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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』

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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』
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第5章 一筋の光明
「忘れないで……あの時と同じ力、あげるね」
 【あおぞら隊】蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は、はにかんだ笑顔でアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)にそっと口付けた。
 アインが『心の闇』に耐えられるよう、心を込めた『おまじない』だ。
「大丈夫。アインはこんなにもあったかいんだもん。闇になんか支配されたりしないよ」
 贈られたキスをアインは不思議な気持ちで受け入れた。
 足元からせり上がってるような、昏い何か。
 けれど、朱里の温もりはそれらを吹き飛ばしてくれる。
 その温もりで守ってくれる。
 だから。
「僕は大丈夫だ、朱里。朱里は僕が必ず守るから……絶対に夜魅を助けよう」
「うん!」
「私はね、怒っているのよ」
 朱里達と【あおぞら隊】を組む小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は対照的に、ムッと口元を引き結んでいた。
「プールの水蛇、図書館のサラマンダー、そして花壇のジャイアントアント、毒虫、バジリスク……。夜魅は化け物を使って、これまでたくさんの人たちを苦しめてきた。だから私は夜魅を許さないわ。……みんなに謝るまではね」
「まったく、素直じゃないのですから」
 美羽のパートナーベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、小さく苦笑をもらす。
 何だかんだ言って結局、美羽も夜魅が心配なのだ。
「夜魅さんを生贄になんて絶対にさせません。必ず一緒に帰ります、まだお話したいことが沢山あるんですから」
 輝樹がレキが皆が作ってくれた道、アリア・ブランシュ(ありあ・ぶらんしゅ)は必死に進んでいた。
 その背を守るのはリュート・シャンテル(りゅーと・しゃんてる)
 アリアには似つかわしくない強行軍であり、戦いに満ちたこの場所である。
 だがもう、リュートはアリアを止める事はしなかった。
 ただひっそりとつき従い、見かけた生徒達の治療を簡単ながら手がける。
「夜魅さん!」
 黒い風が吹き荒れる中、アリアは必死に声を張り上げた。
「私にとっては夜魅さんが何者であろうと関係ないです。私は『夜魅さん』の友達なんです!」
 意識を少しでもこちらに向ける事が出来れば、とひたすら祈りつつ。
「最初に会った時の寂しげな夜魅さんも、災いと呼ばれる夜魅さんも、全て含めて私はあなたが大好きなんです!」
 声を限りに叫ぶ。
 届けたい伝えたい、だから。
「だからお願い、怖がらないで下さい。あなたは愛されているから、必要とされているから。心の闇になんて飲まれちゃ駄目です。私達を信じてください!」
「そうだ、逃げるな! 化け物じゃないと思うなら精一杯抵抗したらどうだ?」
 よろけそうな事にも気付かぬほど必死なアリアを支えつつ、リュートもまた声を叩きつけた。
「仮に君が誰からも愛されない化け物だというのなら、こうして君のことを助けに来たアリアや他の人達は何だっていうんだい?」
 そこにフラフラと現れるツインテールの少女。
「おねーちゃん!」
「……! 避けろ!?」
 いきなりリュートに抱きつこうとした少女に気付き、咄嗟にレイディスはリュートを突き飛ばしていた。
 直後、少女を中心にサンダーブラストが降り注いだ。
「あらら、敵の一人も巻き添えに出来ないなんて、使えないわねぇ」
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)は黒こげになったパートナーロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)を見下ろし、憮然と吐き捨てた。
「まぁ、まったく使えないってわけじゃなさそうだけど」
「……操られてる、ってわけじゃなさそうだな」
 何とか身体を起こすレイディスに、リュートが急いでヒールを掛ける。
 直撃は何とか避けたものの、流石にダメージはゼロではない。
「ハッピーエンドなんて面白くないでしょ? 私は悲劇を望むわ」
 影使いは攻撃してこない、予想通りだった。
「ここまでの状況で全て守れるなんて幻想を抱いてる奴らが、あたしは気に食わないだけ。あんた達に現実って奴を教えてやるわ」
 メニエスはチラと舌で唇を舐めると、操られている生徒達を盾に、ファイアストームを放った。
 アリア達を邪魔する為、悲劇で幕を下ろす為に。
「何が幻想ですか、私は……私達は絶対、夜魅を災厄から斬り離して幸せにさせます! 普通の女の子に戻します」
 その炎を光条兵器エターナルディバイダーで切り裂きながら、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)はメニエスをキッと睨みつけた。
「夜魅……夜魅は災厄と長い間共にしていたけど、その魂を引き裂かれたりしなかった。つまり夜魅の心はそれだけ強いということなのよ」
 メニエスの攻撃を切り裂き、反撃しながら、コトノハは夜魅に語りかけた。
「だから夜魅は『災厄』なんかに負けない、大丈夫なんです。本当の化け物は夜魅を利用している影使い……夜魅は『人間』なんです」
「そうだ、その子を解き放て! その子は『人間』だぞ!!」
 コトノハのルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)の言葉。
「ははははは、皆さん面白い事を言いますね……これは実に滑稽だ」
「……黙れ。うるせーわよオッサン!」
 その直ぐ横で、神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)の怒声が響いた。
 険しい顔なのは、パートナーのエマ・ルビィ(えま・るびぃ)も同じだ。
「急にわいて出てきてベラベラ勝手なことほざいてんじゃねーわよ! 友達を生贄になんかさせないわ! あんたにとって、あたしたちはただのガキでしょうけど、子供の無謀パワーなめんじゃないわよ!!」
 気風の良い啖呵と共に、爆炎波が放たれる。
 が、それをヒラリとかわす影使い。
 合わせるように、メニエスの手から嵐のような炎が放たれる。
「パートナーと契約して普通の地球人よりはちょっと強くなったかもしれないけど、オレの力なんて微々たるものだ。あぁ、オレだって分かってる」
 アリアや朱里を炎から庇いながら、渋井 誠治(しぶい・せいじ)は「でも」と顔を上げた。
「でも、どんな困難が待ち受けてようとも、オレは決して諦めない。そして、仲間を友達を信じてる。みんなでハッピーエンドを掴み取ろうぜ!」
 周りを皆を励ましながら、自分に夜魅に、禁猟区をかける。
「ほら、あの日の夜の事を思い出せよ。みんなでピクニックした時のこと! みんなで食べたり飲んだりゲームしたり遊んだりしたろ?」
 こんな時でも、否、こんな時だからこそ、紡いだ絆はその記憶はキラキラと鮮やかだと思うから。
「またあんな風に皆で遊ぼうぜ。あと、全部終わったらラーメン食いに行こうぜ」
 夜魅に届けばいい、あの時の事を、あの時の気持ちを思い出してくれればいいと、誠治は願う。
「オレたちのことを信じろよ。オレたちも夜魅の事を信じてる……友達ってのは信じ合うものなんだよ」
 友達。
 そう、あの日誠治は「夜魅さん」なんて呼んでた。
 だけどもう、呼び捨てにする……だってもう、友達じゃん?
 だから、だからさ、夜魅。
「『何とかなる』だなんて思ってない。オレたちが『何とかする』から、夜魅はオレたちの事、友達の事信じてくれ」
 夜魅の口元が微かに動く。
 何か、言葉を紡ごうとし。
「はははっ、信じる? 信じる!、ですか! 良い言葉ですねぇ」
 けれど、それを遮るように影使いが嘲笑した。
「夜魅にいろいろ吹き込んで、封印を破壊させようとしたのはあなたなのよね。もしかして、花壇にパラミタウサギをけしかけたのもあなたなわけ?」
 影使い(達)を睨みつけながら、美羽は問うた。
 声に滲む、抑えきれない怒り。
「おや、中々頭の良いお嬢さんですね。仰る通り、いやぁ色々と苦労しましたが、今ようやく報われるというものです」
「そう……」
 美羽の声が地を這う。
 傷ついた人たちがいる、傷ついた命がある……それは美羽にとってどうしても許せない事だった。
「あんただけは……あんただけは絶対許さないわ!」
 刃渡り2メートルの大剣……光条兵器を構え、叫ぶ。
「今回ばかりは同感です」
 それは普段ストッパー役であるベアトリーチェも同じだった。
 美羽が影使いとの戦いに専念出来るよう、バックアップの体制に入りつつ、その表情は険しい。
「やっちゃって下さい、美羽」
「了解! どれが本物か、全部倒してみれば分かる!」
 美羽は巨大な剣から、チェインスマイトを繰り出した。
「おやおや、元気なお嬢さんですね。ですが……あなたに私が捉えられますかな?」
 腕……否、影が伸びる。
 懸命な美羽を挑発するように、翻弄するように。
「あぁ可哀相に……こんな化け物に同情などしなければ、傷つく事もありませんでしたのに」
「!?」
 ビクリと大きく震える夜魅。
 瘴気と毒蝶と……アリア達の声は遮られ、影使いの声は届く。
「そーいう寝言は、永眠してから言いなさい!」
「イルミンスール魔法学校、小鳥遊 律(たかなし・りつ)。主命により助太刀いたします」
 だが、斬り込むように降り注ぐ声と……光。
 空飛ぶ箒にまたがったアリシア・ミスティフォッグ(ありしあ・みすてぃふぉっぐ)とパートナーの律だった。
「あんた、そんなダサい男の言葉に何時まで惑わされてんの!」
 嘲笑する影使いへと攻撃を仕掛けつつ、アリシアは苛立った声を上げる。
 律はそんな主の盾となり、蝶や影の攻撃を受けながし、撃破する。
「あんたを含めて全員ハッピーになる為に、今も命張って戦ってる奴等が居るのよ! そいつらの声を聞きなさい!」
 アリシアには見えている。
 アリアの授受のコトノハの……皆の姿が。
 その声が聞こえている。
「みんなハッピーって言ったけど……あんたは要らないのよ!」
 いつも余裕を失わないアリシアだが、今度ばかりはマジ100%だった。
(「今回ばかりは、あたしも命張らないとカッコつかないわね)」
 だからこそ、気付いた。
 光精の指輪の光魔法、それが不自然に反射した事に。
「!? 何か壁が……ちょっとそこのツインテール!」
「こっちも認識した……行くよ!」
 美羽は大きく剣を振りかぶる。
 カシャァァァァァン
 澄んだ音を立てて、夜魅を覆っていた影の幕が砕け散る。
「……頑張んなさい、夜魅。あんたは一人じゃないわ」
 反動に吹き飛ばされながら、アリシアはただ夜魅を見つめ囁いた。