円とパッフェルは、公園のベンチに寄り添って座っていた。
渡すことのできた、チョコレート。
やっと伝え合えた、好きという気持ち。
――離れたくないな。
空は暗く、もう帰らないといけない時間だけど。
――離れたくない。
別れを考えると、胸がきゅっと痛くなる。
ツァンダとヴァイシャリーの距離は遠い。
いつ会えるのかもわからない。
だから離れたくない。
それは、わがまま?
キミを辛くさせてしまう、ボクのわがまま?
「ちょ、ちょっと。円?」
不意に名前を呼ばれてはっとした。頬が冷たい。どうして、と手を当てた。涙。ああ、そっか。別れるのが嫌で、泣いているのか。
「どうしたの? おなかいたい?」
ふるふると首を横に振る。
――訊かれても、言えないよ。
だって、言ったら迷惑になるじゃないか。
ボクのわがままなんだから。
だけど、抱き締めさせてね。
頑張って我慢するから。
わがままは言わないから。
きゅっと抱きつき、
「パッフェル」
名前を呼んだ。顔は上げない。涙でぐしゃぐしゃの顔なんてみっともない。
「うん?」
「またすぐ会えるよね?」
確かめるように小さく呟く。
これくらいなら迷惑じゃないかな。
そんな風に思いながら。
「うん、すぐに会えるわ」
その言葉は、本当?
バレンタインから数日経った。パッフェルから連絡は、ない。
円はぼんやりと、窓の外を眺めていた。授業に身が入らなかった。どんな言葉も右から左に流れて行く。
「今日は転校生の紹介があります」
そんな言葉が、聞こえたような。
関係無いけれど。
ぼーっと、ただぼーっと外を見ていたら、
「こーら」
ぽこ、と頭を叩かれた。
何、と顔を向けると、
「……っ」
「先生の話はちゃんと聞かなきゃだめでしょ?」
「パッフェル!」
百合園女学院の制服を着たパッフェルが立っていて。
夢? 現実? 頭がくらくら、する。
「なんで、どうして」
混乱して言葉も上手く出てこない。もどかしく思いながらパッフェルを見上げると、彼女は悪戯っぽく笑った。
「円は私の目を見ても驚かないで、ありのままの私を受け入れてくれた」
パッフェルがそっと、眼帯の上から右目を撫でる。
「そんな円の傍に居たい。……なんて言うのはただのわがままだから、行動してみたの」
「て……転校?」
「驚いた?」
「驚いたよ、もう!」
わがままは我慢、とか。
背伸びしていたのが馬鹿みたいじゃないか。
ぽろり、零れた涙は頬を冷たく濡らすものではなくって。
その雫を拭うように頬に宛てられたパッフェルの手も、とても温かくて。
「ボクはしあわせだ」
思わずそう言って、笑った。