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バレンタインミニノベル2011

イラスト:小菅久実 / ノベル:灰島懐音

 バレンタイデーに、女子がチョコを渡したら。
 ホワイトデーに、3倍返し。
「必須よねぇ」
 にんまり笑んで、ヴィアスは高級チョコレートを購入した。
 ラッピングは金塊を思わせる色の包装紙に、金糸で縁取りされたクロームオレンジのリボン。中身が可愛く高級そうなものを選んだが、外見も良い。
 満足して帰路に着き、家に帰るなり、
白菊ー」
 渡す相手の名前を呼んだ。
「……何?」
 部屋の隅、床に直接座り絵を描いていた珂慧がそれに応える。ヴ ィアスはちょこちょこと珂慧に寄り添い、
「これあげる」
 箱を渡した。
 珂慧の顔が、少し明るくなった。チョコレートの有名店なので、外装から中身が何かを察したらしい。
 ――白菊はチョコ好きだもんねぇ。
 内心くすくす、笑んでから。
「この場で開けて」
 お願い、というより命令のような口調で言う。珂慧が、言われるままにラッピングを解く。素直なのは、チョコを渡したから かしら、なんて邪推。
 包装が解かれて、箱が開かれる。5×5、25個の様々な形をしたチョコが並んでいるのを見て、珂慧の目が輝いた。いつも通り の無表情だけれど、そういう所は変わるのだなと新発見。
 珂慧がチョコに手を伸ばす前に、ヴィアスがチョコに手を伸 ばした。
「?」
 狙い通り疑問符を浮かべるところが可愛らしい。
 ベーシックなトリュフを摘んで、
「はい、あーん」
 にっこり笑顔でそう言った。
「……やだ」
 ふるふると首を横に振り、珂慧が後ずさり……しようとして、すぐ壁にぶつかった。
「隅っこ好きが災いしたわねぇ?」
 獲物を狩る肉食獣さながらの雰囲気と、満面の笑みでヴィアスが言うと。
「っ」
 珂慧は猫を彷彿とさせる俊敏な身のこなしでヴィアスの横を 通り抜けた。もちろん黙って通すわけもなく、
「やん。逃げちゃ駄目」
 ズボンの裾を掴んで引いた。バランスを崩して珂慧が床に這う。
「ほら、あーん」
 ヴィアスも床に這って……というより、珂慧に迫るような体 勢で擦り寄って。
 ほらほら、とチョコを口に近付けた。
 それでも口を開かないので、少し焦れる。
「くすぐるわよぅ?」
「……」
 ちょっとした脅しにも屈しないし。
「ほらほらー」
 チョコを鼻先に近付けて、甘い香りを堪能させても揺らがないとは。
「……やるじゃないの」
 ――でも引き下がってあげないわよぅ。
 なぜなら、ヴィアスの手ずからチョコを食べる珂慧が見たい から。
「ほらほらお姉ちゃんの言うこと聞きなさぁーい」
「…………」
 誰がお姉ちゃんだ、とでも言いたそうな目で見られた上に、ものすごい勢いで首を横に振られた。
 ……そんなに嫌か。
「そこまで拒絶されると、俄然やる気がでるっていうか、ねぇ?」
 なので、にっこり微笑んだ。
 やる気はMAX。
 時刻はまだ昼下がり。
 今日は、14日は、まだまだ終わらない。
 何ラウンドだろうがやってみせよう。
 珂慧が口を開くまで。