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バレンタインミニノベル2011

イラスト:pondel / ノベル:灰島懐音

 パッフェルは、公園のベンチに寄り添って座っていた。
 渡すことのできた、チョコレート。
 やっと伝え合えた、好きという気持ち。
 ――離れたくないな。
 空は暗く、もう帰らないといけない時間だけど。
 ――離れたくない。
 別れを考えると、胸がきゅっと痛くなる。
 ツァンダとヴァイシャリーの距離は遠い。
 いつ会えるのかもわからない。
 だから離れたくない。
 それは、わがまま?
 キミを辛くさせてしまう、ボクのわがまま?
「ちょ、ちょっと。?」
 不意に名前を呼ばれてはっとした。頬が冷たい。どうして、と手を当てた。涙。ああ、そっか。別れるのが嫌で、泣いているのか。
「どうしたの? おなかいたい?」
 ふるふると首を横に振る。
 ――訊かれても、言えないよ。
 だって、言ったら迷惑になるじゃないか。
 ボクのわがままなんだから。
 だけど、抱き締めさせてね。
 頑張って我慢するから。
 わがままは言わないから。
 きゅっと抱きつき、
パッフェル
 名前を呼んだ。顔は上げない。涙でぐしゃぐしゃの顔なんてみっともない。
「うん?」
「またすぐ会えるよね?」
 確かめるように小さく呟く。
 これくらいなら迷惑じゃないかな。
 そんな風に思いながら。
「うん、すぐに会えるわ」
 その言葉は、本当?

 バレンタインから数日経った。パッフェルから連絡は、ない。
 はぼんやりと、窓の外を眺めていた。授業に身が入らなかった。どんな言葉も右から左に流れて行く。
「今日は転校生の紹介があります」
 そんな言葉が、聞こえたような。
 関係無いけれど。
 ぼーっと、ただぼーっと外を見ていたら、
「こーら」
 ぽこ、と頭を叩かれた。
 何、と顔を向けると、
「……っ」
「先生の話はちゃんと聞かなきゃだめでしょ?」
パッフェル!」
 百合園女学院の制服を着たパッフェルが立っていて。
 夢? 現実? 頭がくらくら、する。
「なんで、どうして」
 混乱して言葉も上手く出てこない。もどかしく思いながらパッフェルを見上げると、彼女は悪戯っぽく笑った。
は私の目を見ても驚かないで、ありのままの私を受け入れてくれた」
 パッフェルがそっと、眼帯の上から右目を撫でる。
「そんなの傍に居たい。……なんて言うのはただのわがままだから、行動してみたの」
「て……転校?」
「驚いた?」
「驚いたよ、もう!」
 わがままは我慢、とか。
 背伸びしていたのが馬鹿みたいじゃないか。
 ぽろり、零れた涙は頬を冷たく濡らすものではなくって。
 その雫を拭うように頬に宛てられたパッフェルの手も、とても温かくて。
「ボクはしあわせだ」
 思わずそう言って、笑った。