめる青年が一人。
「…………」
 名は七枷 陣といった。
 顔だけ見ればそれなりに整った顔立ちをしている。いかにも日本人らしい黒いショートの髪に、白すぎず焼けすぎでもない、黄色系の肌。服装は無地の長袖薄シャツの上に半袖のシャツを重ね着し、下は迷彩柄のハーフパンツだ。お洒落に気を配っているというわけではないだろうが、それなりに後ろ姿は現代青年のファッションとして様になっている。
 ――シャツの正面にプリントされた、毛筆で描かれた風の縦文字『厨二病乙』がなければだが。
 カッ――と、陣の目が見開いた。
「フォアチャアアアァァァ!」
 中国四千年の歴史さながらの手刀が川をたたき割る!
 すると、その手はどぱぁんと水しぶきをあげて、アメゴなどの川魚を見事に捕らえていた。
「七枷さん。準備が出来たであります」
 陣の背後から、調理の準備を整えていた葛城 吹雪が声をかけた。
 こちらもなかなか独特というか個性的な出で立ちである。軍人というか、どこかのジャングルでたった一人サバイバルを駆使して生き残ってきた者の雰囲気を彷彿とさせる。しかしそれよりも、その調理の準備というのが常人なら度肝を抜かれるものである。恐らく森の中で仕留めてきたのであろう熊が生きたまま両手両足を吊されて逆さ吊りにされているし、その横には軍人の携帯食っぽい缶詰が山盛りにされていた。こいつはこの場所で一ヶ月は生き残るつもりか?
 が、それはともかく、
「七枷さん……?」
 自分は棚に上げて、吹雪は首をかしげる。
 なぜなら陣が、その手にピチピチと暴れる川魚を握り締めて、プルプルと震えていたからだった。
「コレじゃない……オレが求めてたんは……オレが求めてたんはコレじゃなーーーーーーーいっ!」
 陣は空に向かって虚しい心の内を吼え散らかした。
 浅瀬には山盛りになった川魚たちの姿。どうやら陣は、すでにこの一撃必殺を何度も繰り返していたらしい。
 すると、
「しょうがないですよ、陣さん」
 吹雪のところまで食材の入った袋を手にしてやって来た涼介・フォレストが、苦笑しながら言った。
「私たち契約者の身体能力は、常人のそれじゃ比較にならないんですから。魚採りぐらいは反射神経さえ良ければお手のもんです」
「ううっ……オレはこんな魚採り楽しくないぃ……」
 涙ぐむ陣。男のロマンは音を立てて崩れていった。
「ま、まあまあ、七枷さん。せっかく取った魚なんですから、そう言わないでくださいです。ほら、それにたくさん取れば、それだけ料理も豪華になるでありますよ!」
 吹雪は、ガッ――と気合いを入れて腕を振るいあげる。
 陣はようやく、
「まあ……そりゃそうやけどさぁ……って、あれ?」
 首を傾げながら、辺りをキョロキョロと見回した。
「どうしたんですか?」
 涼介がきょとんとして聞く。
「いや、そう言えば霜月のやつは?」
「ああ、霜月さんでしたら、なんでもパートナーさんを探しに――」
 ゴウッと風が巻き起こり、山の木々を揺らしたのはその時だった。
 キャンプ場の上空から舞い降りてきたのは、翼をはためかせる飛翼竜――深緑色の鱗をしたレッサーワイバーンの櫟である。
 そしてその背中に乗っていた赤嶺 霜月が、ふわっと地上に降り立った。
「すみません。遅くなりました」
「いいっていいって、別に急いでへんから。ところで、その目当てのパートナーは見つかったのか?」
「いや、それがどこにも……まあ、他のパートナーも探してくれてますから、じきに見つかるとは思いますけど」
 連れの迷惑を恥じるように、霜月は苦笑した。
 それを誤魔化そうとするわけではないが――
「ところで、そろそろテント張っておきますか?」
 彼はまだ組み立てられていないテントを見ながら、皆に向かって訊ねた。
「あ、マジ? そりゃあ、助かるなぁ。じゃあ頼んだわ!」
 陣はにこやかに笑顔を浮かべて、霜月にテントを任せる。別にキャンプ仲間の間で彼がリーダーと決まっているわけではないが、その快活なところから自然とみんなを纏めるような役目を買って出ていた。
「じゃ、こっちはカレーの準備でもしておきましょうか。特製のフレンチトーストも用意しておきますので、お楽しみに」
「任せたで~、涼介! 盛大にBBQっちゃおうじゃないか!」
 そうと決まれば大量に材料を仕込むのはやぶさかではない。契約者の力を思う存分発揮してやろうではないか。
 先ほどの哀しみはケロっと忘れ去って、陣は魚採りに戻った。彼が放り投げる魚をさばくのは、吹雪だ。
 そして霜月はテントを組み立て始める。川辺で眠る櫟を横目にしてほほえましそうに笑った。
 すると。
「へっ……」
 キラン――と、森の茂みの奥が光ったのはその時だった。
「ごにゃ~ぽ~~~~っ!!」
「わああああぁぁぁ!」「どわああぁぁ!」
 霜月と涼介の後ろ――茂みから弾丸のごときスピードで飛び出してきたのは、一人の少女。
 青と白を基調としたメイドドレスにも似た服を身につけたその少女は、鳴神 裁だった。
 キャンプ場からどこに消えたのかと思っていたが、どうやら山の森の中で遊んでいたらしい。
 フリーランニングというやつだ。木々の間を跳びまわるのはもちろん、川に浮かんだ岩を跳びながら渡ったり、高所から飛び降りたり、とにかく止まることなく、山の頂上付近からずっと降下してきたようだった。
「アハハハーッ! ボクは風だーーーっ!」
「風だーじゃっなーっい! で、あります!」
 跳び回る裁の頭を、横から現れた吹雪が拳骨でたたき落とした。
「いったーいっ! 何すんだーっ!」
「キャンプは全隊員の参加が鉄則であります。裁さんも手伝ってもらうでありますよ……」
「エーーーー……」
「サバイバルを舐めるなであります」
 そもそもサバイバルではない! と、いうツッコミが出来るほどの余裕は裁にはなかった。
 なぜなら吹雪の詰め寄る勢いたるや、逆らうことを決して許さない気迫だったからである。
「ではさっそく、この熊から調理を……」
 シャキン――と、吹雪の手がサバイバルナイフを構えた。
「モゴッ、モゴモゴモゴモゴォオオォォ!(熊の声)」
 陣たちには熊の言葉は分からない。
 分からないが――大粒の涙を流すその姿は、生物の垣根を越えて彼らに救助を訴えてきていた。
「な、なあ、吹雪……こんだけ魚もあることやし、きょ、今日は熊はいいんじゃないかなー」
「む……そうですか?」
「うんうん、なあ、涼介」
「そ、そうですね。で、ですよね、裁さんっ?」
「へっ……あっ、ああ、うん、ボクもそう思うー!」
 さすがに涙を流してる熊を殺してまで食うことは出来ません。
 一同の一致団結による訴えに吹雪はしばらく腕を組んで頭を悩ませ、
「分かったであります。じゃあ、今日の夕食の熊調理は止めにするです」
(ほっ……よかった……)
「その代わり、保存食に……」
「やめーーーーいっ!」
 全員の声が揃って、決死の制止をかけた。