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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション



校長先生と一緒

「ふふふふ、このような機会を設けていただけるとは、この明智 珠輝(あけち・たまき)、感激です」
 校長室でジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)と2人っきりになった珠輝は校長にそうお礼を言った。
 今はジェイダス校長のパートナーであるラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)もいない。
 本当に本当の2人っきりだ。
 ラドゥがいたらきっと嫉妬の嵐になっただろうから、珠輝には好都合だ。
「こんな特別な日でもなければ、私のような地味な生徒はジェイダス校長と二人きりで過ごさせていただけませんものね、ふふ……!」
 明智が地味な薔薇学生なら誰が地味じゃないんだ、と薔薇学の生徒たちがつっこみたくなりそうだが、珠輝はこの2人っきり空間に酔いしれ、両手に抱えた真っ赤な薔薇をジェイダスに差し出した。
「バレンタインにかこつけて、ジェイダス校長に日頃の想いを伝えに参りました……! 愛! この華やかな薔薇すら美しさが霞むほど、本日も麗しいです、ジェイダス校長……!」
 賞賛の言葉をかける珠輝から薔薇の花束を受け取り、ジェイダスはその中から一本抜き取って、珠輝の髪に挿してあげた。
「ジェイダス校長……?」
「今日はお前の誕生日と聞いた」
「ああ……」
 悶えそうな息を零し、珠輝は頬を染めた。
「感激です。私のお誕生日を知っていてくれるなんて……」
「今日来ると聞いて、学生名簿を見たら2月14日が誕生日とあったのでな」
「ありがとうございます。それとこれを……」
 珠輝は自分が焼いた茶道具・薔薇柄の抹茶茶椀をジェイダスにプレゼントした。
「お気に召さなかったら後で割ってください……!」
 乙女のように潤んだ瞳で恥じらいつつ、珠輝が渡すと、ジェイダスはその茶碗を眺め……急に歩き出した。
「付いて来い」
 校長室を出て行くジェイダスに、珠輝は急いで付いて行った。

 連れて行かれた先は茶室だった。
「急なことゆえ菓子はない」
 ジェイダスは珠輝の焼いた茶碗で茶を立ててくれたのだ。
「ああ、ジェイダス校長、望外の喜びです……!」
 珠輝は感激し、ジェイダスの入れてくれた茶を飲んだ。
 一緒にお茶をしたいと思っていたが、まさかジェイダスが立ててくれるとは思わなかったのだ。
 珠輝は茶を飲み干し、丁寧に茶碗を置いて、少しジェイダスに膝を進めた。
「一つだけ、私の我儘を聞いて下さいませんでしょうか。私を、抱いて下さい……!!」
「ふむ……良かろう」
 少し考えた後、ジェイダスは珠輝を抱きしめた。
「ああ……敬愛しております、ジェイダス校長……!」
 珠輝は子供のように喜んだ。
 家族と記憶を失くした珠輝にとって、ジェイダスの暖かさは何より得がたいものであったのだ。
 そして、珠輝はそのまま制服を脱ぎ、身体に巻いたリボンを少し見せた。
「せめて名前だけでも覚えていただきたい、こうやって優しく抱きしめていただけるだけでも激しく幸せだと思っていました。でも……!」
「……ふむ、良かろう」
 もう一度同じ言葉を繰り返し、ジェイダスは珠輝の希望を叶えることにした。


 一方その頃、リア・ヴェリー(りあ・べりー)ポポガ・バビ(ぽぽが・ばび)藤咲 ハニー(ふじさき・はにー)の3人は珠輝の誕生日パーティーの準備をしていた。
「兄者、誕生日!!」
 ポポガは薔薇の華飾りをたくさん部屋に飾りながら、リアたちの様子を見た。
 リアたちはビターチョコムースケーキを作っているところだった。
「別に、こんな凝ったことしなくてもいいんじゃない?」
 ハニーはチョコレートを刻みながら、リアに言った。
 元主婦だけあって、包丁の使い方が慣れている。
「そりゃ記念日が一つだけだったら、ここまでしないけれど……今日は珠輝の誕生日でバレンタインだから……」
「ふうん」
 赤い唇の端を上げて、ハニーがくすりと笑う。
「な、なんですか」
「ううんー。へー、リアリア手先器用ねー、意外と」
 照れるリアを見て笑ったまま、ハニーはリアの作ったチョコ細工をぱくっと口に入れた。
「見た目が綺麗に巻けてるだけじゃなくて、味も良くできてるじゃない。上手よリアリア。じゃ、もう一つ……」
「藤咲さん、味見は一回ですっ」
 リアにピシッと怒られ、ハニーは肩をすくめた。
「リアリア、そう怒らないでー。はい、バレンタインチョコ。機嫌直して☆」
 シンプルなハート型のチョコが差し出され、リアは驚く。
「ありがとうございます。……藤咲さん、なんだかんだ優しいですよね」
「そうよー。あたしってば優しいんだから。ほら、ポポガも」
 しみじみと感動するリアを横目に、ハニーがポポガにもチョコを渡す。
「ハニー、ありがとー!」
 満面の笑みで受け取ったポポガは、じいーっと穴が開きそうなほどにチョコを見つめ、大事そうにチョコを抱いた。
「あら、食べないの?」
「兄者来たら、食べる。今日、楽しい一日、なる!」
 ポポガは珠輝のために、すぐに食べたいのを我慢したのだ。
「えらいわね、ポポガ。それじゃ、これを、あーん」
「あーん」
 ハニーが差し出したチョコをパクッとポポガが食べる。
「あ、それは、チョコの薔薇の葉っぱの部分だったのに」
 リアは声を上げたが、時すでに遅し。
 すでにポポガの舌の上に溶けていた。
「いいじゃない、まだまだチョコはあるんだし」
「リア、ポポガ、悪いこと、した?」
「い、いや、ポポガが悪いとかじゃなくて……」
「そうよー、ポポガは悪くないの。大丈夫。あたしがそれくらい作ってあげるわよ。リアリアほどじゃないけど、それなりに作れるわよ」
 ハニーがバチンとウインクする。
「ところで、ハニーさん……」
「ん?」
「ホワイトデーのお返しが怖いですけど」
「え? お返し? ……あ、欲しいブランドバッグあったのよねー」
 サッとリアの顔に青い色がさす。
 しかし、ハニーはあははは、と明るく笑った。
「ま、それは置いておいて。珠輝もそうだけどあんた達、来年はあたし以外からも貰えるように精進なさい!」
 でも、バレンタイン生まれが側に居ると厄介よねーと続けながら、ハニーが葉っぱの部分を作り直し、リアの薔薇の形のチョコ作りに協力する。
 ビターチョコムースケーキ本体が出来上がり、リアとハニー協力の薔薇の形のチョコが載せられ、最後に珠輝の形を模した砂糖菓子が乗せられたのだが。
「うわぁ、怪しい……」
 作った当人でありながら、リアの口からは思わずそんな言葉が出た。
 だが、最後の仕上げ代表として人形を乗せたポポガは上機嫌だ。
「兄者の、人形。似てる。食べる、惜しい」
「不思議よねえ。薔薇を乗せたあたりまでは普通だったのに、珠輝を乗せただけで、何か危険な食べ物に見えてきたわ」
 ハニーもまじまじとケーキを見入る。
 部屋の飾りつけも終わり、後は珠輝を待つだけだ。
「兄者、誕生日のこと知らないフリしたら、寂しそうだった。ポポガ、ちょっと心、チクチク」
「でも、その分、帰ってきたら喜んでくれるよ」
 リアの言葉に、ハニーがうんうんと頷いた。
「珠輝もあたしらに祝ってもらえて幸せな地球人よねー。今頃クシャミでもしてるんじゃなぁい?」
 その頃、珠輝は本当にクシャミをしているのだが……なぜ、クシャミをしたのか、このときのリアたちはまだ知らない。