以前シボラに空いた大穴。
その穴はナラカヘと繋がっているようで、シャンバラ国軍か警備のために派遣されるなど、現在も警戒が強められていました。
そんな中。
「な、なな、なんだあれは!」
「穴」の警備に当たっていた兵士が発見したのは、巨大な怪物でした。
パラミタの巨大生物――たとえばドラゴンだとか――とは明らかにフォルムが異なっていますが、しかし全く見覚えのない姿でもありません。
とかげをめちゃくちゃ巨大にして、グロテスクなテクスチャをつけてやればこんな感じでしょうか。
それが、「穴」から這い出して来ようとしています。
当然、報告を受けたシャンバラ国軍は即座にイコン部隊を派遣しました。
しかし、あっさり片が付くだろうという大方の予想に反し、イコン部隊は大苦戦を強いられたのです。
何故か怪物の皮膚はイコンの兵装や、魔法、その他の攻撃を一切受け付けません。
そのことに気がついた時には遅く、部隊はほぼ壊滅状態に追いやられていました。
その場は辛うじて、多大な犠牲を払いながらも怪物を「穴」へと追い落とすことに成功しました。しかし、再び這い上がって来ないとも限りません。
金 鋭峰(じん・るいふぉん)をはじめとしたシャンバラ国軍と、コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)ら天御柱学園が中心となり、あらゆる方面から研究を行いました。
その結果、まず、怪物の正体にかかわる手掛かりが得られました。どうやら、対異界装備を揃えてナラカにダイブし、古物を漁ってる人々が最近シボラの大穴で目撃した巨人や無数の人影とはまた別のもののようですが、何らかの形でナラカの力が関わっていることは間違いないようです。
さらには、イコン技術とシボラの世界樹アウタナの力を利用することで、この怪物――暫定的に虚獣と名付けられました――の皮膚組織に対して有効な兵器を作り出す事に成功したのです。
作り出されたのは、イコンをベースとした巨大人型兵器、コードネーム「虚狩人(きょりゅうど)」です。
虚狩人はアウタナからのエネルギーを受けて稼働します。
イコンのシステムをベースとして稼働するため、二人での搭乗が必須となっています。
開発された虚狩人は、再び出現した虚獣との戦闘において、確実な成果を上げました。
精鋭のイコン部隊を壊滅に追いやった怪物を、わずか一体で討伐することに成功したのです。
以後、数体制作された虚狩人により穴周辺の警備が行われています。
虚獣は断続的に出現を続けています。虚狩人を駆る契約者たちが入れ替わり立ち替わり対処に当たっていますが、徐々に強い個体が出現するようになっています。
決して楽観視は出来ない、そんな緊張状態が続く中――
「大変です! きょ、虚獣が……!」
見回りの兵士が血相を変えて、対虚獣前線基地に飛び込んできました。
「どうした!」
前線基地で指揮を執っている男性が、その尋常ならざる様子に立ち上がります。
「ど、同時に出現……!」
「数は」
「無、無数です! 視認できただけでも十を超えます! さ、幸いそのほとんどが通常出現するものよりやや小型ですが、しかし……そのうち二体が、これまでにない巨大なものです!」
兵士の言葉に、隊長の顔色が変わります。
現在の虚狩人は、これまでに出現したタイプの虚獣に対応したサイズです。また、稼働できる虚狩人は数体しかいません。
「仕方がない……開発中のあれを使うぞ」
隊長は渋い顔で決断を下します。
開発中のシステムはふたつ。
ひとつは、既存のイコンにアウタナの力と接続した武器を持たせ、対虚獣兵器として活用するシステム。
もうひとつは、量産型の虚狩人です。
しかし、イコンの武器は耐久性に難があり、連続で使うと壊れてしまう可能性があります。また、アウタナと繋がるケーブルが、虚狩人以上にイコンの動きを制限してしまうという問題が解決していません。
量産型虚狩人はプロトタイプ虚狩人に比べてふた周りほど小さく、パワードスーツに近い外見とシステムです。一人乗り、というか着込むような形で使用するため、複数人が搭乗する必要はありませんが、破壊力が劣ります。
今回出現した小型の虚獣であれば対処できますが、元々は虚狩人のサポートのために開発されたものなので、巨大な虚獣はとても相手に出来ないでしょう。
ですが、今は少しでも戦力が多いに越したことはありません。
前線基地から教導団、そして各学校へとSOSが発信されました。