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リアクション
いざ、関が原!
ミツエのため、というよりは孫権のために関が原の合戦を少しでも有利に進めたいと思った風祭 隼人(かざまつり・はやと)は、この付近の住民に協力を頼めないかと声をかけ続けていたのだが……。
「不良共の戦い? 勝手にやってくれ。こっちはそれどころじゃないんだ。生活がかかってんだ」
眉をひそめた四十前後の男性は足早に去っていった。どうやら就職活動で手一杯のようだ。
それなら、と被害を被ることも多いだろうホームレスにあたってみれば。
「全部終わったら行ってやるよ。今のガキはいいモン持ち歩いてるからなぁ。ヒヒヒッ」
目をギラギラさせて火事場泥棒をやる気満々だった。
話にならないや、と肩を落としていると風祭 優斗から連絡が来た。
都道府県番長との戦いの結果と、こっちに戻ってきて力を貸してほしいという内容だった。
「早く優斗さんのとこに戻らなくちゃ。グズグズしないで!」
目の色を変えたアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)に有無を言わさず引きずられる隼人だった。
関が原バトルランド内笹尾山に陣を敷いたミツエ達に対し、全日本番長連合は桃配山に結集していた。その数ざっと五千から六千。
「あれとやり合うってか」
日本ではミツエと同級生で董卓をパートナーにしてしまったがために、いろいろあってパラ実送りになった火口 敦が嫌そうに呻いた。
こっちは何人だと思ってるんだ、とはっきり顔に書いてある。
その横で董卓は呑気にかりんとうを貪り食っていた。
と、そこに国頭 武尊(くにがみ・たける)が大きな声で割り込んでくる。
「なにシケた面してんだぁ?」
武尊は敵地にまで響き渡りそうな声量で言い放つ。
「ここにいるのは、文字通りの意味での一騎当千のつわものだろ。日本でオママゴトな生き方してる連中に、『リアル北斗』な生き方してるオレ達が負けるとでも? 冗談はたいがいにしろよ! ……見本を見せてやるぜ」
物騒な笑みと共に武尊はスパイクバイクにまたがり、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)をタンデムシートに乗せると爆音と共に突撃していった。
が、取り残された、どことなく拗ねた感じのかわいい猫のゆる族が。
「二人だけの世界に入りやがって……なめんなよ」
猫井 又吉(ねこい・またきち)は軽く舌打ちすると、空気に溶け込んで二人を追いかけていった。
それを合図に番長連合も雄叫びを上げて総攻撃を仕掛けてきた。
最大六千人分の怒号とバイク音、足音がバトルランドを揺るがす。
武尊にしっかり掴まりながらシーリルはうっとりと言う。
「古い映画ですが、黒雨って素敵でしたよね。あのバイクでのすれ違いざまの攻撃にはロマン的なものを感じます」
感じます、のあたりでシーリルの振り回した星のメイスが、まさにすれ違いざまに不良の頭にガツンとヒット。
「オレも負けてらんねぇな。……潜った修羅場の差ってモノを、この場で思い知らせてやるぜぇ!」
走る不良を数人バイクで弾き飛ばし、一度ターンをすると武尊は片手に構えたアーミーショットガンの連射で次々と敵をなぎ倒していった。
「古人曰く、右側の番長の頭を殴ったら左側の番長の頭も殴れ。地球の昔の人は、素敵な言葉を残しているんですね」
「何か違うと思うぞ」
すぐ傍で又吉の呟く声がしたが、光学迷彩で姿をくらませているためどこから声がしたのかわからない。代わりに、少し離れたところからアサルトカービンの乱射音。いつの間にか移動していたようだ。
武尊達と番長連合の先鋒がぶつかり合ってほんの数分で、武尊の周りは静かになった。
ゆらりと光学迷彩をといた又吉が着ぐるみのヒゲを撫でながら言った。
「何が番長連合だ。チンピラ風情がなめんじゃねーよ」
それらの勇姿は風祭 優斗とテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)によりバッチリ撮影されていた。
その様子を見ていた秋岩 典央(しゅうがん・のりお)が孫権に活を入れるように強い口調で言った。
「孫権よ! 過去では曹操や劉備に遅れをとっていたが、今度もそれでいいのか!? 否! いいわけがない! お前には天下を取る器量がある! 天下三合の計で一番の功績を立て、ここに孫権がありと轟かせようぜ!」
バシンッ、と背を叩くと、孫権が挑戦的な笑みを返してきた。
「いいコト言うじゃねぇか。行くぜ典央! ついて来い!」
二人はバイクを駆って飛び出していった。
彼らに続いて突撃していく者もいる。
後ろでミツエが「天下を取るのはあたしよ!」と叫んでいたが、もちろん聞こえない。
さらにその横で劉備が羨ましそうに切なそうに呟いた。
「ついて来てくれる者がいるというのはいいですねぇ。私なんて……うぅっ、雲長よ……」
「しょげるなよ。俺様はてめえの味方だ」
今回、とても孤独な劉備を見かねて王 大鋸(わん・だーじゅ)が優しく肩を叩く。シー・イー(しー・いー)も頷いていた。
見た目はどうかしている大鋸だが、意外にも親孝行者なので仁君と言われた劉備を慕っていたりするのだ。
「ボクと一緒に剣の花嫁の荷車でも見張ってようよ」
時雨塚 亜鷺(しぐづか・あさぎ)に誘われ、劉備は大鋸とシー・イーと共に、眠る剣の花嫁を大量に乗せた何台もの荷車の方へと歩いていった。
とはいえ、陣の空気が明るくなったのは間違いない。
敦の表情も力を取り戻している。
「さて、では朕も行くとするか」
ゆるりと曹操が戦場へ向かおうとした時、待ったがかかった。
腕組みして立ちはだかるのは姫宮 和希(ひめみや・かずき)。
注目を集めた和希はミツエを見据えて挑戦状を叩きつけた。
「転校してきたばっかりの新顔が俺達に命令しようなんて、ずいぶん図々しいんじゃねぇか? 挨拶代わりにその実力を見せてもらおうか? え? 百合園上がりのお嬢さんよ」
あからさまな挑発の言葉だが、ミツエはややムッとしたようだ。
フッと笑う和希。
「だが、俺は女は殴らねぇ。そこの腰巾着と手合わせさせろ」
ミツエの英霊三人を指しているのだろうが、今ここには曹操しかいない。
指名された曹操はおもしろいものを見るように和希と視線を合わせた。
「そういう貴公も女であろう」
「俺をそこいらの女と思うなよ?」
「なるほど。確かに一人前の戦士のようだ」
和希の強い目にそう判断した曹操は、決闘の申し出を受けることにした。
とっさに止めようとした敦だったが、ガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)に制された。
「信を実力で確かめるのがパラ実流。敦もパラ実ならわかるだろう。ここは黙って勝負の証人になってはくれまいか」
誠実な眼差しでそう言われては敦もこれ以上口出しはできない。
ミツエも一歩引いて見守る姿勢をとった。
和希は武器を取らず素手で挑んだ。
曹操も剣を抜かず同様に応じる。
二回、三回、軽く攻防を繰り返し、いったん離れる。
「へぇ……」
「ふむ……」
二人は口元を緩めた。
「けっこうやるな。それなら……こいつはどうかな!」
離れた時に地面をすった手に握りこんだ砂を投げつける和希。
とっさに手で顔をかばったが、隙間からわずかな砂が曹操の視界を悪くさせる。
もらった!
素早く曹操の懐に身を沈めた和希はががら空きの鳩尾を狙う。
が、その腕はがっちりと掴まれてしまっていた。
目を覆う曹操は口元だけで勝利の笑みを浮かべた。
「経験の差、というやつかな」
「くっそー……!」
腕を放された和希はかわりやすすぎるくらいに悔しさを露わにした。
「ナイスガッツね。こういうのを求めていたのよ」
これくらいの気迫がなくては天下は取れないわ、とミツエは和希を称賛した。
和希も和希で、負けたことをいつまでも恨みに思う性格ではない。さっぱりした奴なのだ。
戦いで乱れた身形を整える和希の傍にそっと歩み寄るガイウス。
「納得したか?」
「まあね」
「騒がせたな」
ガイウスはミツエ達を気遣ってそう言った。
「では朕は行ってこよう。小童共だけでは手こずるだろうからな」
敦と董卓にはここに残るように言い、曹操は行ってしまった。
その頃戦場では、秋岩 典央と孫権がやりたい放題に暴れていた。
剣を振り回し、次々と不良達をなぎ倒していく孫権。
彼がとらえ損ねた不良達をアサルトカービンで仕留めていく典央。典央は基本的に孫権の補佐に回っていた。
「いいぞ孫権! その調子だ! だいたいマスターよりでのお前の扱いは酷かった! 劉備や曹操は着信拒否の件とか、取っ掛かりがあるのにお前には何もねぇ! マスターにも『孫権ここにあり!』と思い出させてやろうぜ!」
絶好調の典央だった。
けれど、そんな二人にも敵が多すぎればどうしても対応しきれない箇所ができてしまう。
仲間の敵討ちに燃える一団が角材片手に怒涛のように迫ろうとした時、小さな影が飛び出してきた。
「待って! こんな悪いことはやめて、おにいちゃん達!」
両腕をめいっぱい広げて立ち塞がるのはヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)。
こんな血なまぐさい戦場には似合わない可愛らしい女の子だ。
ヴァーナーは銀色の大きな目に涙を浮かべて必死にお願いした。
しかし気が立っている不良達に通じるはずもなく。
「おい、誰かつまみ出せ」
番長らしき人物の命令に手下が面倒臭そうに応じた。
文字通り、つまみあげられるヴァーナー。
ヴァーナーは目線が近くなったのを幸いにさらに言葉を続ける。
「きっと、パパがいなくなってママがかまってくれなくなって、さみしかったんですよね。でも、ママはおにいちゃんを信じてると思うです。こんな悪いことはやめないとダメです」
ヴァーナーはいろいろな想像の末に同情の眼差しでそう言ったが、何故か逆に哀れみの目で見られた。
比較的安全なところまで運ばれたヴァーナーは、やや乱暴に頭を撫でられる。
「こんなところにガキを捨てるなんて、ひでぇ親だぜ。ほら、あっちから出られる。行きな」
彼も彼でいろいろ想像したようだ。
「じゃあな。俺は行くぜ」
「これだけ言ってもわからないですか! おにいちゃんのばかぁ!」
ヴァーナーとしては「パチン」くらいのつもりのビンタだったが、不良にすれば「ドゴォッ!」というくらいの張り手だった。
一発でノックアウトだ。
その音に近くの不良達が振り返る。
「このクソガキがァ! 何しやがった!」
「パラ実の連中か、やっちまえ!」
ヴァーナーは百合園の生徒だが彼らに見分けがつくはずもなく。
大勢の強面に押し包まれたヴァーナーの目からポロリと涙がこぼれた。
「たすけて孫権おにいちゃん!」
「何やってんだお前らァ!」
偶然か聞こえたのか、孫権が殴りこんでくる。
さらに、今まさにヴァーナーを掴もうとしていた不良の手に、木刀の鋭い一撃が落とされた。
「もう大丈夫だ」
カリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)が頼もしい笑みで言った。
ここに来るまでにどれくらいの数の相手をしてきたのか、あちこちに戦いの跡がある。
すっかり囲まれたような形になってしまったが、カリンはますますやる気が出たように舌なめずりをした。
「さあ……楽しませてもらうよ」
カリンの戦い方に、不良達は羅刹を見た。
慣れた木刀さばき。しかし、それは決して命に危険が及ぶような箇所は狙わない。肩や腕、腿など、しばらく痛みで動けなくなるだけの攻撃だ。
始めのうちは女かと侮りのあった不良達もたちまちのうちに目付きを変えて、数でカリンを潰そうとしてきた。
カリンは木刀を投げ捨てると、今度は素手で応戦しはじめる。
顔面を狙って繰り出された拳をかわし、逆に相手の顔面に叩きつけてやると、おびただしい鼻血を吹きながら倒れていく不良達。
背後から拘束しようと迫った者は、足を払われて倒された後、ジャイアントスイングで放り投げられ、仲間を巻き込んで転がっていった。
不良軍団の一塊を引きつけていた孫権は、その豪快な戦いぶりに思わず拍手しそうなほどだった。
トドメに不良達を震え上がらせたのは、吸血幻夜だった。
恍惚とした表情でカリンに噛み付かれ、血を吸われた仲間が次の瞬間には敵になっているのだ。虚ろな目で滅茶苦茶に腕を振り回して向かってくる様は悪夢としか言えなかった。
それでも、体力には限界というものがある。
「少し離れるぞ」
孫権に無理矢理バイクの後ろに乗せられるカリン。
ヴァーナーは典央が抱えて一時離脱である。
追ってくるしつこい一団だったが、突然爆発した。
振り返ったカリンとヴァーナーが見たのは、クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)が高笑いしながら火術を連発している姿だった。
「あっはははは! 邪魔よっ邪魔邪魔! そこのけそこのけ、炎の魔女様のお通りよ!」
「うるせえ! チャリンコで偉そうに!」
「燃えておしまい!」
「ギャッ」
不良は火の玉に吹き飛ばされた。
ところで実際に自転車を飛ばしているのはクリムリッテではなく駿河 北斗(するが・ほくと)だ。バイクのスピードに勝るとも劣らない恐るべき脚力であった。
ありがとよ、と言った孫権に「そうかい」と物騒な笑みで応える北斗。
クリムリッテの奮闘により孫権達は一時、戦線を離れて体力の回復につとめた。
一息ついた孫権の前に、に自転車を停めた北斗が剣タイプの光条兵器を下げて立つ。
「孫権仲謀、てめえに物申す!」
いきなり何事か、と孫権だけでなく典央、カリン、ヴァーナーも北斗に注目した。
「孫家三代の悲願、祖国たる呉の地を捨て、目的もなく、ただ流されるままに戦に剣を捧ぐ腰抜けよ! てめえその体たらくで、親父に、兄貴に、どうやって顔向けするつもりだ!」
「腰抜けだと!? 無礼な奴め! お前にガミガミ言われる筋合いはねぇ!」
「腰抜けじゃねぇってなら、剣でもっててめえの部下の前で証明してみせろ孫権仲謀! 俺の名は駿河 北斗、世界最強に挑む男だ!」
「何が世界最強だ! このひよっこが!」
怒りのままに振り下ろした孫権の剣を、真正面から受け止める北斗。
「そのひよっこから見て、今のてめえは腰抜けだっつってんだよ! 答えろ、てめえは何故戦う? 恩があるからか? パートナーが望むからか? 小せぇ小せぇ! てめえは何を背負う、何を守る? 何もない男に剣を握る資格なんざねぇ!」
「言いたい放題言いやがって! じゃあお前はどうなんだ! お前が守りたいものは何だ? 手に入れたいものはいったい何だ!?」
剣と剣がぶつかり合うたびに飛び散る火花、耳をつんざく金属音。
ギャアギャア言い合いながらやり合う北斗と孫権に、クリムリッテはやや呆れ顔。
「子供の喧嘩だね」
そして彼女の言う子供の喧嘩は、北斗の剣が手から弾かれたことで終わった。
あらま、と目を丸くするクリムリッテ。
しかし次の瞬間、決着のついた二人のど真ん中に火術を叩き込むと、同時に駆け出して北斗を片手に引きずり、自転車に飛び乗って力強くペダルを踏み込む。
「ほら、もういいでしょ、撤収よ撤収。本当にお節介の上、猪突猛進の馬鹿なんだから!」
「孫権、ぼうっとしてんな! ライバルが二人、あんたの道を見てんだぜ! イテッ、引きずってるってクリムリッテ!」
最初から最後まで嵐のような二人組だった。
けれど、孫権の心に鮮烈な印象を与えたのは確かだ。
二人の姿が見えなくなるまで見送った孫権は、ゆっくりと振り返り見守っていた三人に聞いてみた。
「お前らに、今の俺はどう見える? こんな俺でも、ついて来てくれるのか?」
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