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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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「その事件のパラ実方面の対策として、神楽崎優子さんが設けられた分校についてご報告してもよろしいでしょうか?」
 キャラが資料を手に発言をする。
「お願いいたします」
 鈴子の言葉を受け、分校長の代理を務めているキャラが現状の報告を始める。
「現在、1日に喫茶店に顔を出す生徒の数は100名ほどです。ただ、その殆どが食事目的や顔出し、挨拶程度の滞在です。その他の時間は各々好きに活動しているようですが、その行動の把握はできていません。分校で乱闘や大きな問題を起こした生徒は今のところいません。周辺に店や民家もありませんので、周辺住民とのトラブルも起こっていません。まだ設備が何も整っておらず、宿もありませんし、喫茶店の収容人数も30人ほどであり、客の少ない時間であってもカウンター席は開けておかなければならず、配下のパラ実生全員を室内に収容することは到底無理です。修繕や設備に関しての計画もこれからといったところです」
 現状の報告の後、キャラは資料のページを捲り、問題点についての説明に移る。
「修復と人心収攬を急いだ為、分校生の身元を根掘り葉掘り聞くような身元調査には至れていません。また、リーダーシップある分校生人材が不足しており、現役員が奔走するも限界があります。役員、ボランティアの継続募集が必要です。あと、分校設立趣旨の一つと聞いている「対キマク/闇組織前哨拠点化」は逆襲により地域住民を巻き込む虞があるため、現在は伏せています。慎重な対応が必要と思われます」
「また、四天王及び新分校長の威容を目撃していない者には、畏服の念が足りない者がござります。顔出しの頻度を高め、武略を見せ付けるなどして、個人的な威信を高めていただきたくござります」
 キャラの言葉に、嵩が付け加える。
「闇組織ぜんしょ、拠点化? どういう意味?」
 不思議そうな顔で、静香が鈴子に目を向ける。
「あ、そこまで本格的なことは優子も考えていないと思います。ただ、パラ実生や契約者が集まっていれば、そこを通過して百合園に向かおうとするパラ実生を抑えることができるのではないか、その程度の考えだと思います。問題点は優子に伝えておきますが、本人が取り仕切ることは難しいため、役員に関しても任されている方々……キャラさんや亜璃珠さん達で任命し、運営していただくことになると思います。お聞きした限りでは、一番の問題点は分校としてはその場所が狭すぎること、農家の方々の完全な協力が得られていないことにあると思います。喫茶店を増築させていただいて100人ほどのパラ実生が授業を受けられるスペースをまず作らなければならなそうですね。優子本人は、白百合団に欠かせない人物ですのでやはり滅多に顔を出すことは出来ません。だけれど、新年のご挨拶には伺うと言っていますので、その辺りの交渉は本人が行なうと思いますわ。分校で威信を示せるかどうかは解りませんけれど……」
「役員からの意見では、こちらの別荘を占拠していた不良の頭目であるブラヌ・ラスダーを登用しようという意見が出ていますが、百合園側としてはいかがでしょうか?」
「ブラヌ、さん……あ、ええ、はい……。分校長や分校長に順ずる立場じゃなければ、自由に役員は決めていただいて構いません……」
 キャラの問いに、鈴子は軽く憐れむような目を見せた。
 ブラヌは現在神楽崎分校に通っている。強制的に任命すれば役員でもなんでもしそうではあるが、彼はパラ実の猛者達に比べれば小物で威厳もない。
「あとは、校歌の設定の希望も出ています」
「校歌も作詞作曲ができる方がいれば、皆様方で作っていただければ助かります。資金があれば、音楽家に発注することもできますが、そういった資金繰り、発注という行為も全て分校役員の方々にお任せすることになります。少なくても百合園は学園として援助も干渉もしないものとお考え下さい」
「では、学院で奔走してらっしゃる優子さんにお伝え下さい」
 続いて、分校長に就任する亜璃珠が、方針を述べ始める。
「まずは分校長、及び生徒会の経営方針としては、神楽崎優子の配下として『犯罪行為に手を染めず自活の出来るパラ実生の育成』を目標にしたいと思います。主な手段としては、農園でのアルバイト、分校での学習の他、喫茶店の経営補助、理想的には分校生自らが風紀管理や犯罪取締り等の自警団的活動も出来ればと思っています」
「なんか、普通の農業高校みたいだね。パラ実生もそうして普通の学校のようになったらいいよね」
 静香が素直な感想を口にする。
 鈴子は優子に伝えるため、メモをとっていく。
「それから、これは校長や団長へのお願いなのですが……。衛生環境や交流面で、百合園の生徒にも助力を願いたいのです。先に述べたものへの参加のほか、出来れば今後予定されている課外活動にも分校生を参加させて欲しいんです。これには相互理解のみならず、外での生活に不慣れな百合園生へのサポートや護衛といった思惑も含みます。ただ、神楽崎分校の通学には前科を問わないとされています。今後組織の内通者が現れる可能性も否定出来ません。そのため、同行者の審査も入念に行ないたいのですが、一応百合園生にも注意しておいて戴きたく思います。分校生が問題を起こすのならこちらで責任を持って処分いたします。個人的には自衛の手段や偏見の解消としてパラ実との友好関係を築く事も重要だと考えていますわ」
 即答が出来ず静香と鈴子は考え込む。
「組織メンバーの潜入の心配もありますからね。分校でも定期的に役員会を開いて、情報交換を行なった方がよろしいかと思います。問題のある人物や、危険と思われる人物についても……」
 ロザリンドが亜璃珠に提案をする。
「そうね。その辺りも分校に戻ったら役員達と決めていくわ」
 そう答えてロザリンドの提案を紙に記した後、亜璃珠は静香と鈴子に視線を戻す。
「他の環境の制約を受けない協力者の存在は重要よ。静香さんも日頃から、皆分け隔てなく仲良くしたいと仰られていたはずですわ」
 亜璃珠がそう言って、静香に目を向けると、静香は決心したかのように首を強く縦に振った。
「そうだね。仲良くするためには、そう、一度課外活動として分校に手伝いに行くべきだと思う!」
 静香の提案に、亜璃珠も鈴子も少し驚いた。
「今はまだ、何も整っていませんので」
 亜璃珠がキャラを見ると、キャラが首を縦に振る。分校の状況は先ほど説明した通りだ。
「それじゃ、2月頃に。皆で行って、分校のお手伝いをして、守ってもらえるようお願いしよう。だって、護衛してもらっても対価を払えないわけだから、僕達も分校設立のお手伝いくらいしなきゃね!」
 静香の言葉に、鈴子が少し困った顔で吐息をつく。だけれど、反対はしなかった。
「私も、非常勤でよろしければ顧問として継続して協力いたしますよ。プレゼンは本業ですから」
 分校長代理を務めていたキャラがにっこり微笑む。
「うん、お願い! ……って、優子さんの分校だから僕がお願いするのも変だけど。でも、優子さんは僕が校長を務める学校の生徒だから、ね」
 静香も可愛らしい笑みを浮かべ、会議室が僅かに和んだ。
「さて、分校の話が終わったのなら、そろそろ騎士のお姉様方……マリル、マリザさんのお話をお聞きしたいでござる」
 薫が笑みをマリルとマリザに向ける。
「この別荘の地下で眠ってらしたとか? その場所に、離宮への封印の1つがあるのでござろう?」
 薫の言葉に頷いてマリルが説明を始める。
「ヴァイシャリーには、私達の時代、女王の親族が住まう離宮がありました。その離宮にも鏖殺寺院の手は伸び、占拠されかかってしまいました。そのため私達、離宮を守っていた騎士達は、離宮一帯を地下に封印することにいたしました。鏖殺寺院の兵器を倒すだけの力がなかったのです」
「地球人の方に助けていただける今なら、離宮に残された鏖殺寺院の兵器に対抗できるかもしれません。封印を完全に解く必要があるかどうかは、まだ判断できませんが、解ける状態にしておくというソフィアの意見については、私達も賛成です」
 マリルの後に、マリザが言葉を続けた。
 封印を解く必要性について百合園に説いたのは、同じく離宮を守っていた騎士の1人である、ソフィア・フィリークスという女性だった。マリルとマリザは彼女とはまだ再会していないようだ。
「封印に関して、調べてきました」
 イルミンスールのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は隣に座る高月 芳樹(たかつき・よしき)に目を向ける。
 頷いて、芳樹が話しだす。
「イルミンスールの大図書館で調べたんだ。離宮の封印に関しての資料は残ってなかったが、古代からの封印術については出来る限り調べて、纏めてみた」
 魔法的なことであれば、6学園の中ではイルミンスールが一番詳しく、資料も残っている。そう考えて、芳樹は学園で封印術について調べた。
「こういったことに詳しいのは……」
「私に」
 誰に資料を見せるべきか迷うと、鈴子が手を上げた。
 資料を開いて、鈴子の前に置くと、静香とマリルが覗き込むが、静香にはよく分からないようであった。
「封印を施したご本人がいらっしゃるので、あまり出来ることはないかもしれませんが、サポートの為に同行できればと思います」
「お願いするわ」
 アメリアにマリルはそう答えて、資料に視線を戻す。
「私達が施した封印術に近いのはこれね」
 マリザが指差したのは、魔法陣と宝玉を使った封印術だった。
「この別荘の地下……私達が眠りについていた場所の奥に、私が術を施した宝玉が安置されているの。それを破壊することが私の封印を解くことに繋がるのよ」
「ただ、封印を解くと肉体、精神共にかなり消耗すると思うの。万が一の時の為に、救護が出来る方と、魔法に詳しい方が傍にいてくれると助かるわ」
「僕も同行させてもらう。自分自身の経験にもなるしな」
 マリザとマリルに芳樹が言い、頷き合う。
「それでは、今晩はもう遅いので封印は明日のお昼頃、解きに向かいましょう。お疲れ様でした」
「皆、お疲れ様。ゆっくり休んでね」
 鈴子と静香がそう皆に微笑みかけた。