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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
ホワイトバレンタイン ホワイトバレンタイン ホワイトバレンタイン ホワイトバレンタイン ホワイトバレンタイン

リアクション

「おいしーい!」
 リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)は連れてきてもらったレストランのメインディッシュを食べ、ニコニコと笑顔を見せた。
「それは良かったです」
 連れてきた音井 博季(おとい・ひろき)はうれしそうに笑顔を見せ、リンネの食べる様子を喜んで見た。
 少し豪華なお昼を食べた2人は、その後、映画館に向かった。
 魔法関連のファンタジーSF映画がやっていることのことで、リンネが好きそうかなと思い、博季はその映画を選んだ。
 映画館から出ると、リンネは興奮気味に言った。
「楽しかったね! やっぱり魔法があんなふうに活躍するっていうのが見たいな〜」
 魔法の復権を目指すリンネとしては、楽しくもあり、羨ましい映画だった。
 リンネ自身が単純に強大な魔法を使ってみたいというのもあったが、魔法使いはいまいち不遇だ。
「そうですね。やはり未だにパラミタでも、魔法よりも剣など武器の方が有利な面が多いです。もっと魔法が派手に活躍するところがあるといいのですが……」
 博季はそう話しながら、リンネを公園に誘った。
「夜の公園がライトアップされているそうなので、いかがですか?」
「あ、でもそんなに遅くなるとまずいから。リンネちゃん、もう今日はココで失礼するよー」
「おや、それは残念です」
 博季はそう言いながら、リンネをイルミンスールの部屋まで送った。
 そして、リンネに日頃の感謝を込めて、魔導書とちょっと豪華なケーキと花束をプレゼントした。
「どうもありがとう!」
 リンネは丁寧にお礼を言い、博季もニコッとした。
「また魔法学校でお会いしましょう」
「うん、またねー!」
 リンネは手を振って去っていった。

 喜んではくれたけれど、わりとあっさりした感じになっちゃったかなあと思いつつ、博季は自分の部屋の方に向かった。
 その途中で博季はパートナーの西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)に会った。
「あら、早かったのね」
 幽綺子はそう言ったが、理由は聞かず、続けてこう言った。
「初めてのデートですものね。女の子の気持ちを考えたら、いきなり距離をつめず、引っ張らずに、これくらいで戻るのがいいと思うわよ」
 その言葉に博季はちょっと頬を染めた。
 博季はプレゼントのお返しにキスとかをもらえたら最高なのに……思っていたのだ。
 もちろん無理だろうとは分かっていたが。
「焦っていたのかな」
 口の中でボソッとそう呟き、博季は幽綺子を見た。
 幽綺子はそんな博季に「はい」とチョコを渡し、くすっと笑った。
「デート、断られなくて良かったわね。それに女の子の気持ちを考えればいきなり距離をつめないほうが言ったけど……その方がいいわ。私にとっても、ね」
 意味ありげな言葉を残し、幽綺子は戸惑う博季を置いて先に部屋に戻っていった。


「リンネちゃんでもオトしてきなさい」
 クローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)の謎指令を受け、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)は嘆息した。
 なぜリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)なのかも分からないし、オトしてくるという指令の意味も分からない。
 それを口にするとクローディアは胸を張って答えた。
「エリオットには恋愛分が足りない。折角のバレンタインなんだからリンネちゃんでもオトしてきなさい」
 クローディアはエリオットに浮ついた話を作ろうとしていた。
 エリオットは様々な冒険に出ているのだが、その割りに人との縁が多くない。
 性格のせいもあるだろうが、知り合いばかりで、そういった縁がないので、クローディアをそれを作ろうと思ったのだ。
 リンネを選んだのはイルミンスールでも目立つ存在で、ライバルも多そうだからおもしろそうだというのがあった。
 それに。
「メリエルとデートしても全然面白くないしね」
 パートナーのメリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)と初デートじゃ悲しすぎるというわけだ。
 料理の得意なクローディアは、エリオットにバレンタインチョコを作らせ、リンネちゃんを誘いに行くよう、部屋から追い出した。

「なぜこんなことに……?」
 エリオットはそう呟きながら、リンネを探した。
 どこかにいるだろうと適当にイルミンスールの中を歩いていたら、本当にいた。
「あ、こんにちは!」
 今までも何回か顔を合わせていたことがあったので、リンネの方から挨拶してくれた。
「こんにちは」
 そう返したエリオットだが……その後が出てこない。
「あ〜エリオットくん、あれ、なんて誘えばいいか分からないんだね……」
 デートに行くならば、それなりの誘いの言葉が必要だ。
 しかし、頭の良いエリオットだが、あまり恋愛的なことはその頭の辞書に書き込まれていない。
「リンネちゃんは可愛いし、性格悪じゃないから嫌いにはなれないけど、でも……」
 このままデート誘うの失敗しちゃえばいいのにと思いながら、メリエルは2人を見つめた。
 だが、ここで引き下がってはダメであると思ったエリオットは思考を振り絞って言った。
「現在、ツァンダ商業組合が、公園をライトアップし、イルミネーションをつけているそうだ。それらと同じことを光術で出来るか見て調べたい。一緒に来ないか?」
 それはもうデートの誘いでもない気がするのだが、リンネは快く頷いた。
 
 リンネとエリオットは公園に行った。
 が。
 来てはみたものの、その後が続かない。
(こういうときは周りを参考にだな……)
 そう思ったエリオットだが、周囲を見ると、彼氏にチョコを「あーん」とあげている女の子や、彼女を後ろから抱きしめてべたべたしながら話している男の子などが目に入った。
(こ、ここは公園だというのに場違いな……いや、今日はバレンタインなわけで……私がむしろ場違いなのか?」
 エリオットとリンネは一応男女なのに、手を繋ぎも腕を組みもしないで歩いている。
(周囲に合わせるならばそれらしい行動をするべきか? いや、そういうことはやろうと思ってやることではなく、想いゆえの行動が大事なのであって……)
 いっそのこと公園にモンスターでもわいて、リンネと一緒に倒すとかになってくれたほうが気楽なのではないかとさえ、エリオットは思い始めていた。
「どうかした?」
 ひょいっとリンネに覗き込まれ、エリオットは驚きながら何か言おうと話題を探した。
「あ、え、ええと、手土産を持ってきたのだ。パートナーに教わって作ったのだが……」
 リンネはそれを受け取り、笑顔を見せた。
「わあ、ありがとう!」
 料理はあまりしないエリオットだが、言われたとおりに作ったので、それなりの味になっているだろうとは思っていた。
 そのまま二人は公園を一周し、イルミンスールへと戻った。

「これじゃ『デート上映会』にもならないわね」 
 メリエルが取ってきた動画を見て、クローディアは肩を竦めた。
 学校で声をかけて、2人で出かけて、公園を一周して帰ってきているだけの映像なのだ。
「せめて空飛ぶ箒に二人乗りしてみるとか、気の効いたこと言うとか……」
「仕方ないだろう、こんなこと初めてなんだから」
 エリオットは不満そうに言ったが、デートと言っても何もおきなかったことにメリエルは上機嫌だった。
「……ま、いっか」
 一応、エリオットにも良いことがあった。
 帰る間際、リンネが「こうやって友達と出かけるバレンタインもいいよね!」と言ってくれてたのだ。
 どうやら友達と思われているらしいと、エリオットはちょっとうれしかった。