思い出すのは初めてティセラを見た時のこと。
ツァンダ家当主の娘、ミルザム・ツァンダが『女王候補宣言』を行った際の式典場に乗り込む姿。自らも女王になり、シャン バラを軍事国家にすると言ってクイーンヴァンガードを一人で壊滅状態に追い込んだ時のこと。
それから、星剣という光条兵器の上位にあたる強化光条兵器を持っていたから、剣の花嫁と視線を合わせることで、剣の花嫁の体内に眠っている光条兵器にアクセスしてハッキングすること もできた。
その結果、一時的に洗脳して操ることが可能になり、多くの剣の花嫁を同志討ちさせた。
加えて、浮遊要塞マ・メール・ロアを持ち出して武力による威圧。
「……うん、怖い人と思っても仕方ないわよね」
リーブラがティセラに抱いた感情は、『怖くて、ひどいこと をする人』。
でも、それはティセラがエリュシオン帝国に洗脳されている時に行ったことで。
本当の彼女は、強く気高く優しい人。
自らの犯した罪を償おうと、しっかり前を見て、努力することができる人。
良かった、と。
心から、そう思う。
本当はそういう人じゃなくてよかった、と、
そんな想いを込めて、リーブラはチョコを作る。
チョコを溶かして、温度をしっかり計って、型に入れて冷まして。
ピンクの箱に入れて、金のリボンを結び、その目を隠すようにブルーローズを飾ってメッセージカードを添えて。
「よし、完成」
ティセラはもう呼び出してある。
あとは渡すだけ。
――女の子が女の子にチョコを贈ってもいいわよね? パラミタだもの。
心の中でそう呟いて、ふわふわと落ち着かない心を深呼吸で宥めて。
歩いて来た彼女に、チョコを差し出す。
「? どうしましたの、突然」
「今日はね、感謝している人にチョコを贈る日なのよ」
「ああ! バレンタインですわね?」
「そう」
受け取ってもらえなかったらどうしよう。そんな悩みは一瞬。
笑って受け取ってもらえて、こっちまで嬉しくなる。
――私はあなたの偽物かもしれない。
――だけど、あなたの偽物なら。
――それでも、いい。
そう思わせてくれたあなたへ。
大切なあなたへ。
「あなたが、あなたのような方で本当によかった」
リーブラは、微笑みかける。