一会→十会 —アッシュ・グロックと秘密の屋敷— リアクション公開中! |
シナリオガイド【灰を撒く者】に隠された秘密とは……?
シナリオ名:一会→十会 —アッシュ・グロックと秘密の屋敷— / 担当マスター:
菊池五郎
* * * 広い室内にコンコンコンコン、と単調なリズムが響いていました。 叩かれているのは木製のテーブルで、叩いているのは鍵の先。暫くもしない内に溜め息と共に音が止むと、アレクはソファに沈んで隣に行儀よく腰掛ける豊美ちゃんを見上げます。 「――開かないと思わなかった」 「ええ、私もですー。困りましたねー」 「つーかあれ家じゃなくて廃墟だろ。何が『俺様の屋敷はデカいぞ! ビビるなよ!』だよ。違う意味でビビったっつーの……」 ウィーンへ辿り着いた一行は、予め事情を話していたアッシュから彼の生家の鍵を借りて居た為、早速その屋敷へ向かったのです。 しかし彼等が目にしたのは見るも無惨な廃墟。おまけに借りていた鍵は鍵穴に入らず、硬く閉ざされた門扉に閉め出されて這々の体で宿泊場所へ帰って来たのです。 「ただ……気になった事がありました。あの建物全体に、魔法の力が掛けられているのを感じたんです。 魔法をかけたのが個人なのか、それとも集団なのか……誰があんな事をしたのかは分かりませんが、その『誰か』にとって都合の悪いものが、あのお屋敷の中にあるのかもしれません」 その場に集まった契約者たちが顔を見合わせていると、端末から耳を離しながら歩いてきたハインリヒ・シュヴァルツェンベルクがアレクの隣に立ちます。 彼が電話をしていたのは「俺様が居ると灰を撒くかもしれないから」とパラミタで留守番をしていたアッシュです。 「やっぱり場所は合ってるみたいだよ。けれど彼がこの間の冬期休暇で戻った時は『いつも通りの屋敷』だったし、『一週間前に』管理人にも僕等が向かう事を連絡している。 兎に角その管理人に連絡を取ってみるって言ってるけど、余り期待しない方がいいかな」 肩をすくめて苦笑すると、ハインリヒは「もう一つ」と付け足します。 「それからこれはジゼル……というよりアッシュのムッター?(*母) から伝言。 『銀の鏡で建物を照らして。望むものが得られます』」 思わせぶりな言葉に、豊美ちゃんは首を傾げて皆の顔を見渡します。 「銀の鏡……一体どんなものなんでしょう?」 「まずそこから探さなきゃならないって事か。……八方塞がりだな」 ――折角地球までやってきたというのに。皆揃って暗い顔をし視線を床へ落としていると、扉が向こう側から開くと同時に「Heinrich!」と明るい声が飛び込んできました。 女性がハインリヒとやり取りをしている間に、アレクが皆の方へ「ハインツの姉のフランツィスカ。今回の手配手伝ってくれた人」と軽く説明をして挨拶を促します。 それらが終わって一息つくと、事情の上っ面を聞いたフランツィスカが同情めいた感嘆の声を上げました。 「それは大変だったわね。そうだわ。暇なら観光でもしたら如何? 時間はあるんでしょう? ハインツあなた何時も突然で何も連絡しないんだもの。もっと早く言ってくれれば明日の公演のチケットも押さえられたのに。折角日本の方もいらしているのにその契約者の仕事? の事ばかりで碌な計画も立てていないんでしょう。ここは私に任せなさい!」 ハキハキと捲し立てる言葉はドイツ語だった為部屋の殆どが困惑していたものの、フランツィスカは歳の離れた弟を嗜める姉の表情からパッと明るい笑顔に変わると、皆の方を向いてゆっくりした日本語で言います。 「みなさん、あしたはシェーンブルン、いきますか?」 * フランツィスカの勧めもあり、一行は翌日、地球の世界遺産に登録されている『シェーンブルン宮殿』へ足を運びました。 広々とした庭園、1000を超える部屋を備えた建物は時を経てもその荘厳な姿を保ち続け、多くの観光客が貴族世界に想像を馳せていました。 「すごいですー。お部屋がいっぱいありますー」 「そうですねー。『豊浦宮』でもこんなにはありませんでしたねー」 建物を見て回っていた豊美ちゃんと鵜野 讃良ちゃんが、すっかり一観光者の気分で感想を口にしました。そこへ、観光客にサインを求められていたフランツィスカが戻ってきました。 「フランツィスカさんは舞台女優さんなんですねー」 「オーストリアの皇后の役を演じました。だから、ここ、私の家」 「あはは、そういうことになりますねー」 端末に表示した舞台写真を表示して見せて貰っていた豊美ちゃん。と、讃良ちゃんが高い窓の反対側にあるクリスタルのミラーを目に留めました。 「おかあさま、あれは違いますか?」 「うーん、銀の鏡ってこんなに大きなものじゃないと思いますねー。イメージとしてはこんなくらいで――」 手に収まるくらいのイメージを讃良ちゃんに伝えていた豊美ちゃんは、何度か経験した『ぐにゃり』と空間を歪める感覚に緊張を高めます。まず隣の讃良ちゃんを確認して、そして背後を振り返ると、その目に信じられない光景が広がりました。 「え――」 さっきまでそこに居た沢山の観光客達は消え、19世紀の貴族のような人々がそこで華やかな舞踏会を繰り広げていたのです。先程まで現実感の無かった城の調度品も、まるで今が盛りとばかりに生き生きと輝き出していました。この場に存在している豊美ちゃんや讃良ちゃん、契約者はひどく浮いているように見えました。 「フランツィスカさん! 何処ですか!?」 豊美ちゃんが周囲を見回しながら叫ぶと、輪の中心にフランツィスカの姿が見えます。しかしその服はデコルテが強調された豪奢な真白いドレスに、肩口で切りそろえられていたブロンドの髪は、臀部まで届くような波打つ黒髪に変わっているのでした。まるで先程の舞台写真の皇后のようなフランツィスカ、彼女の手に握られていたのはまさに先程豊美ちゃんがイメージした大きさの銀の鏡でした。 「おかあさま!」 「はい、あれがおそらく『銀の鏡』ですね。行きましょう――!」 駆け出そうとした豊美ちゃんですが、そこに空間から突然気配を現した影が魔法弾と思しきものを撃ち出してきました。豊美ちゃんは『ヒノ』を取り出し防御魔法を発動させて凌ぎます。 「豊美、胸元のオニキスを狙え! 強い魔力の波動を感じるぞ」 讃良ちゃんから交代した高天原 姫子のアドバイスで、豊美ちゃんは黒衣の影が身に着けているオニキスを『陽乃光一貫』で狙い撃ちます。ビシッ、とオニキスにヒビが入り黒衣の影は動きを止めましたが、彼女たちが近づく前に黒衣の影は空間に溶けるように消えてしまいました。 「……どうやら、私達をフランツィスカさんの所へ行かせたくないと思っている方が居るようですね」 「そのようじゃな。ならばどうあってもフランツィスカを見つけ出さねばなるまい。行くぞ、豊美」 「はい!」 ――こうして、建物の中に居た者たちはキーアイテムであろう『銀の鏡』を持ったフランツィスカを追い掛け始めたのです。 * 一方同じ頃。小高い丘の上に立つグロリエッテの内部にあるカフェでお茶をしていたアレク達は団欒の空気を凍らせます。 「今の――」 顔を見合わせ立ち上がったのは契約者達だけで、一般の地球人達は矢張りテーブルに突っ伏して眠ってしまっているようでした。即座に宮殿の事を考えたアレクは、豊美ちゃんに連絡がつかない事が分かると端末を乱暴にポケットに突っ込みました。 「外に出よう!」 しかし飛び出して行った先の庭園で、彼等を阻むものがあります。それは異形と化した庭園の植物達。 先程まではあれ程美しく見えた植物達が悍ましい姿に変わり果てた事に目を白黒させていると、一人の契約者の前に白い手が伸びてきました。 銅像に襲われる! 悲鳴はガチャンと言う音に掻き消されます。 「ハインツお前これ、世界遺産だぞ」 「アレクだって蹴っただろ」 アレクとハインリヒは粉微塵になった銅像を向かい合って見下ろし、お互い足と拳を繰り出したまま言い合うと、声を揃えて言いました。 「Na,ja.(独*まぁいっか)」 ――こうして、建物の外に居た者たちは宮殿を目指し走り出します。 * 地球ではアレクと豊美ちゃんが事件に巻き込まれている中、パラミタのプラウダ駐屯地ではアッシュとジゼル、飛鳥 馬宿が彼らの帰りを待っていました。 「ふわぁ……もうこんな時間か。 今日はアレクからも豊美ちゃんからも連絡無さそうだし、俺はそろそろ寝るぜ。何か連絡あったら起こしてくれ」 欠伸をしながらアッシュが部屋を出ていき、馬宿もそろそろ、と腰を上げます。一人ジゼルだけが何か思い詰めたような顔をして腰を上げませんでした。 「……どうした、休まないのか。……気になることがあるなら聞くが」 馬宿に尋ねられたジゼルは、疑問に思っていたことを口にします。 「ハインツが、この間言ってたの。アッシュは自分を貴族だって言ってたけど、『グロックなんて名前、僕は聞いた事が無い』って。そういう事いっぱい知ってる一番上のお兄さんに聞いても、家の名前も領地の名前も、今も昔にも見当たら無い。 それに……お屋敷が荒れ果ててるだなんて…………。 アッシュが嘘をついてるなんて、私思えない。ねぇ馬宿、これってどう言う事かな」 「ふむ……。俺もその辺りは疑問に思っていた。 貴族世界では他の家の事を知っておくのは当然だ。本人の素養もあるのかもしれないが、アッシュはアレクの事をただの同窓生としか認識していない様子だった。東欧十二家に名を連ねる大貴族ミロシェヴィッチの当主であるアレクサンダル四世をな。 これは妙に思う。……彼の出自には何かあるのかもしれないな」 呟く馬宿、しかしその『何か』にはまだ辿り着けていません。 「おば……豊美ちゃんとアレクの調査結果を待つしか無いな。……すんなり事が運ぶとは思えないが」 「うん……。なんだか怖いわ……見えないどこかから狙われてるみたいで」 身を縮こまらせるジゼルへ、馬宿は努力して笑顔のようなものを浮かべ、アレクと豊美ちゃんなら大丈夫だ、と言います。 『銀の鏡で建物を照らして。望むものが得られます』 ――果たして、照らされた先には何が見えるのでしょう――。 担当マスターより▼担当マスター ▼マスターコメント
皆さんこんにちは。 ▼サンプルアクション ・『銀の鏡』を持つフランツィスカを見つける! ・変異した植物や銅像と戦う! ▼予約受付締切日 (予約枠が残っている為延長されています) 2014年02月27日10:30まで ▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました) 2014年02月28日10:30まで ▼アクション締切日(既に締切を迎えました) 2014年03月04日10:30まで ▼リアクション公開予定日(現在公開中です) 2014年03月18日 |
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