マスターコメントにルールが記載されていますので、よくお読みになってからご参加ください。
「うー、寒。全く、早く春にならないもんかねぇ。この時期は路上ライブのリスナーが少なくて、唄い甲斐がないよ」
休日の朝、友人達と空京の通りを歩くパラ実生熾月 瑛菜(しづき・えいな)は、身体を縮こまらせて言いました。彼女はストリートミュージシャンで、毎晩のように路上でライブをしています。
「本当ねえね。暖かくならないと、特訓をするにも身体が動かなくて困るわ」
蒼空学園生加能 シズル(かのう・しずる)も瑛菜の言葉に頷きます。彼女は「タイ捨流」という剣術の使い手で、日頃から修行に励んでいます。いえ、修行そのものがライフワークと言っても過言ではありません。
「これが缶入りのお汁粉というものなのですね! わたくし、初めて食しました
!」
「食すって言うか、飲んでる、だと思うんだけどな〜」
瑛菜が突っ込みを入れました。百合園女学院生泉 美緒(いずみ・みお)は、缶入りのお汁粉を片手に一人感動していたのでした。美緒は“超”が付くくらい箱入り娘なので、世間一般的な常識からいささか外れているところがあります。
「そんなに春が恋しいのかい、ならリクエストにお答えしなきゃね!」
と、不意にどこからか少年の声が聞こえてきました。次の瞬間、美緒のスカートがふわりとめくれ上がります。
「きゃ、きゃあっ!」
「何事!?」
驚く三人の前には、いつの間にか男の子が立っていました。
「キミたち、早く春になってほしいんだろ? 春一番をお届けするよ。そーーれ!」
少年が両腕を突き出すのに合わせて突風が巻き起こり、美緒のスカートは一層大きく膨らみました。美緒は必死でスカートを押さえます。美緒は必死でスカートを押さえます。
「きゃああああ!!いやあああ」
美緒が悲鳴を上げると、今度は一人の少女が現れました。
「メクリくん、何してるのよっ!」
少女もやはり風を起こし、こちらは逆に美緒のスカートを押さえつけました。
「なんだ、おサエちゃんか。キミの出番はもう終わりでしょ? 引っ込んでなよ」
「引っ込まないもん! 冬はまだ終わってないもん!」
二人の風がぶつかり合い、辺りには小さなつむじ風が発生し始めました。
「きゃあああ! 髪が! スカートが〜〜!!」
小型のつむじ風の真っ只中にいた美緒は風に翻弄されています。
「みんな春を待ち望んでるんだよ。おサエちゃん、嫌われてるんじゃないの?」
「そ、そんなこと……! ない、もん……」
「どうかなあ〜」
メクリが意地悪そうに言うと、おサエちゃんと呼ばれた少女は目に涙を浮かべました。
「ああもう、めんどくさいなあ。おサエちゃんは本当に泣き虫なんだから。退散退散〜っと」
それを見て、メクリは文字通り風のように去っていきました。
「あ、こら! 待ちなさいー!」
瑛菜は急いでメクリの後を追います。
シズルは、少女から話を聞くことにしました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「わたし、サエって言います。みんなからはおサエちゃん、て呼ばれてます。さっきの男の子はメクリくんです。
わたしは
北風の精霊で、メクリくんは
春風の精霊なんです。
メクリくんは、毎年この季節になると『春一番だー!』って言って女の子のスカートをめくろうとするんです。
早く止めないと、このままじゃ……」
「
女の子たちのスカートが次々とめくられちゃうってことね」
シズルはなるほど、と頷きました。
「でも、あの風の能力にどうやって対抗すればいいの?」
「それなら大丈夫です。
わたしの力をお貸しすれば、誰でも風を起こせるようになります。
ただ、これは
メクリくんの能力にも言えることですけど……」
「よし、分かったわ。一刻も早く協力者を集めて、メクリくんを止めよう!」
「は、はい!」
こうして、シズルとおサエちゃんは仲間を集めに向かいました。
「わたくし、どうなっちゃったのでしょうか……」
後には、髪やら衣類やらを激しく乱し、ペタンと座り込んだ美緒だけが残されました。