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バレンタインミニノベル2011

イラスト:MZY / ノベル:灰島懐音

 ユーフォリアへ渡す為のケーキ作りも無事終えて、いざ渡そうとするこの瞬間、無性に緊張してしまうもので。
「……やべえ。喜んでもらえなかったらどうしよう」
 フェイミィはマイナスな思考に溺れてしまう。
 そのたびに、大丈夫味は良いいっぱい練習したんだから、と自らを奮起させる言葉を紡ぐが、その甲斐もなく微妙に指先が震えていた。
 ――かっこわりー。
 ――でも、渡すからな。
 それだけ決めて、ユーフォリアの許へと一歩踏み出した。
「ユーフォリア、様っ!」
 気張ってしまって声が上ずる。それを恥ずかしく思ったけれど、振り返って「どうしましたか?」と微笑むユーフォリアを見たら吹き飛んだ。
 温厚で優しい性格が、外見からあふれ出ている淑女。
 とても綺麗で、理想で、憧れの人。
「あ、えぇと……そのっ、」
 彼女を前にしたら、上手く言葉が出てこなくて。
 必死で投げる言葉を探した。
「?」
 ――きょとんとした目も可愛いなあ。首傾げるなよー、あー首筋白いな綺麗だな。食べちゃいたいな。すべすべしてそう。
 そんな煩悩も混じる頭をフル回転。
「これっ、受け取っていただけますか!」
 なんとか出て来た言葉は、当たり障りの無いもので。
 それだけかよオレそれだけじゃねーだろオレ、と叱責しながら続く言葉を口にする。
「カナンの事とか、ペガサスの件とか……世話になりまくりなもんで。せめてものお礼っつーか、なんつーか……」
 だけど上手く続いてくれなくて、尻すぼみになっていく。
 ――あーかっこわりー、本当かっこわりー。
 頬が熱いことを感じ、顔も真っ赤なんだろうなと余計に恥ずかしくなった。
 それでも渡したいから、後退せずにケーキを入れた箱を差し出した姿勢で止まっている。
 箱を持つフェイミィの手に、ひんやりとした、けれど確かに熱を持った指先が触れた。
「手作りですか?」
「え、なんでそれを」
「指先にチョコが付いていますし」
 くすくす、笑われた。きちんと手は洗ったのに。恥ずかしくてそっぽを向いたら、
「ありがとう」
 柔らかな声で、そう言われた。
 お礼? いや、お礼を言いたいのはこっちの方で。だからケーキを作ったわけで。
「わたくしを想って、作ってくださったのでしょう? 美味しく頂きますね」
「っ、はい! そりゃもう、ユーフォリア様を想いまくりで作りました! 気持ちばっちりこもってます!」
「ふふ。嬉しいです」
 本当に嬉しそうに笑ってくれるから、さっきとは違った意味で頬が熱い。
「こ……これからも宜しくお願いします!」
 90度直角になるくらい、ぺこんと頭を下げて一礼。
「はい。こちらこそ」
 そんな体勢だったから、そう答えたユーフォリアの顔は見えなかったけど。
 声音からして、きっと微笑んでいてくれたに違いない。