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バレンタインミニノベル2011

イラスト:更科 雫 / ノベル:灰島懐音

  マクスウェルは、偏食だ。
  食べられるものは、栄養食といったごく決まったものだけ。
  椿はそれを知っている。
  知っているけど、だって今日は2月14日。
  大切な人にチョコを渡したい。
  そして、食べてもらいたい。
  けれど、繰り返すが、マクスウェルは偏食なのだ。
  ――どうすれば食べてもらえるでしょうか……。
  キッチンの椅子に座り、膝の上にチョコレート菓子の本を乗せ、ページを1枚ずつめくっていく。これだ! と思うようなお菓子には出会えない。
  お菓子作りに必要そうな道具も揃えたし、チョコだって買って準備は万端なのに、手詰まりになってしまった。
  一旦本を閉じる。気分転換をしよう。散歩が良い。
  コートを羽織って外に出て、大通りを歩き、ふと目に着いた雑貨屋さんに入る。
  店内に並ぶ、ラッピングが施されたチョコの箱。そういったものを見るたびに、椿の頭にはマクスウェルの顔が浮かんだ。
  ――渡したいな。
  ――受け取って、喜んでもらいたい。
  ――それからやっぱり……食べてもらいたい、な。
  何の気なしに店を見て歩いていると、バレンタインフェアとは関係ない棚に行きあたった。
 「……っ!」
  そしてそこで、椿は衝撃を受けた。
  手のひらサイズのひよこのぬいぐるみ。つぶらな瞳、ちょんと突き出した口、ひよこの割に立派なとさか。
 「こ……これですっ!」
  なぜか。
  なぜか、そう思った。
  これしかないと。
  ノーマルなひよこ三体と、薄紫の布地で出来た、文字通り毛色の違う一体をレジへと持って行ってお持ち帰りし。
  椿は、ひよこ型のチョコを作ろうと家路を急いだ。
  とはいえ、ひよこの型なんて売っていないから。
  型作りからやることになって、四苦八苦。
  それでも完成したひよこ型チョコは、大きさも見た目も満足いくもので。
  ――こんなに可愛いんだから、受け取ってくれるはずです。
  自信もあった。口元に笑みが浮かぶ。
  マクスウェルはどこに居るだろうか。
  探しに行こうとしてキッチンから出ると、
 「「あ」」
  ばったり、遭遇。
 「椿
 「ウェルさん。……あの、あのっ」
  上手い言葉が出てこなくて、椿はお皿に乗せたひよこ型チョコをすいっと差し出した。
  偏食を治したいという気持ちも勿論だけど、それよりも自分の気持ちを伝えたくて。
  長い間使い手が見つからなかった自分を見つけてくれたことへの、感謝の気持ち。他にもいろいろな気持ち。
  それに、喜ぶ顔が見たくて。
  緊張しながら、マクスウェルを見た。
  マクスウェルはふっと薄く笑っていて、
 「なんでひよこ型なんだ?」
  椿の考えることは突拍子もないな。
  そう言って、皿を受け取った。
  その時の瞳の色が、すごく優しかったから。
  ――良かった、喜んでくれた。
  椿の顔も、自然と綻んだ。