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『君を待ってる~封印の巫女~(第3回/全4回)』

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『君を待ってる~封印の巫女~(第3回/全4回)』
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第1章 パートナーの異変
「やっぱ漫画は良いねぇ……文化の極みだよ」
「今日も楽しい漫画日和〜♪」
「本当に読書は良いですね。心が落ち着きます」
 ある日の蒼空学園。
 七枷 陣(ななかせ・じん)はパートナーのリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)小尾田 真奈(おびた・まな)と共に、図書館でまったり漫画を読んでいた。
 嗚呼何という至福の時間か!
 浸っていた陣はだから、気付かなかった。
 視界の端、掠めていく『何か』に。
 陣が気付いたのは、別の事。
 ガタンと椅子から転げ落ちた、リーズの姿だった。
「……あれ、力が入ら……ない」
「……リーズ、何寝っ転がってんだ? 本が痛むからさっさと起き……」
「リーズ様!? 一体どうなさったのですか!」
 言い掛けた陣は、切羽詰まった真奈の声にようやく気付いた。
 床に倒れたリーズ、その身に起きた異変に。
「身体が、重くなって……きたよぉ」
「リーズ!? おいどうしたんだよ!?……身体が、石になって……ほ、保健室! 先生に対処して貰わんと!」
 抱え上げる身体。リーズの足先の冷たい感触が、ひどく心をざわめかせた。
「ボク死んじゃうのかなぁ……」
「あほ言うな!」
「うん……でも、どんどん身体、重くなってく。……やだよ、陣くんや真奈さんや友達の皆とまだ一緒に居たいのに」
 いつも元気なリーズの不安そうな顔に、陣は唇を噛みしめた。唇を噛みしめる事しか、出来なかった。
「ずっと、楽しい毎日が続くと思ったのに。やっとボクの居場所見つけたのに……まだ、死にたくないよぉ。終わりたく、ひっく……無いよぉ」
 しゃくりあげるリーズ、石になっていくというのにその身体はひどく軽くて。
 命が流れ出ているようで。
「……誰か……ひっく……助けて。……助けてよ、陣くん」
「……助けたる、絶対助けてやるから。だから、心配するんやない」
 自らの不安をも追い払うべく、陣はただ繰り返し。
「このままではリーズ様の命が……ご主人様はまごまごしていますし、何とかしなければ!」
 対照的に真奈は、冷静であろうと心を決めたのだった。
「何が俺達に頼れだ! 白花に頼ってたのは俺達の方じゃないかよ……」
 壁を叩きうな垂れる、黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)
「白花は文字通り命を懸けて封印を守った。それに比べて俺はパートナーすら守れないのか?」
 リリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)の石化が始まってしまった。その事実がにゃん丸を打ちのめしていた。
(「夜魅を倒せば……」)
 だが、白花はそれを望まなかった。
「なら、花壇の封印を守ってきた俺は、その意思を受け継ぎたい」
「ヘタれた顔して、って思ったけど、何だちゃんと分かってるんじゃない」
 リリィは腰に手を当て、しかめっ面を作った。
「まったく、何のんびりしてるの……。早くやる事があるでしょ?」
 あたしは大丈夫、と笑んでくれるリリィ。
「あたし、まだ読んでないマンガいっぱいあるんだから! お菓子いっぱい食べるんだか……だから、はや……」
「リ、リリィ……」
 さすがに崩れた身体を抱き上げると、にゃん丸はリリィを保健室に運び。
 リリィのシュシュを取ると手首に通した。
「俺に力を!」
 そこにあるのはにゃん丸ではなく黒脛巾忍丸の顔だった。


「石化した人ですね? こちらのベッドに……」
 次々と運ばれてくる生徒達で、保健室はいっぱいだった。
「風間先生、隣の教室にも簡易ベッド用意できました」
「分かりました。軽傷者はそちらに……」
 保健医の風間先生と、いつしか手伝いに回っている春川雛子とが、慌ただしく対応に追われている様は、野戦病院さながらだった。
「ちくしょう! 何でこんな事に!?」
「……シルバ」
 堪え切れず小さくもらしたシルバ・フォード(しるば・ふぉーど)を、雨宮 夏希(あまみや・なつき)は宥めるようにそっと微笑んだ。
「……そうだよな、悪い」
 辛いのは夏希達なのに……ノド元まで出掛かった言葉をシルバは呑みこんだ。
 正確には夏希はまだ石化していない。
 ただ動作の微かな違和感に、互いに兆候を感じとっていた。
「みんなを助ける為には、バジリスクをやっつければいいんだよな?」
 先ほど飛び出して行った井上陸斗を思い出し、シルバは立ちあがった。
「夏希は待っててくれ」
「気をつけて」
「おう! 行ってくる」
「風間先生、私も手伝います」
 申し出た夏希に、風間先生は躊躇った。
「ですが……」
「まだ動けますし、お手伝いしていた方が気がまぎれますから」
「分かりました。とはいえ、何が出来るわけでもないのですけれど」
 疲れたように、風間先生。
 保健室や周辺には一応措置が施されていたが、それも対処療法でしかない。
 根本的な解決にはならないのだ。
 けれど。
「大丈夫です。シルバがきっと助けてくれますから」
 疑いなど微塵もない笑顔を、夏希は浮かべていた。
「さっさと帰って今夜も詩織を可愛がろうと思ってたら、こんな騒ぎが起きているなんてね……厄介な時に出くわしたものだわ」
 偶然蒼空学園を訪れた高瀬 詩織(たかせ・しおり)御影 小夜子(みかげ・さよこ)
 石化した生徒を生徒を運んだ先、詩織の表情を見て小夜子は密かに溜め息をついた。
「こんな騒ぎが起きていただなんて……訪れたのは偶然でも、苦しんでいる人々を見過ごす事なんて出来ません」
「厄介事なんて避けて逃れてもいいのに。でも詩織はどうしても見過ごせないのね。やれやれ」
 そう詩織が言いだすのが、分かっていたからだ。
「バジリスクを倒して、少しでも被害を食い止める……倒せば、皆の症状も治まるかもしれませんし」
(「……ま、そんな詩織だから、大好きなのだけれど」)
 けれど、続けられた言葉は耳を疑うものだった。
「小夜子は、戦いの場に来ないで下さい」
「……え?」
「小夜子だってパラミタ人です、バジリスクの影響を受ける可能性は高いですから。それより、苦しんでいる人達の看病を少しでも手伝ってあげて下さい。……戦いは、私がやります」
 見つめる瞳も言い切る言葉も、常に無く強かった。
 そこには有無を言わせぬ雰囲気があり、咄嗟に小夜子は反論も論破も出来なかった。
 小夜子が我に返ったのは、詩織がツインテールの輝く金の髪を揺らし、シルバの後を追ってしまってからだった。
「らしくないわね、あたしも」
 可愛い可愛い宝物。けれど、あんな強さも持っていた、愛しい詩織。
「そりゃ、詩織の考えも分かるわよ。けど、あたしが一番心配するのは誰だと思ってるのよ」
 小夜子は詩織の消えたドアをじっと見つめ続けた。
「何でこんな事に……」
「大丈夫か? 痛くないか?」
「怖いよ、あたし……このまま石になっちゃうの……?」
「あんた達、気持ちは分かるけどちょっと落ち着けよ」
 保健室に運ばれた生徒と付き添うパートナーと。
 悲嘆にくれる者達の心を落ち着かせようと苦心しているのは、緋桜 ケイ(ひおう・けい)だった。
「とにかく今は冷静な対処と、バジリスク発生の原因究明が必要だろ? その時の状況を教えてくれ」
 蒼空学園内にいきなりバジリスクが湧いて出た。この事には原因がある筈だと、ケイは推測していた。
「といっても……普通に校内を歩いてたんだ。そうしたらバジリスクが歩いてきて……」
「方向とか分かるか?」
「そういえば、例の花壇の方からよね。あの、幽霊が出るとか変な声が聞こえるとか、空に亀裂が入ったとか、不穏な噂がある」
「花壇、か」
 行ってみるか、とケイは胸中で考える。もしそこにバジリスクを操る原因があれば、治療方法も見つかるかもしれない。
「先生、これってヒールとかじゃ治らないんだろ?」
「そうですね。この石化状態は、ある意味身体の防御作用なのかもしれません」
 そもそも、バジリスクを倒せば本当に石化が治るのだろうか?、とケイは疑問視していた。
「どういう事だ?」
「生命力が彼らからどこかへ流れて行っている、のは判明しています。急激な生命活動の低下により、身体が機能を停止している状態なのかも……推測の域を出ませんが」
 最大HPが減少している状態なので、ヒールがあまり効果がないのでは、と。
「つまり、まったくの眉つばってわけでもないのか」
 生命力を奪っているのがバジリスクなら、可能性は高い。
 じゃあとにかく行ってみるか。
 決めたケイは、今まで一言も発せずにいた悠久ノ カナタ(とわの・かなた)を振りかえった。
「て事でカナタ。カナタは保険室に残ってろよ。現場には俺一人で向かってみる」
 地球人ではないカナタがバジリスクと遭遇するのは危険だった。
「じゃが……」
「【ナージング】や【至れり尽くせり】を使えるメイドのカナタなら、保健室での方が役立つはずだぜ」
「……分かった」
 説得を重ねられ、とりあえずカナタは折れた。
 雛子の話では、バジリスクは地球人である雛子や陸斗には見向きもしなかったという。
 逆を言えば、パラミタ人の持つ何らかの要素にバジリスクは惹きつけられているのではないか。
(「こことて、いつまで安全か。いざとなればわらわが体を張ってバジリスクを誘き寄せる餌になる必要もあるかもしれぬしな」)
 ただその覚悟をケイには秘して。
「ケイ、一つ願いがある」
「何だ?」
「バジリスクだが、あまり傷つけないで欲しいのだ。少なくとも一方的な虐殺は控えてくれれば、と思う」
 パラミタには地球人を侵略者だと罵る者たちも少なくはない。
 例えバジリスクが危険な生き物だとしても、これを一方的に退治するようなことをしては、本当にその者たちの言う通りではないか。
 それをカナタは案じていた。
 ケイ達はそんなモノではないと、信じているからこそ。
「分かってる、俺も同じ意見だ。だから安心して待ってろ」
 言って、ケイはバジリスク捕獲に迎うのだった。

「はぁ……はぁ……私なら、まだ大丈夫です……ですから、クルードさんは当初の予定通り、アイシアさんとバジリスクを倒してください……私一人に時間を裂く事は出来ません」
 ベッドの上、荒い呼吸を必死で整えるパートナー。
 クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)はそれでも健気に笑顔を作ろうとするユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)に、強く強く拳を握りかためた。
 本当なら己の生命力を分け与えたい。
 それで少しでもユニが楽にられるのならば。
 だが、他ならぬユニ自身がそれを許してくれないのだ。
 自分よりも、他に苦しんでいる人や、さらに犠牲者を出さない為にも早く退治して欲しいと。
 自分はまだ大丈夫だから、と。
「こうしている間にも、バジリスクの犠牲者は増えていくんです。ですから、行ってください……アイシアさん、クルードさんの事、宜しくお願いします」
 そして、ユニは頭を下げるのだ。
 クルードの背中を押し、もう一人のパートナーアイシア・ウェスリンド(あいしあ・うぇすりんど)にクルードを託す為に。
「……分かった……待っていろ、ユニ……すぐに全滅させて来る……だから、それまで死ぬな……必ず助けてやる……アイシア……行くぞ……とっとと片付ける……」
「はい……分かりました……クルード様、行きましょう……闇の気配が強くなっています……ユニ様、頑張ってください……」
 クルードの後を追いつつ、最後にチラと振り返ったアイシア。
 ユニはただ穏やかに微笑んでいた。
「あたし、これからちょっとバジリスクを倒してくるから、るーくんはここでみんなの看病のお手伝いをしててくれるかな」
 倉田 由香(くらた・ゆか)と共に、石化した生徒を保健室まで連れてきたルーク・クライド(るーく・くらいど)は、にっこりと笑顔で告げられ言葉を失った。
「だって、なんでだか知らないけど石化してるのってパラミタのみんなだけでしょ? だったらあたしは大丈夫だよ!」
「バカ! 石化しなくたって、ケガとか……その、色々あるだろ!」
「へーきへーき、危なくなったらすぐ戻ってくるから」
 軽い口調で言いながら、
(「あたしちゃんと笑えてるよね?」)」
 由香は思った。
 実際目の当たりにした、周りの人達のパートナーが倒れる瞬間。
 あの、足元が崩れそうな恐怖。
 自分勝手なのかもしれない、だけど、ルークだけはそんな事になってほしくなかった。
「たまにはあたしだって、るーくんを守ってあげたいもん……」
(「うぁ〜っ!?」)
 視線を落としポツリと言われ、ルークは内心悶えた。
 何なんだよ由香、その凶悪に可愛すぎる攻撃は!? 静まれ心臓、し〜ず〜ま〜れ〜!
(「いかん、バジリスクより先に由香に殺されてしまう……」)
「じゃ、行ってきます」
 バクバクする心臓を抑えている間に由香は行ってしまった……ルークが気付いたのは、由香がいなくなってしまってから、だった。
「仕方ねぇ、先生の手伝いでもするか」
 とはいうものの、そこはそれ。ルークである。
 由香が心配で心配で心配で心配で∞。
「だーっ、じっとしてるのは性にあわねーんだよ!」
 我慢の限界はアッと言う間にきてしまうわけで。
「ルークくん、気をつけてね」
 雛子に見送られ、ルークは保健室を飛び出した。

「騒ぎが起きていると聞いて、蒼空学園を訪れたのだけれど……まずい時に来てしまったわね……」
 紫光院 唯(しこういん・ゆい)はベッドの上のメリッサ・ミラー(めりっさ・みらー)を見つめ、強く唇を噛みしめた。
 訪れた事を後悔はしていない。だが、自分がここに来なければ、メリッサはこんな事にはならなかっただろう。
「これでは、力を求めるなんて言っていられない……それどころなんかじゃない。全身が石化してしまったら、手遅れなんでしょう?」
 既に硬くなってしまっている足を撫でながら、湧きあがる恐怖に耐える唯に、メリッサは緩く首を振った。
「力を得たいと唯は言います。けれど騒ぎを聞いてここまで出向いてきたのは、きっと、困っている人達の力に少しでもなりたいと思ったからなのだと、わたくしは知っています」
 けれど、一緒に来た自分が油断してしまった……それが申し訳なかった。
(「契約したのは確かに、亡くしたあの子に似たメリッサに何かを感じたからだったわ。でも今の私にとってメリッサはもう、二度と失いたくない大切な存在なのよ」)
 そんなメリッサの気持ちが痛いくらい分かって、唯には愛しさと決意とがあふれた。
「悲しんで、別れを座して待つなんて出来ない。止められる方法があるのなら、私は何だってやってみせる」
 立ち上がり宣言する唯に、再びメリッサは頭を振った。
「唯の想いは嬉しく思います。わたくしだって、唯の事が何よりも大切ですから。でも、わたくしのために唯の命を危険に晒すのは嫌なんです。だからわたくしの体の事など……」
 けれど、そこまでだった。
 気にしないで下さいと、そう言えたら良かったのに。
 唯の顔をみていたら、それが嘘だと、本心ではないのだと気付いてしまった。
「いえ、嘘……ですね。わたくしは、唯と一緒に生きていたいと願っています。強く強く」
 ポロリと静かに涙をこぼすメリッサに、唯は唇を寄せた。
「絶対に何とかするから、信じて待っていて」
「はい……はい、信じています、唯……」
 唯の命を受け取りながら、メリッサはせめてもと祈りながら、パワーブレスを贈ったのだった。

「落ち着け、大丈夫だ……、今までだって色々あったが、何とかしてきただろ」
 十倉 朱華(とくら・はねず)は組み合わせた手が小刻みに震えているのに気付き、動揺した。
 倒れたウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)の姿は、普段動じない朱華にそれほど衝撃を与えていた。
「とにかく、僕の生命力を……」
 横たわるウィスタリアに顔を寄せた朱華。
 だが、そっと伸ばされた指先が、朱華の唇を止めた。
「ウィス?」
「朱華。貴方は、私一人を助けて、あぁ良かった、と心から笑えるような人ですか?」
「!?」
 ガツン、と頭を殴られたような気がした。
 その言葉は朱華が今やるべきことが何なのか、を示してくれた。
 ウィスタリアと契約した時の事を思い出させてくれた。
「契約者としての力を得た時、思ったんだ。折角得た力だから、誰かに『ありがとう』って言われるような使い方がしたいな、って」
 そして、今も。ずっと抱き続けている。
「今、僕に出来る精一杯は、目の前のウィスを一人、助けることか?」
 自分への問いかけ。答えは考えずとも、出た。
「否、だ。僕は僕の目の届く範囲、手が届く範囲の皆を助けたい。出来るだけたくさん、僕に出来る精一杯の力で」
 だから今、命を渡す事は出来なかった。
 この命は皆を救う為にあるから。
「陸斗くんは、何か心当たりがあるようなことを言っていたから、僕もその後を追うよ。そもそも、陸斗くん自身の体調も、まだ戻りきってはいないようだから、その心配もあるしね」
「あの、よろしくお願いします」
 陸斗の名前に反応したのだろう。
 薬を持ってきた雛子が深く頭を下げた。
「うん、任せて。ウィスも……辛いと思うけど、少しだけ待ってて。僕が必ず、助けるよ」
「はい、信じてます」
「……大丈夫ですか?」
「あ、気付きました?」
 送り出し際、朱華にパワーブレスを掛けたウィスタリアは、その背中が消えたドアを見つめながら、口を開いた。
「朱華はほんの少し大人びて見えますが、まだ17歳の少年です。故郷の家族と離れ、未知の土地で生活するに当たって、私を心の支えとしてくれているのは、嬉しいことでもあります」
 ですが、とウィスタリアは穏やかに続けた。
「私を助ける為だけに朱華の生命力を使ってしまうのは得策ではありません。朱華は、もっとたくさんの人を助けられるだけの力と器を持った人間だと、そう私は信じていますから」
「ごめんなさい、朱華さんやウィスさんや陸斗くんを危険に遭わせて……私だけ何も、出来なくて」
 項垂れる雛子に、風間先生が何か物言いたげな眼差しを向け……結局、口を噤んだ。
 視界の端に映ったそれが妙に気になりながら。
「そんな事ないですよ。雛子さんは頑張ってくれています。もし一つお願い出来るとしたら……どうか笑って下さい」
 ウィスタリアは励ますようにそう、微笑んだ。