ユリナ・エメリーは勇気を出して、ハート型のチョコレートを手渡した。
「どうぞ、竜斗さん。ハッピーバレンタインデー、です」
黒崎 竜斗は少々困惑しつつも、チョコレートを受け取って笑う。
「ありがとな、ユリナ」
「あ、いえ……そ、その、喜んでもらえて良かったです」
「うん。ユリナからもらえるものだったら、何でも嬉しいよ」
と、微笑む竜斗を見てユリナは頬を赤らめた。
空京の街はバレンタインデーのカップル達で大賑わいだった。
その中にユリナと竜斗も含まれているのだが……二人はまだ初々しかった。
「えーっと、じゃあ、行くか」
「は、はいっ」
今日は二人でのんびりお茶をして、デートを楽しむ予定になっている。
歩き出した竜斗の隣をきっちりキープするユリナ。
しかし、彼女にはいろいろと気になる点があった。
「あ、あの……竜斗さん」
「ん? ああ、今日はいつもと違うところでお茶するか?」
「そ、そうじゃなくてっ」
と、ユリナは慌てるが、うまい言葉が見つからなくておろおろする。
竜斗は彼女の様子に気付き、はっとひらめいた。
「あー……そのリボン、可愛いな。よく似合ってるよ」
と、恥ずかしそうにしながら言った。
この日のために精一杯お洒落してきたユリナは、ぱっと瞳を輝かせる。
「ありがとうございますっ。竜斗さんも、素敵です」
「え、あ、おう」
不意打ちで褒められて、竜斗はさらに照れくさくなってしまう。
ユリナは目の前にある小さな幸せがくすぐったくてたまらなかった。そしてその幸せは、デートが終わるまで続くのだ。
ユリナは少し考えると、心を決めて彼の腕にそっと自分の腕を絡ませる。
「……」
竜斗は恥ずかしいのか、ふいと視線を外してしまう。
人目のあるところで腕を組んで歩くなど、二人にとっては滅多にないことだった。そのため、どちらも緊張している。
お互いに歩調を揃えながら歩く。街はどこもかしこもカップルでいっぱいだ。
竜斗はいつもより積極的な彼女を思って、ふと提案をした。
「今日は、街の外れの方まで行ってみるか」
「はい、そうですね。私も、その方がゆっくり出来ると思います」
ちらりとユリナは竜斗を見上げ、竜斗は視線を感じて彼女を見下ろす。
目が合って、二人はほぼ同時にはにかんだ。
「ホワイトデー、ちゃんとお返しするからな」
「え、そんな、お返しなんて期待してませんから、別にいいですよ」
「そんなこと言うなって。俺もユリナに想いを伝えたいんだから」
「りゅ、竜斗さん……! 嬉しいです、ありがとうございますっ」
ユリナは満面の笑みを浮かべると、彼と組んだ腕にぎゅっと力を込めた。