「男女ペアじゃないと参加できないんじゃなかったのか……?」
アイリス・ブルーエアリアルは、パーティに招待し主催者でもある如月和馬を軽く睨む。
契約の泉のステージ前に設けたクリスマスダンスパーティ会場にはカップルも大勢いたが、同性同士のグループも多くいた。
「まあそう言うなって。クリスマスくらいパーッと遊ぼうぜ」
和馬ののん気な笑顔に、アイリスも毒気が抜かれたように息を吐いた。
「もう一つこのパーティに意味があるとすれば、恐竜騎士団のイメージアップだな。恐竜騎士団は粗野で乱暴者が多いだろ。
そこで、校長のあんたが華麗にダンスの一つも披露すれば、騎士団への印象も少しは変わると思わねぇか?」
「周囲への信用を得るために中隊長の君と踊れと?」
「団員でほかにダンスできそうな奴がいなくてね」
「そう……」
アイリスは、この前の若葉分校との合同学園祭で恥ずかしい抱えられ方で出場したレースのことを忘れていなかった。
「疑り深いな。じゃあこうしよう。オレとアイリスで曲に合わせて剣劇をやる。こっちのほうが騎士団ぽいかもな?」
「あくまで騎士団のためと言うんだな? まあ、いいだろう。では、次の曲から始めようか」
アイリスは腰の剣をカチャリと鳴らした。
穏やかな旋律の時は、くるくるとお互いの立ち位置を変えて軽やかに舞い、躍動感あふれる旋律の時は、剣を打ち合い観る者がハッとするような気迫を見せる。
いつの間にか、会場で踊っているのは二人だけになっていた。
曲がクライマックスに差し掛かった頃、そろそろかと和馬は静かに魔法の発動の準備をする。
「アイリス、オレとのダンスは楽しいか? 正直な気持ちを聞かせてくれ」
「思ったよりは楽しいな。悪くない」
鋭い音を立てて鍔迫り合いになりながら微笑むアイリス。
「そうか。そう言ってくれるならオレも嬉しい。だから、この嬉しさを返そうと思う」
「……は?」
「受け取ってくれるよな? オレの想いを」
突如、和馬の体は輝くオーラに包まれた。
目を丸くするアイリスへ、和馬はいつにないあたたかな笑みを向けた。
「愛してる──!」
和馬のアイリスへの愛のオーラは爆発し、会場はまばゆい光でいっぱいになった。
ある意味燃え尽きた和馬が、アイリスの前に膝を着いている。
まるで、忠誠を誓うように。
だが実際は、和馬がシャイニングラブの反動でうずくまっているだけだ。
よく見ればアイリスの髪はところどころ絡まり、ダンスパーティと聞いて整えてきた服もほつれた箇所がある。
パーティ会場にいた人々は、シャイニングラブに吹き飛ばされていた。
「君って人は……」
続く言葉が多すぎて、アイリスはすべての思いを込めたため息を吐く。
「まあ、今までにないクリスマスだったよ。いろんな意味で忘れられないな。……みんないなくなったし、パーティはお開きだな。今日は招待してくれてありがとう」
アイリスは招待客として主催者の和馬に礼をすると、静かに立ち去った。
「そうか、忘れられないクリスマスか……」
告白はうまくいかなかったが、和馬の口元にどこか満足げな笑みが広がった。