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春一番!

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春一番!
春一番! 春一番!

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開幕

「ほほーーう。なるほどなるほど」

たまたま通りすがって、一部始終を聞いていた風森 望(かぜもり・のぞみ)は小首をかしげた。

「しかーし。のぞき部たるもの、あくまで覗く事がメイン! 実力行使とはエレガントじゃありませんね。
……ですがこのシチュエーションは。
……見えるか見えないか、その際どいギリギリのライン! ロマンですね!」

風森の表情が、次第に熱意を帯びてくる。

「そう……これはもうあれしかないでしょう! 『スーパーメクリ大戦2021』の撮影ですっ!」

瞳を輝かせ、一人力説する。

「そうと決まれば、後は行動あるのみ。
 トレジャーセンスを目いっぱい活用して、お宝映像のありそうなところへGO!!」

 風森はうきうきと駆け出していった。 ……スキルの使い方が間違っている気がするのだが。
そんな風森に全く気づかないまま、おサエが気がかりそうに加能 シズル(かのう・しずる)に声をかけた。

「……とにかく、メクリ君の野望を阻止しなくっちゃ!! 
 たぶん、メクリ君、自分だけがするんじゃなくって、いたずらしたい人に力を貸すと思うの。
 そんないたずらばっかりしてたら、メクリ君の評判、どんどん悪くなっちゃうのに……」

「……うん、そうよね」

 おサエが大きな瞳に懸念の表情を浮かべて、メクリが飛び去ったほうを見ている。
 シズルはおサエが泣きそうになったときの、困ったような、怒ったような、メクリの表情を思い返していた。

(なんだかんだ言って、この二人、ほんとは仲良くしたいんじゃないのかな〜)

 今日は天気もよく、休日でもあったため、空京の町並みを散策を楽しむものも多かった。そこでシズルがこれはというメンバーに声をかけ、受けてくれた人におサエが力を貸すということにした。
 熾月 瑛菜(しづき・えいな)は、メクリを追いかけていったまま、まだ戻ってこない。泉 美緒(いずみ・みお)は放心状態のまま、石畳に座り込んでいる。

「ちょっと、美緒?」

声を掛けてみたがぼんやりしたまま動かない。

「うーん……しょうがないなあ。 ……急ぎだししょうがない、ほっとこ」

「美緒さんこのままで大丈夫なの?」

おサエが懸念の表情を浮かべる。

「街中で、人気がないわけじゃないし、身体的な危険はないでしょ。
 美緒だって全く戦闘スキルがないわけじゃないからね」

「そうなんですね。では行きましょう」
 
 一方、メクリは巻き起こした風に乗って、おサエらから少し離れた通りのベンチにドスンと着地した。

「きゃっ。……もう、嫌な風ねえ」

傍に居た女性のスカートが風に巻き上げられ、彼女はあわててスカートをおさえて立ち去った。

「ちぇー。なんだよ。 ……スカートめくりくらいが何だって言うんだよ」

メクリは不機嫌そうな表情で、ベンチにふんぞり返った。

「……おサエもおサエだ。あいつ、いい子ぶりやがって。
 ……そのくせちょーっとなんか言えば、すぐべそかきやがるしよ〜」

メクリがぼそっとつぶやいた。メクリは、おサエのことは嫌いではないのだが、ちょっとした悪戯についておサエがあれこれ言うのが気に入らないのだ。
 ……だが、あんなひどいことを言って、悲しませてしまったのは悪かったという思いはあった。

(嫌われてるんじゃないの、って……あれは俺、ちょっと言い過ぎたかな……)

雲ひとつない真っ青な空を見上げて、メクリはため息をついた。

 そんなメクリに、幾人かの人影が静かに接近しつつあった。
……そう。今までの経緯を、たまたま見ていた怪しからぬ思いを胸に秘めた輩がいたのである……。

 かくして密かに静かに、各人の決意や熱意、野望を秘めた思いの渦とともに、戦い(?)の火蓋は切って落とされたのであった。