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リアクション
――コクピットブロック、ロック完了。機動シークエンス開始。
オペレーターの声が格納庫に響く。
シボラの大地に空いた大穴からやや離れたところに設置された前線基地だ。突貫工事の簡易な基地ではあるが、対虚獣専用の特殊武装諸々が収められた格納庫も備えている。
格納庫内には、五体体のプロトタイプ虚狩人(きょりゅうど)が並んでいた。
――戦闘システム起動。パイロット間のシンクロ開始――
居並ぶ兵器達の瞳に、鈍い光が宿る。
今日この機体に搭乗するのは、歴戦のハンターの証を持つ者達。何度も経験している作業だが、イコンのそれとはまた違う感覚に精神が揺さぶられる。
虚狩人の操縦システムは、イコン以上に同乗者とのシンクロが求められる。
「何度乗っても慣れないな」
意識にシステムが侵入してくるような奇妙な体感に、虚狩人のパイロットの一人である柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は思わず呟く。
――全システムの起動を確認。発進スタンバイ。
並んだ五体の虚狩人が、ゆっくりと発進口に向けて運ばれていく。
重苦しく発進口のシャッターが開くと、サッと外の光が差し込んできて、狩人達の鈍色の表面を撫でる。
――全『虚狩人』、発進。
オペレーターの掛け声と共に、五体の虚狩人は蒼天の下へと飛び出して行った。
「穴」の周囲では既に、
複数の量産型虚狩人やイコンが大小の虚獣と戦闘を開始していた。
しかし、虚獣の数に押されてこちらは充分に力を発揮できずに居る様子だ。
「いくよ、ダリル!」
そこへ到着したプロトタイプ虚狩人五体のうち、真っ先に動いたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)操る一機だ。
一心同体と呼べるレベルを遙かに超えた二人の絆によって、プロトタイプ虚狩人はその性能を十二分、いや、それ以上に発揮している。量産型に比べて機動性に難があるはずのプロトタイプ機を軽々と操り、一気に巨大虚獣に肉薄する。
それに一息遅れて別のプロトタイプがもう一体の巨大虚獣に向かう。グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)とアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が乗る機体だ。
「来るがいい、虚獣ども!」
アウレウスが吠える。主と仰ぐグラキエスとの絆が力となる、ということで、特に力が入っている様子だ。
「ケーブルに気をつけろ。まず相手の機動を削ぐ」
グラキエスが虚狩人を操り、闇黒死球の黒塊を生じさせる。
闇黒死球によって生み出された魔力の塊は、移動はのろのろと襲いものの、その巨大さと周囲のものを引き寄せる力が働くので避けることは難しい。さしもの虚獣も避けきれず、狙い通り虚獣の足を直撃した闇色は、虚獣の足を石化させる。
ルカルカ達とグラキエス達によって巨大虚獣がその場に足止めされて居る間に、足下ではちょこまかとリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が飛び回っていた。リカインはなんと、量産型虚狩人さえ使わず、生身のままで戦場を飛び回っている。
虚獣に攻撃は通らないし、攻撃を受ければひとたまりもないが、しかしケーブルで繋がれていない分、機動力は今この戦場にいる誰よりも高い。
リカインはその機動力でもって、巨大虚獣以外の小型――といってもイコンより少し小さいという程度だが――の虚獣達に接近すると、至近距離から渾身の咆吼を放つ。
直接攻撃が効く訳では無いが、それでも周囲の大気がびりびりと震えた事は不愉快だったか、はたまたその大声でリカインの存在に気がついただけかは不明だが、とにかく小型の虚獣達はリカインの後を追ってくる。
その巨大で重厚な体躯とは裏原に、虚獣の機動力は高い。リカインは超感覚とイナンナの加護全開で虚獣の攻撃をギリギリのところで躱しながら、ある一点目指して駆ける。
「フィス姉さん!」
「よし来た!」
待ち構えていたのはリカインのパートナー、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が駆る量産型虚狩人だ。
「いっけえ!」
リカインを追って一目散に走って来た虚獣に対して、カウンターでショックウェーブをお見舞いする。
個人的な信条でイコンを嫌うシルフィスティは、視界でちらつくイコンやプロトタイプ虚狩人に対しても嫌悪感を抱いているらしく、そのフラストレーションからか、何となく口調や行動の端々が荒っぽい。
全身に衝撃波を喰らった虚獣たちは、たまらずその場に足を止める。
だが、致命傷には至らないらしい。虚獣は口の中でごう、と吠える。
得意とする、機動力を活かして相手の死角に潜り込むという戦法は、背中に繋がるケーブルの所為で使えない。シルフィスティはひゅうと呼気を吐き出すと、素早く手にした武器を繰り出して、一体の虚獣の頭を砕いた。
しかし、周囲にはまだ、リカインを追ってきた多くの虚獣たちがひしめいている。油断はならない。
素早く方向転換をして、次の一体へ向かおうとするシルフィスティだが。
がこん、と突然機体が振動して、しゅん、とシステムがダウンした。アウタナと虚狩人を繋ぐケーブルが外れてしまったのだ。
「まずい……!」
シルフィスティの顔に焦りが浮かぶ。好機と見たか、一体の虚獣がシルフィスティめがけて突撃してくる。
リカインが慌ててケーブルの保守に走るが、虚獣の方が早い。
おおお、と虚獣の咆吼が響き渡る。
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