『2人だけの甘い夢』
ツァンダの一画に存在する御神楽邸のリビングに、御神楽陽太の手作りの料理が並べられていた。
今日のこの部屋は、陽太と妻の御神楽環菜だけのクリスマスパーティーの会場だ。
部屋とツリーは、ゴールドを中心としたオーナメントで飾れており、大人びていて上品で派手すぎず、それでいてとても美しい空間に仕上がっていた。
テーブルの上に並べられた沢山の料理は、もう殆どなくなっている。
「なんだか、大食漢になったみたいで、恥ずかしい」
ソファーに持たれて、お腹に手を当てながら環菜は少し恥ずかしげな笑みを見せた。
今年の料理は去年よりも種類も量も多かった。
ローストビーフに、パラミタローストターキー。サーモンマリネにポテトサラダ、そしてミネストローネ。
いずれも環菜好みの味付けだったこともあって、はしたないと思うほどに、食が進んでしまった。
ケーキはフルーツたっぷりのタルトと、レアチーズケーキ。両方環菜のリクエストで、陽太が手作りしたものだ。
シャンパンの代わりに用意したスパークリングジュースも、濃厚でとても美味しかった。
「去年の2倍くらい食べてくれましたね。とても嬉しいです。お腹の子の分も食べたのですよね」
食後もワインではなく、妊娠中の今年は最高級のノンカフェインのお茶を環菜に淹れてあげる。
「そういうことにしておくわ」
陽太が淹れてくれたお茶を受け取ると、ワインを楽しむ時のように香りを楽しんでから一口飲んで、環菜はほっと吐息をもらした。
「……料理、とても美味しかったわ」
照れているのか、環菜は陽太の顔を見ずに、自分のお腹に目を向けた。
「来年は、この子も一緒ね。……しばらくは2人でゆっくりする時間、なくなるわね」
「慌ただしく輝かしい日々になりそうですね」
「ええ」
環菜のお腹の中には、陽太と環菜の愛の結晶が居る。
お腹の子は早ければ来月末。遅くても2月中には2人に顔を見せてくれるはずだ。
「こうしてよく抱きしめてるの」
環菜は両腕を自分のお腹に回して、包み込んだ。
「あなたも抱きしめてあげて。……私ごとでいいわ」
「はい、喜んで」
陽太は持っていたティーカップをテーブルに置くと、両手を広げて環菜へと回して、愛しい2つの命を抱きしめた。
「……あ、大人しくなったわ。あなたの抱擁、心地いいみたい」
環菜は片手で自らのお腹を撫でた。
陽太も右手で環菜のお腹を触らせてもらう。
「そうでもないですよ、活発に動いています」
生命の鼓動を感じ、陽太はとても感動していく。
「普段はもっと凄いのよ。この子――私は優しいママにはなれないし、パパっ子になるでしょうね」
環菜はお腹を撫で続けながら言う。
「あなたはとっても可愛がって、積極的に育児をしてくれるでしょうし。そしたら、私は仕事に集中できるわね」
その言葉は少し素っ気なく。ほんの少しだけ寂しげとも感じられた。
環菜も陽太も、お腹の子の誕生を心待ちにしている。
生まれる前から、深く愛していた。
だけど環菜は少し、陽太の愛を取られるとも感じているのかもしれない。
「環菜と2人で幸せな家庭を作ることが、俺の夢でした」
陽太はお腹に触れていた手を、環菜の頬に移した。
そして、自分の方を向けさせて彼女の赤い瞳を見つめる。
「それは今も変わりません。環菜と2人で作っていきたいです。……作っていきます」
陽太が微笑むと、環菜の表情が穏やかになった。
そっと引き寄せると、彼女は目を閉じた。
「愛しています、環菜」
環菜の柔らかな唇に、陽太は自らの唇を重ねて。
夢を見た。
環菜と過ごしていく、未来を。
2人で作り出す、家庭を。
縁側で並んで座って、子供達を見守る遠い遠い将来の姿を。
いつも、いつでも自分は環菜と一緒だ。
「ん……っ」
環菜の腕が、陽太の首に頭に回された。
次第に、口づけは情熱的に。深く熱くなっていき。
陽太と環菜は、2人だけの甘い夢に夢中になっていく。