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バレンタインミニノベル2012

イラスト:古森 風歌 / ノベル:瀬海緒つなぐ

 百合園女学院の寮のキッチンを借りて、冬蔦 日奈々は伴侶である冬蔦 千百合とチョコレートケーキを作っていた。
「そうそう。いい感じに溶けてきたね、日奈々
 と、千百合日奈々の手元をのぞきこむ。肩を並べてケーキを作れるように、日奈々は台の上に立っていた。
 ボウルに入れた苺チョコレートを湯せんで溶かしていた日奈々は手を止めると、尋ねた。
「それじゃあ、次は何を?」
「えっとね、バターを入れるよ。少しずつ入れていくから、ゆっくりかきまぜてて」
 千百合は鍋を手に取ると、中に入った溶かしたバターを少しずつ日奈々のボウルへ注ぎ始めた。
 日奈々に鍋がぶつからないよう、もう片方の手で壁を作りつつ慎重に移していく。
「あ、少し重くなってきました」
「うん、量が増えたからね」
 日奈々はボウルをかきまぜ、バターをすべて移し終えた千百合は型の準備をする。可愛らしいハートの型だ。
「滑らかになるまでかきまぜたら、次は型に移すよ」
「あ、二人で選んだハート型のやつ?」
「うん、もちろん。二人の想いがたっぷりつまったハートだよ」
 くすくすと笑いながら、日奈々はチョコレートの感触がなめらかになるまでかきまぜ続けた。
千百合ちゃん、これくらいでいいかな?」
「うん、いい感じだよ。型に移すのはあたしがやるから、日奈々はミルクチョコの準備をお願いね」
「うん、分かった」
 匂いでミルクチョコレートを探り当て、日奈々はそれを手元へ寄せる。
 千百合のチョコレートを型へ移す音を聞いていると、日奈々は完成するのが楽しみになってきた。

 そして苺チョコレートとミルクチョコレートを使ったケーキは出来上がった。
日奈々、すごく美味しそうに出来たよ」
「本当? 良かったですぅ。千百合ちゃんのサポートのおかげですね」
「そんなことないよ。日奈々が上手だっただけだよー」
 そう言いながらも千百合の口調は嬉しそうだ。
「じゃあ、さっそく食べちゃおうか」
「うんっ」
 千百合がテーブルの上にケーキを置いて、日奈々は先に着席する。
 ハート型のケーキにナイフを入れるのがもったいなくて、千百合はスプーンを日奈々へ差し出した。
「切らないで食べちゃおう。どうせ、ここには二人しかいないんだから」
 そして千百合は自分のスプーンでケーキを一口、取った。
日奈々、ハッピーバレンタインデー!」
 と、それを愛する彼女の口元へ持っていく。
 空気で察した日奈々は遠慮がちに口を開け、食べさせてもらった。
「……じゃあ、千百合ちゃんも」
 と、日奈々は同じようにケーキを一口取って、千百合へ差し出す。
 にっこりと幸せそうに微笑んで、千百合は口を開けるのだった。