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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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第2章 笑顔のクリスマス

 ヴァイシャリーの北、イルミンスールの森に近い場所に白百合団のミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)の家の別荘がある。
 長い間使われていなかったこの別荘は、不良達の溜まり場となっていた。
 それを知ったミルミは友人達と共に、誠心誠意不良達を説得し、共に古くなった別荘を解体して友情を築いたのだった。
 ミルミの祖先であるジュリオ・ルリマーレンはシャンバラ古王国で女王に仕えていた騎士であり、後にヴァイシャリーに移り住み、女王の親族とヴァイシャリーを守ったと伝えられている。
 そのジュリオと共に戦った仲間である騎士2人が子供達と一緒にこのルリマーレン家の別荘の地下で眠りについていた。
 熱い友情で結ばれたミルミ達の救いの手により、騎士と子供達は長き眠りから覚めたのだった。
 ……なんだか物凄く脚色されているが、そう一般の百合園生には伝えられている。

 ともあれ、その別荘跡地には新たな別荘が建ち、会堂の建設や周囲を農園にすべく整備も進められている。
「食べちゃダメです!」
 芹沢 睦月(せりざわ・むつき)がひょいっと皿を取り上げる。
「何じゃ、ケチケチせんでも良かろうに……」
 出来立てのクッキーに手を伸ばしたブルメール・トラスティラ(ぶるめーる・とらすてぃら)は、何もつかめなかった手を握り締めて不満そうに口を尖らせる。
「で、でも、良かったら食べてみてっ」
 作り主であるミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)が、一枚ブルメールにクッキーを差し出した。
「料理……あまりやったことなくて。そ、それでもパートナーに少しは習ったから、多分このクッキーくらいは、ちゃんと出来てると思うんだ」
「うん、まあまあじゃな。ちゃんと焼けておるし、甘くて子供うけする味じゃのう〜」
 クッキーを試食したブルメールが感想を言い、ミネッティはほっと息をつく。
「それにしても……」
 睦月は皿をテーブルの上に置いた後、自分が作った料理に近付いて感激のあまり涙まで浮かべる。
「奇跡が起きた……」
 鍋やフライパンの中には、ナポリタン、カルボナーラ、更にはトマトソース、ヴォンゴレ、ペペロンチーノ、アラビアータまでずらりと並んでいる。
 睦月は料理をしても、何故かナポリタンのパスタばかりになってしまう。
 ケーキを作ろうとしたのに止められて、しぶしぶ得意というか、それしか出来ないパスタを作っていた睦月だけれど。
 クリスマスだけあり、奇跡が起こったのだ。
「スープも出来たぞ」
 ブルメールが煮込んでいたスープの味見をしてにやりと笑う。
「それでは、運びましょう」
 しばし感動していた睦月だが、子供達が待っているのでそろそろ盛り付けてもっていかなければならない。

 ささやかなパーティが開かれる大部屋では別荘で暮す子供達――昆虫のような羽を生やした珍しい種族の子供達がパタパタと飛びまわっている。
 飾りを体に巻きだしたり、ぶつけあったり、走り回って飛びまわって、小突き合いを始めたり。
「めっ」
 喧嘩を始めそうになった子供の元に、どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)が駆けつける。
「料理がテーブルから落ちちゃったら、食べられなくなっちゃうよ」
「はーい」
「はあ〜い」
「うん、それじゃ一緒に食べようか」
 そして、仲直りさせた子供達を連れて、並んで座ってお菓子を食べたりお菓子を食べたりお菓子を食べたりしだす。
「お菓子だけじゃなくて、ご飯も食べましょうね」
 ふぇいと・てすたろっさ(ふぇいと・てすたろっさ)が微笑みながら、パスタを引き寄せていく。
「さて、こっちもこれで完成ね!」
 クッキーを運んだ後、ミネッティは子供達を手伝って部屋の飾りつけの仕上げをした。
「お菓子お菓子〜」
「おねぇちゃんのクッキーも食べていい、食べていい?」
 飛びまわったり、取っ組み合いをしたり、子供達は部屋の中で楽しそうに過ごしている。
「うん、まだまだ料理たくさん来るから、お菓子だけでお腹一杯にしないようにね」
「はあーい」
 子供達がミネッティの焼いたクッキーを美味しそうに食べる様子を、ミネッティは微笑みながら見守る。
「お皿に少しずつ乗せて、一緒に食べよっか」
 1人でぽつんとしていた子供を抱き上げて、ミネッティは膝の上に乗せて椅子に座った。
 大きな皿に、ケーキにクッキー、唐揚げやポテトを乗せていき、女の子と一緒に「美味しいね」と言い合いながら、食べていく。
「わーい、クリスマスクリスマスだよー♪」
 子供達に混ざって、睦月のパートナーの芹沢 ミルキー(せりざわ・みるきー)もはしゃいでいる。右手にクッキー。左手にはドーナツを握って、どちらから食べようかと目を輝かせている。
「はい、どうぞお嬢様」
 睦月がパスタを取り分けて、子供達に配っていく。
「飛びまわらないで、着席して下さいね」
 飛んでいる子を、座らせて、料理を盛って並べて、睦月は一生懸命世話を焼いていく。
「睦月よ、折角のパーティじゃ。楽しもうではないか」
 睦月に話し書けるブルメールと睦月の間に、ミルキーがひょっこり入る。
「遊ぼー。遊ぼー」
「なんじゃ、小娘。わしは睦月と話してるんじゃぞ」
「あれ食べよー。遊ぼー!」
 ミルキーは、くいくいブルメールと睦月の腕を引っ張る。
「大人しく座ってて下さい、2人とも……」
「睦月も座って、美味いスープでも飲まんか?」
「遊ぶのー」
 世話をして回る睦月に、ブルメールとミルキーは取り合うように付き纏う。
「睦月さん、人気者だね」
 ふふふっと笑ったのは、会場に顔を出した百合園女学院の校長の桜井静香(さくらい・しずか)だった。
「あ、桜井校長ー!」
 ミネッティが抱えていた子供のちっちゃな手を掴んで、左右に振った。
 微笑ましげに笑みを浮かべながら、静香が近付いてくる。
「ええっと、こんばんはっ。白百合団員のミネッティ・パーウェイスです」
 ミネッティは子供を抱きしめたまま立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。
「こんばんは。素敵な会を開いてくれてありがと。僕も少しだけだけど、楽しませてもらうね」
「はいっ。あ、クッキー、あたしが焼いたの。教えてもらって作ったから、不味くはないと思う」
 近くで見ても可愛いなぁ……と思いながら、ミネッティは静香にクッキーを差し出す。
「ありがと」
 静香はミネッティの隣に腰掛けてクッキーを微笑みながら受け取った。
「どうぞ」
 着席した静香のカップに制服姿の姫野 香苗(ひめの・かなえ)が忙しなく紅茶を注いでいく。
「席についてね。走り回ったり、飛びまわったりすると危ないよ」
 注ぎ終わると、香苗はブルメール達や子供達に声をかけながら、睦月同様世話をして回る。
「からいからーい、お化けスープあるよ〜」
「したがいたいよー。お水お水ー」
「あたしは、これくらい平気だよぉ。おとなの味だよねぇ」
「ばつゲームにつかお〜」
 笑い声や大きな声を上げる子供達。
 お菓子を取り合ったり、喧嘩を始める子達もいて。
 香苗はバタバタと走りまわって、世話をしながら大きな大きな溜息をつく。
「はいはい、子供達の面倒見てね」
 親しげに話している百合園生と他校生の男子生徒の間に割り込んで、香苗は男子生徒の方にトレーを押し付ける。
「お姉さまはお席に着いていて下さい。プレゼントをプレゼントをお持ちしますからーっ」
 カップル成立は断固阻止しなければならない。香苗は百合園のお姉さまに近付く害虫を許しはしない。
「だって、お姉さまは香苗のものだから……」
 素敵なお姉さまと2人きりのクリスマスパーティをほわ〜っと妄想してみるものも、
「いたっ」
 飛びまわる子供達が頭にぶつかってきたことで、夢から覚める。
 妄想すら妄想すら許される状況ではなかった。
「席に着いてね。ジュースはリンゴがいい? オレンジがいい?」
 それでも、香苗は頑張って笑顔を作って、子供達の世話をしていく。
 全ては素敵なお姉さまに認められ、リンゴよりオレンジより香苗がいいと言ってもらうために!
「こちらのお饅頭もお食べやす」
 シャンバラ教導団のイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)が袋から出した饅頭をテーブルに並べていくと、すぐに子供達が手を伸ばし、自分の分を確保していく。食べられる食べられないはともかくとして、自分の前に食べ物をたくさん並べることに喜びを感じている子もいるようだった。
 饅頭を出したイルマ自身も、子供達と同じようにたくさんの料理やお菓子を引き寄せ、幸せそうに笑みを浮かべる。
「麿にはお茶をおくれやす」
 執事風の男性に声をかけると、近くにいた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が「いえ、それがしが参ります」と、その男性に礼をしてイルマに近付く。
「手伝おうか? あんまり役に立たへんやけど」
「いや、食事の準備などは終わっていますので」
 イルマは玲のパートナーだ。
 玲はイルマのカップに紅茶を注いだ後、周囲の百合園生、子供達のカップにも紅茶を注いでいく。
「ティーポット、ここにおいておいてくれれば、麿も周りの子くらいには注げるし」
「お願いします。それがしは仕事を終えた後、戴きますので」
「玲と一緒に楽しめへんのは残念やな」
 そう言うイルマにティーポットを預けて、玲は先ほどイルマが声をかけた相手、ルリマーレン家の執事の元へと戻る。
「執事はウェイターとは違いますが、こういう場では世話係のように見えてしまうようですな」
 ルリマーレン家の執事、ラザン・ハルザナクにそう話しかけると、ラザンは軽く笑みを浮かべて頷いた。
「玲様はお若いのにずいぶんとしっかりしていますね。私がお教えすることなど何もありません」
「それでは見て学ばせていただきます」
 玲は執事としてのたち振るまい等を、ラザンから学びたかった。
「私の役割は、概ねミルミ様の後に立って、必要時にフォローをしているだけですが。っと」
 そのミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)に、妖精の子供が衝突しそうになり、ラザンが手を伸ばして妖精の子供をキャッチする。
 ミルミは全く気付かない。主人が気付かない細やかなサポートも執事として大切な役割なのだ。
「なるほど。仕える主を得た際には、それがしも機敏に機転をきかせた行動をしたいものですな」

「子供達、楽しそうですぅ……」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は少し離れた席で、はしゃいでいる子供達の姿を眺めていた。
「お菓子、お土産にもらってかえろうね」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、手作りのマドレーヌを口に運ぶ。程よく甘て、とても美味しかった。
「もう、ご自分で食事を摂れるくらいには、回復されているようですし」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、紅茶を飲んで微笑んだ。
 メイベルとセシリア、フィリッパの3人は、別荘に出発する前に、早河 綾(はやかわ・あや)が入院している病院と、両親の元へ面会に出かけていた。
 綾とクリスマスパーティが出来ないかと思い、交渉したのだけれど許可は下りなかった。
「このマドレーヌやチョコレートは少しなら食べられそうですぅ。でも、生クリームたっぷりのケーキは無理そうですねぇ〜」
 メイベルは綾へのお土産分として日持ちしそうなお菓子を皿に集めていく。
「お正月には特別メニューで、新年のお祝いできるといいね」
「気持ちの方も少し落ち着くと良いのですけれど、ね……」
 セシリア、フィリッパはそう言って、メイベルと共に微笑した。
 だけれど、それは難しい。
 メイベルもセシリアもフィリッパも、綾の回復を望み、彼女と彼女の家族を案じているけれど……。
 多分彼女の所為で、犠牲になった子もヴァイシャリーにはいる。
 白百合団の団長桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)は、彼女に対して寛容だけれど、副団長の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)の態度は厳しく、団員が親身になって見舞いに行くことを快く思っていないらしい。
 何より、綾自身皆と会うことを望んではいないようだ。
「それだけ、大きなことで……それだけ彼女自身も辛い思いをしてきたってことですぅ」
「だよね」
「……難しい問題ですわね」
 メイベル、セシリア、フィリッパは顔をあわせて小さく吐息をついた後、それぞれ好みのケーキを引き寄せて戴くことにした。