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クリスマスパーティーシナリオ

     

シナリオ名

聖なる夜を賑やかに      

参加者

担当マスター

  • 井上かおる
  • シナリオガイド

    『クリスマスパーティ開催! おひとり様もお二人様も、食べたい方も、食べられたい方も、みーんなどうぞ!』
    空京にあるカフェレストラン・ミエールにそんな紙が貼られました。
    ミエールの店主・エレンシアは、パーティのために様々な物を用意しています。
    「お客様がクリスマスにやりたいって事がなんでも出来るようにがんばらなきゃ」

    あなたはどんなクリスマスの夜を過ごしたいですか?

    リアクション本文

     クリスマスソングが街中に流れ、頬を上気させた恋人たちが寄り添い合って歩く中、葛城吹雪は一人浮かない顔をして、トボトボと歩いていた。
    「……クリスマスなんて」
     どす黒い怨念を背負いながら吹雪が歩くものの、人々の幸せオーラと赤と緑のクリスマス装飾の輝きに押され負けてしまう。
    「おまけにこんなものまで当たってしまったでありますし……」
     吹雪の手にはクリスマスパーティの招待券。
     空京にあるカフェレストラン・ミエールで行われるクリスマスパーティだ。
    「クリスマスなんてフキトベバイインダで……」
     ぶつぶつと吹雪が呟いていると、前の方で急にわあっと声が上がった。
    「子供の声?」
     不思議に思って吹雪が進んでみると、そこにはサンタ服を着た白黒逆転のパンダがいた。
    「それらしい格好を……うちを出たときからしたのが失敗だったかな」
     ちょっと困ったような表情を浮かべながら、熊猫福が群がる子供たちの相手をする。
    「サンタさんだー」
    「わーい、パンダサンタさんだー」
    「プレゼントちょうだいー」
    「……現実的な子もいるでありますね」
     遠目で様子を見ていた吹雪が思わず小声でツッコミを入れる。
    「プレゼントか~。あたい、食べるためにパーティへ行くつもりだったから、プレゼントとかそういうの何も持ってないんだよねえ」
    「そういうことなら私に任せなさい」
     颯爽と現れたのは美しい金の髪をしたサンタの女性セシル・フォークナーだった。
    「メリークリスマス! さあ、プレゼントよ」
     セシルはサンタらしい白い袋からプレゼントを取りだし、子供たちに渡して回った。
    「わぁい!」
     子供たちがうれしそうにそのプレゼントを受け取る。
     プレゼント配りをするセシルを見て、吹雪は感心したように言った。
    「よくそんなに用意していたでありますね」
    「海賊たるものどんな事態にでも対応できるように準備はしておくものよ」
    「準備でありますか?」
    「そう。準備。それに、機会があれば周りにちゃんと還元しないとね。私益と公益はいわば両輪のような物でね、バランスが大事なのよ。どちらが欠けても上手く行かないわ」
     セシルはクールに微笑むと、吹雪と福の前に立った。
    「あなたがたもカフェレストラン・ミエールのパーティ参加者かしら?」
    「はい」
    「うん」
    「それじゃ案内してあげるわ。行きましょう」
     金髪美女のサンタと、白黒逆転パンダのサンタと共にクリスマスパーティに向かう。
    (今年のクリスマスはなんだか異色であります……)
     そんなことを思いながら、2人についていく吹雪なのだった。



     その頃、カフェレストラン・ミエールの店主エレンシアはアルバイト希望の学生たちに囲まれていた。
    「恋人に素敵なクリスマスプレゼント買いたいのです。バイトさせて下さい。お願いします!」
     丁寧に頭を下げる小鳥遊美羽を、エレンシアは微笑ましそうに見つめる。
    「あらあら、そうですか。そちらの方も同じ理由で?」
    「いや~俺はちょっと調子に乗ってバイクに金注ぎ込み過ぎてな。バイト代をくださるならなんでもいたしますよ、店主様」
     柊恭也がちょっとあきらめたような表情でエレンシアに一礼する。
    「私もサンタ衣装を着て、お料理運んだり、お片付けしたり、がんばるよ!」
    「それならちょうどいい衣装がありますわ。えと、そちらのお嬢さんもサンタの衣装いりますか?」
    「え、い、いえいえ、私は、そんな」
     声が裏返りそうになりながら、水無月睡蓮が慌てて首を振る。
    「私は、その、事務所の方で照明とか小道具の管理とかイルミネーションの演出とか、そんなことをさせて頂けたらと……」
    「イルミネーションですか?」
    「あ、いえ、その、そういう企画はないって事でしたら、他の裏方をなんでもいたしますので……」
     段々と睡蓮の声が小さくなっていく。
     そんな彼女を見て、エレンシアは小さく笑った。
    「いえいえ、やってくださる方がいるなら、そういうこともしてみたいですわ。それではお願いできるかしら」
    「は、はい」
     エレンシアの言葉を聞いて、睡蓮はほっとした笑顔を浮かべたのだった。



    「ここ、ですよね」
     沢渡真言はカフェレストラン・ミエールの看板を何度も確認し、お店のドアノブに手をかけた。
    「あ……」
     真言と同時にドアノブに手を添えようとした人がいて、真言はその手の主を見た。
     赤いコートにサングラス。
     その姿は見間違えようがない。
    「レン・オズワルド……さん」
     先輩、というべきか悩みに悩んで、真言はレンをそう呼んだ。
     レンの方も真言の名を知っていたし、その容姿なども知っていた。
    「これは……クリスマスの小さな奇跡かな?」
     ふっと笑うレンに真言の緊張もほぐれ、2人は一緒に店内に入った。



     クリスマスパーティが始まった。
     福は並べられた料理の数々に目を輝かせた。
    「これよ、これ! あたいが望んでいたのはこれだわ~」
     福はうれしそうに食べ物を頬張る。
     ターキーにローストビーフ、サーモンのカナッペにピザにサラダに……それらを福は端からドンドン食べていく。
    「まぁ、美味しくはありますね」
     吹雪もその隣でもぐもぐとお料理を食べる。
    「欲しい料理の追加とかあったら言ってくれ……じゃなかった言ってくださいだぞ」
     慣れない言葉を使って、なんだか言葉遣いがおかしくなる恭也。
     しかし、その聞き覚えのある声に吹雪は振り返った。
    「あれ?」
    「おや?」
     恭也と吹雪は顔を見合わせる。
     自分の仲間にこんなところで会うとは思わなかったからだ。
    「バイト……でありますか?」
     吹雪の質問に恭也は眉根を寄せる。
    「俺だってまさかクリスマスにバイトする羽目になるとか想定外だよチクショウが」
     思わず普段通りの言葉が出てしまって、恭也が自分の手で自分の口を塞ぐ。
    「今はバイトの身だからちゃんとしてないといけないんでね。それじゃあな」
     恭也が手をふって去っていく。
    「バイトとは大変でありますね」
     吹雪が呟きながら周りを見ると、もう1人バイトの子がいた。
     こちらは恭也とは正反対ににこやかな笑顔で、お客様を元気におもてなししている。
    「お飲み物ものどうぞー! こちらはクリスマス特別ドリンクです!」
     美しい脚線美を惜しげもなく披露する超ミニスカサンタ衣装で、美羽はお料理を運んだり、お客様からのご要望を伺ったりしていた。
     同じくサンタ衣装を着たセシルが客たちにプレゼントを配っていく。
    「どうぞ、メリークリスマス」
     そんな美羽とセシルの姿を見て、店主のエレンシアは楽しそうに笑った。
    「可愛いサンタさんと美人のサンタさんのおかげでパーティ会場がとても華やかね」
    「そうですね……って、あ、いつの間に!」
     いきなり現れた店主に睡蓮はオロオロする。
     事務所には自分だけだと思って、モニターを眺めていたからだ。
     すると、エレンシアはそんな睡蓮をくすくす笑って見ながら、睡蓮にケーキと紅茶の乗ったトレイを差し出した。
    「せっかくのクリスマスなのにケーキもないんじゃと思って……お料理も少しずつ持ってきたから食べてくださいな」
    「あ……お気遣い、ありがとうございます」
     ちょこんと頭を下げて、睡蓮がケーキと紅茶を受け取る。
    「でも、いいんですか? こんな裏方で……」
     少し心配そうなエレンシアに睡蓮は笑って見せた。
    「はい、その、私、あまり社交的な方ではないですし……知り合いもいない中でパーティは少し辛いので……事務所にいさせて頂く方がありがたいです」
     それは遠慮しての言葉ではないので、睡蓮は心から笑顔を浮かべる。
    「そう、それなら良かったです」
     ホッとした笑顔を浮かべながら、エレンシアは睡蓮と一緒にモニターを見た。
    「みなさん楽しそうで良かったですね。あら……新しいお客さんみたいですよ?」
     睡蓮が見つけたのは、銀髪の男だった。
    「あら、本当。新しいお客さんですね。ちょっと行ってきますね」
     エレンシアは睡蓮に後を任せ、店へと戻った。



    「いらっしゃいませ」
     声をかけられ、佐々木八雲が振り向くと、そこには穏やかな笑顔の店主がいた。
    「いまからでも入れますか?」
    「はい、飛び入り歓迎いたしますわ」
    「ありがとう、連れが後からくるので」
     八雲はカウンター席に二人分の席を頼み、店内のクリスマスパーティの様子を見た。
    「賑やかですね」
    「はい、クリスマスですもの」
    「そうですか、空京の街もとても賑やかでしたよ」
     エレンシアに答えながら、八雲は遠い目をした。
    「そういえば今日はあいつの誕生日だったな」
     亡き友にして最愛の人であった仲間を思い出し、八雲は呟く。
     誕生日を忘れたことなど一度もない。
     ただ、わざと、そんな呟きをしてみたかったのだ。
    「僕はウォッカマティーニ。それと、連れはホワイトルシアンで。僕のは振ってくれますか」
    「はい、かしこまりました」
     八雲の要望に応えて、エレンシアはシェイクを始める。
     注文の品が出てくると、八雲は【精神感応】で答えない相手に語りかけた。
    『君はこのお酒がすきだったよね』
     答えは、ない。
     この酒も飲まれることはなく、待ち人が来ることもないだろう。
     しかし、それでも良かった。
     思い出のあいつを思い出しながら、クリスマスの夜を楽しく過ごしたかっただけだから。
    「……ギターはありますか?」
     お酒を飲み干した八雲が問いかけると、エレンシアが店の奥から探してきてくれた。
    「すみません、ちょっと弦がおかしいかもですが……」
    「大丈夫ですよ」
     音は【アスコンドリア】が頑張りますし、と心の中で思いながら、八雲はギターを受け取った。
     ちょっとほろ酔い気味の態度を取りながら、ギターをつまびく。
    「じゃ、一曲」
     八雲の音楽に合わせて、事務所にいた睡蓮が光の演出を始めた。
     たくさんの照明を動かすのは大変だったが、【テクノパシー】でなんとかやってのける。
     八雲が弾き始めると、その音に気付いた真言とレンが会話を中断した。
    「不思議な音ですね……」
    「そうだな」
     そう答えながらもレンはチェスボードの上から目を離さない。
     一緒にこのパーティ会場に入った二人は、話している内にチェス勝負をしようということになり、食事やデザートを楽しんだ後、チェス盤を囲むこととなったのだ。
     レンの駒が黒、真言の駒が白である。
    「クリスマスの夜に可愛らしい後輩にお相手してもらえて光栄だが……」
    「あ、はい」
    「せっかくの勝負だ。チェスに負けた方は惚れてる相手のことを話すことってのはどうだ?」
    「え!」
     真言が慌てて、チェスボードに目を向ける。
     勝負はまだ本当に始まったばかり。
     慌てる真言を見て、レンは薄く笑った。
    「本当は勝負前に提案しようと思ったんだが、機を逸してな。でも、勝負事なのだし、賭の一つもないと盛り上がらないだろう?」
    「そ、そういうものでしょうか……」
    「得意なんだろ、チェス」
     レンの言葉を聞き、真言は腹を決めた。
    「わかりました。本気で楽しく遊びましょう」
     真言のその言葉に、レンはうれしそうに言った。
    「いいね、その言葉。それじゃこちらも真剣勝負といこうか」
    「はい、お互いに絶対に負けられない戦いですものね」
    「一応確認しておくが、惚れてる相手だからな。LIKEではなくLOVEでの話だぞ」
     レンに確認され、真言はドキッとする。
     分かってはいたのだけど、そう言われると、緊張してしまいそうになる。
    「わかりました。チェスは結構得意な方ですから、負けませんよ」
     真言は真剣にチェスボードを見つめ、レンはそんな真言を微笑ましそうに見ながら、頭の中で展開の計算を始めた。



     クリスマスパーティもクライマックスに向かっていた。
     部屋の照明が落とされて、クリスマスツリーがキラキラ輝き、大きなクリスマスケーキがカットされて全員に配られた。
    「ふぅ、満足満足~」
     福がおなかを撫でながら幸せそうな笑顔を浮かべた。
    「まぁ、おいしかったであります」
     吹雪もそれなりに満足したらしく、ふぅと一息ついた。
     パーティがお開きになりそうなのを察し、八雲もカウンターから立ち上がった。
    「今日は振られたみたいですね。でも、おかげで楽しかったですよ」
     参加者のみんなにお礼を言い、八雲は一足先に帰ることにした。
     外に出ると、雪がちらつき始めていて、八雲は【精神感応】でこう送った。
    『ハッピーバースデー。また、来年』
     大切な人がこの世界に生まれてくれたことを、八雲はいつまでも感謝することだろう。
     一方、レンと真言の勝負は……。
    「…………」
     ボードの上を何度も見るが、もう手はない。
    「私の負けです」
     潔く真言が認め、勝負はレンの勝ちとなった。
    「俺との勝負が初めてというのもあっただろうが、何よりも動揺だな」
    「動揺ですか?」
    「打ち手の迷いは盤上に出る。迷っているつもりはなくても、LOVEの相手を語るのにどこか心の揺れがあったんじゃないか?」
     そう指摘されて、真言の頬がほのかに赤く染まる。
    「え、ええと……」
     最初は自分のご主人様の話でもしようかと思っていた真言だったが、LIKEではなくLOVEでの話だぞと念を押され、動揺したのかもしれない。
    「さて、それでは聞こうか」
     エレンシアに酒を注文し、ゆっくりとそれを飲みながら、レンが真言の言葉を待つ。
     真言は覚悟を決めたように口を開いた。
    「上手く言えませんけど……」
     そう前置きしてから、真言はもう一度、レンに確認した。
    「惚れてる相手のことを話す……でいいんですよね?」
    「ああ」
     短く答えて、レンが先を促す。
    「こういうのは上手くなんて言えないもんだ。だから思いつくままでいい」
     そう言ってもらい、気が楽になったのか、真言は心のままに想いを語った。
    「普段はとてもだらしなくてやる気のない人なんですが、けれど、いつも私が困っている時には側にいてくれるんです」
    「なるほど、好きなのはそういうタイプか」
    「いえ、好きなのかといわれると、嫌いじゃないという感じで……」
     ごく控えめな表現で話す真言に、レンは少し微笑む。
    「でも、その人がある日ふといなくなってしまう日が来るのかなって考えると、まったく想像出来なくて……」
    「想像できない?」
    「おかしな話ですが、彼はきっとずっと側にいてくれると勝手に思ってるんです。他のパートナー達はそんなことないと思うんですがね、どうしてか、彼だけは」
     右手のイヤリングをそっと手で触れさせながら、真言は恥ずかしそうにレンを見た。
    「名前は……ここまで来たら言うべきですよね。では、恥ずかしいので耳元で……」
     真言が小声でレンに想い人の名を告げる。
     その名を告げるときは、聞くレンよりも話す真言の方が100倍緊張していたかもしれない。
    「ここまで聞いたのなら、俺の方も話さないといけないな」
     そうしないとフェアじゃないというように、勝ったにもかかわらず、レンは自分の想いを話した。
     それは空翔る義賊の女性の話。
     彼女と過ごす時間がいかに心躍るものか、それを語るレンの口調は楽しげで、真言はレンの彼女に対する想い感じた。
     まだまだ自分の気持ちに素直になれない真言とは違い、何度も口にしてきているレンは、聞く真言が恥ずかしいほどにハッキリと想い人の話をしたのだった。
     こちらは片思いではなく、晴れてパートナーと恋人になった美羽は、お店の後片付けもあらかた済み、その恋人にメールをしていた。
    「もうすぐバイト終わるよ」
     送信画面を見ながら、バイト代をもらったらまだ開いてるお店に急いで入ってプレゼントを買って、と思いをめぐらす。
     パーティの後片付けが済むと、店主エレンシアがバイトのみんなにバイト代と小さなプレゼントの箱を配った。
    「はい、今日はお疲れさま。それからこれはサンタさんからよ」
    「サンタさん……ですか?」
     睡蓮が不思議そうにプレゼントを受け取る。
    「そう、金髪の綺麗なサンタさんからね」
     ふふっと笑いながら、エレンシアはバイト代とプレゼントを渡した。
    「今日はどうもありがとう。楽しいクリスマスでした」
     エレンシアのその言葉でカフェレストラン・ミエールのクリスマスパーティは幕を閉じたのだった。